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    sofi9617

    i7 楽ヤマ、龍ナギ、悠虎etc

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    sofi9617

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    今年の書き納め。寅年に悠虎本を出せた記念に『金盞花を刻む』の後日談です。
    皆様今年は大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
    良いお年をお迎えください!

    ##悠虎

    金盞花を刻む 後日談あの日と同じ改札に、同じ格好をした少年が立っていた。
    スマホの画面を見ている彼は俺が合図を送る前に気づいたようだ。勢い良く駆け寄ってきて、俺のサングラスを外す。驚いて固まっていると、ほっとしたように眉を下げて息を吐いた。
    「よかった、今日は隈できてない」
    「……もう大丈夫だって言っただろ」
    文句の一つでも言ってやるつもりだったが、そんな顔をされてはとても口にできそうにない。目を逸らして悠の手にあるサングラスをかけ直した。視界が少し薄暗くなる。それでも、悠の瞳は星のように輝くのがよく見える。
    「だってあの時は大丈夫って言ってたのに全然ダメだったじゃん。ちゃんと確認しないと」
    「だからって会うたびに確認しなくてもいいだろ。トウマや巳波も不思議がってたじゃないか」
    初デートのあの日から、悠はしつこいくらい俺がちゃんと寝てるか確認するようになった。毎朝『おはよう』というラビチャの後に『よく寝た?』と続き、会えば至近距離で俺の目を凝視する。理由も言わずに始めたものだから、トウマも巳波も遠巻きに見ることしかできないようだ。悠と恋人になってから、別れる夢を見るのが嫌で寝不足だったなんて。ましてや悠とデートしているときに倒れかけたなんて言えるはずもなく、何かあったのかと尋ねられても曖昧に誤魔化すばかりだった。
    「オレだけわかってればいいの。さ、行くよ! 今日はこの前と反対方向だから」
    「……海の次は山なんて、つくづく単純な考え方だな」
    「単純でいいじゃん。この前はできなかったことさせてくれるんでしょ」
    「まあそうだけど……」
    何がしたいのか皆目見当もつかない。デート自体は中断になったが、身体を重ねるまでしたのに、いったい何ができなかったというのだろう。考え込んでいると、悠の手によってそれが中断される。右手をぐいぐいと引きながら改札へ向かう。慌ててスマホを取り出してそこにかざした。
    「逆方向だから、ここで乗り換え。この前より結構長く乗ることになるよ」
    「それならやっぱり車出した方がよかったんじゃないか?」
    「電車で行くのがいいんじゃん! クッタクタになった方が後々楽しいから」
    「そういうものなのか……?」
    相変わらずその感覚はよくわからない。けれど、あの日よりも大きい荷物を背負った悠が得意げに笑う。すぐに来た電車に乗り込みながら、弾んだ声で語り始めた。
    「そうだよ。思いっきり体動かしてからご飯食べた方が美味いし」
    「あ」
    「ん? 何?」
    「はは、いや、なんでも」
    「はあ⁉︎ 絶対なんでもなくないじゃん!」
    初デートの日も悠は同じことを言った。その後すぐ俺が倒れかけたから、外で飯は食えなかったんだったな。なんだ、そういうことか。
    「わざわざ山まで行かなくても、飯くらいいつでも連れてってやるのに」
    「……そうじゃないし……」
    「はは。お、ちょうどそこが空いてるな。座るか」
    「う、うん」
    三人がけの椅子に一つ空けて座る。大きなリュックを抱えて、そこに口元を埋めながら、小さく悠は呟いた。
    「……あそこ、プリクラあるから」
    「プリクラ……」
    「お土産屋さんが並ぶ中にちょっと古いゲーセンがあって、そこのプリクラは誰でも撮れるんだよね。前にロケ行った時見つけてさ」
    「……そうなのか」
    「うん。だから、一緒にって……思っただけ」
    そう言って顔を伏せる。耳が真っ赤だ。でも多分、俺も同じくらい赤い。俺が悠と付き合うことで降りかかる不可能がある。俺にそれを気づかせたのがプリクラだった。たかが夢で見ただけだが、女と腕を組みながら嬉しそうにプリクラを撮ったと笑う悠の姿はゾッとするほど眩しかったのを覚えている。いや、忘れられるわけがない。
    そのはずだった。
    「そうか、それは……いいな」
    席を詰めて悠のすぐ隣に移動する。リュックに埋まった頭の上へ手を置くと、少しだけ浮かせて俺を見た。真っ直ぐに見返して微笑みかける。サングラス越しでもそれがわかったようで、満足そうな笑みを浮かべて顔を上げた。
    「でしょ。ちゃんとリベンジ考えてきたんだからな!」
    そのまま俺の手を取って、リュックと悠の体の間に置く。悠の手と指を絡ませるそれは恋人繋ぎというやつだ。誰にも見えない位置で、恋人同士と主張しているようだった。
    「お弁当も作ってきたから。おにぎりだけだけど……」
    「いいじゃないか。お前の作ったやつは特別な味がするからな」
    「っ! ほんっと、虎於そういうとこ……」
    ぎゅうと手を握る力を強くして、俺に向き直る。
    「今日は最後まで付き合ってもらうから。へばんなよ」
    「今日だけなのか?」
    そう返せば、悠がなんて言うか俺は知っている。その根拠は夢なんかじゃない。ちゃんと、現実の悠と付き合って得た根拠だ。きっと悠もそれをわかっている。
    「そんなわけないじゃん。一生だからな、覚悟しとけよ」
    どこか大人びた顔で悠が言う。答える代わりに体をもたれかけると、嬉しそうに悠が目を細める。重いと彼が笑うから、支えてくれるんだろと返した。馬鹿だなあと笑うその顔が、俺はたまらなく好きなのだ。
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