シャチョコン3 心が萎れていた。
親からの電話には小さな声で「ごめん」としか言えなかったし、久しぶりに行った学生課は担当の人が変わっていた。部の後輩は髪の色も変わってて、オレの同級生は卒業していた。
その日、オレの職業は大学生からコンビニ店員になった。
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コンビニだけで生活できるわけもなく、早朝に工場、昼間ガソスタも入ってる。コンビニは夕方~夜。たまに深夜~早朝も入る。大学の時に始めたバイトだから辞めづらくて続けてしまっているけど、きっと、もっと時給が高いバイトもあるんだろうな。それでも今は毎日一人で生きることが大事。これ以上親や家族に迷惑はかけられない。
「うん……うん。元気にしてる。姉ちゃんにもよろしく……ちゃんと食べてるよ。一人で生活できてるから大丈夫! じゃあまた連絡する」
実家からの電話は後ろめたさで辛くなる。そして不安になる。これでよかったのかと。
夢が潰えた時に出会ったのは、PCで遊べる無料のゲームだった。レポートを書くために購入していた安いノートだったけど、ゲームは苦しい時間をやわらげてくれた。誰かに助けてほしいって言えないオレの弱さを受け止めてくれた。それ以来、自由な時間はゲームに使うようになり、貯めたお金は機材に消えた。コツをつかむとFPSやPvPのジャンルでもソロで上位にランクできたりもして、昔夢見た全国(というかワールドかな)優勝したいってささやかな願いも出来てしまった。
オレがキャプテンで、頼れる固定がほしい。そんな矢先にYUKIさんと出会ったんだ。
『……ない! momo! 危ない!』
「えっ」
***
『momoくん、今日は珍しいね。調子悪いの?』
「わぁ~~すみません! ちょっとぼーっとしてて! 今日のオレ、ミス多いですよね。でも、YUKIさん凄かったです! あんな遠くからヘッショ当てられるなんて! 超~神エイム! イケメンだ~!」
『っくく、褒めすぎ。でもありがと。momoくんの危機は救えたけど結局負けちゃったね』
「ありがとうございます! YUKIさん、勘がいいですよね。どんどん上手くなってるもん。YUKIさんが後衛に居てくれると動きやすいなって思います。さっきのマップも、位置取りとタイミング最高でした!」
『わかった。次も意識してみるね』
YUKIさんと組んでる時に考え事するなんて、もったいない。直前に母さんから電話かかってきたりするから動揺しちゃうんだ。それにしても。
「YUKIさんて実はゲーマーだったりしますか? このゲームに慣れてないだけで、上達早すぎますもん」
『そんな事ないよ。momoくんが教えるの上手いから。早く上達したくて』
(こういうところがかわいいんだよな)
YUKIさんの透明感がある声に微笑む雰囲気がして、オレもにんまりしてしまった。YUKIさん、大人なのに褒められるとちょっと得意気になって、そしてちゃんと伸びる人だ。同じミスは二回しない──
『わっ! momoくん! 助けて! 落ちた!』
<YUKIが救助を要請しています>
「あはは! もぉ! なんでだよぉ~! すぐ行きます!」
こういうかわいいミスは直ってくれないの、逆に反則じゃない? なんて不思議な人なんだろう!
YUKIさんとこれからも遊びたい。きっと、楽しい予感しかしない。現実がちょっぴりクソだから、仮想世界で幸せ見つけてもいいよね。
***
<あ、そうだ! YUKIさん、今日オレのことモモって呼んでくれましたよね くんいらないですよ! 今度からモモって呼んでください٩(´꒳`)۶>
「うわ……」
momoくん気づいてたんだ。慌てて声出た時に呼び捨てにしちゃったの。アルファベット表記でもかわいいと思ったけど、カタカナ? カタカナなんて、もっとかわいいじゃないか。まるで犬か猫か小動物みたいで。
「うわ……僕、ダメかも……」
頭を抱えながら平静を装って返信した。
<わかった。モモ、おやすみ。僕のこともユキでいいよ。敬語もいらないから、もっと仲良くしよう>