つかまえた 微かに聞こえる水音で目が醒めた。
何の音だ、雨? いや、シャワー? なぜ? 浴室から? 聞こえるはずが……。
寝ぼけた頭が冴えた。こんな事をするのは奴しかいない。ベッドから跳ね起き、浴室へ駆け出す。
「またおまえか!!」
「やーん! えっち! 覗かれちゃったあ」
「勝手に人の家に……浴室のドアを閉めろ! 水浸しになる!」
「出てけとか言わないんだあ……えへへうれし……。てか、セキュリティザコすぎ♡ こんなとこ引っ越したほうがいいよお〜刑事さん」
引っ越すも何も━━。
「対象にも割れてるよここ」
「! クソッ、やけに動きがないと」
「移動先、教えてあげよっか? オレ何箇所かアテあるよ。だから」
シャワー浴びてたの。
マゼンタピンクの瞳があやしく細められ、濡れた体が寄せられる。足元には浴室から漏れた水溜り。そして僕と交替で見張りをしていた部下が横たわっていた。一瞬肝が冷えたが無駄な殺しはしない筈だ。僕の視線に気づいた犯罪者は耳元で笑う。
「だいじょーぶ、このおじさんは眠ってるだけだから。邪魔入んないよ」
「おまえの力は借りない」
「取引だよお。情報プラス、おじさんの命助けたげるね! お得でしょ? えへへ、刑事さんだけ特別だよ! なんとぉ、今ならぁ〜……即ハメ♡できますっ!」
「……あのな……」
「急がないと飛ばれちゃうよー時間もったいないでしょ? シながら話そ♡」
気を失っている部下の頸動脈には、虫のようなものが止まっている。急所から動く気配はない。万が一、“爆発でもしたら”無事では済まないだろう。人質を取られた僕は従うしかなかった。こんな方法は使いたくないんだが。
***
「ちょ、ちょ、ぁ゙っ!? む、むりっ、何!? やっ、し、しんじゃう!」
「死ぬわけ、ないだろっ、」
「ぉ゙♡ だ、だめぇ! イッ、イッてる! や、やだやだっ♡ おかしく、なるってえ!」
***
「━━み、た、い、な、さ〜〜!! 張り込み中に強請ってきたオレのこと、逆に刑事さんがめちゃくちゃ抱き潰して吐かせるってシチュどお? ロマンじゃない!? わーん! オレ、刑事さんのちんぽに『負けたい』よお〜〜!!」
「…………」
勝ったことあるか?
と言いかけて、代わりにため息をついた。ギャンギャン喚く“元”爆弾魔は、現在僕の家で保護されている。彼が熱く語った話と似たような場面は過去に何度かあったような気もするが、張り込み中に対象と部下を放置して馬鹿げた真似をするわけがないだろう。ない、なかった、うん。過去のことは忘れました。
「ね、『負けたい』な……?」
目の前の男はあざとい表情で僕のシャツを引っ張ってくる。かわいらしい顔立ちで誘惑されても━━今は、捜査中でもなければ対象もいない。ここは僕の家でさらにはベッドの上で、甘い声で媚びてくる彼の誘いに乗っても何の罪にも問われない。憎らしい身体を優しく押し倒し、唇を重ねた。
「んっ……、んもー、何か言ってよ、オレばっかおしゃべりしてるじゃん。刑事さんの声も聞きたいよ」
「喋るだけでいいのか?」
「えー? シながら話そ♡」
紆余曲折有りまくったけれど、この男をやっと捕まえることが出来たんだ。
一生逃さないようにします。
END♡