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    so_fte7

    @so_fte7

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    so_fte7

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    ラキカの『ワンドロライ企画』で書いたミザカイ 途中です

    お題【雨】「ミザエル、さっさと着替えろ」

    タオルが放り投げられ、ミザエルは不貞腐れたような顔で一瞬躊躇ったような仕草で握り締めていたが、しぶしぶといった感じに頭を乱暴に拭き出した。

    突然の夕立ほど嫌なものはないな、と。
    隣で同じくコートを脱ぎ絞っているカイトのひとり言に「そうだな」と相槌を打ちながら、滴る水をやっとのことで片づけたミザエルは髪の毛を纏めその場で上着を脱ぎだした。
    折角クリーニングに出した(出して貰った)制服の皺も殆ど形が生きていない。
    学校に通いだしたミザエルの生活管理のあらゆるところにカイトが介入というか、ほぼ親さながらに、毎回これはこうしろだの、衣類はハンガーを使えだの。
    カイトの機嫌を損ねてしまうのはそれこそ面倒ごとが多いので、あと、怒ったカイトも嫌いではないが、せっかくだからもっと多くの表情が見たいのが本音だ。
    どうすればいいのかを手探りで考えながらも、大抵は失敗し、それでも一つ一つの日々を共に過ごしている間に、ミザエルとカイトの間には積み重なった時間による理解が生まれていた。
    玄関先でぱん、と上着を勢いよく振るえば飛んだ水滴がきらきらと太陽の光を浴びて煌めく。
    こういった景色は好きだが、濡れるのは御免だ。と。
    「乾燥機に突っ込んでおけ。ああ、ネットに入れるのと……」
    「色物は分けろだろう。耳にタコが出来る程聞いた」
    「ならいい」
    偉いな、としっとりと濡れたままの頭を撫で繰り回されたが、嬉しいような、子供扱いされているような。
    ムッとしたミザエルだったが、でも褒められた嬉しさがどんどん湧いてきて、当たり前だと胸を張れば早く着替えろと次の言葉が飛んできた。
    だから可愛げがないのだこの天城カイトという人間は。


    少しばかり用事がある、とカイトに付き合わされたのはカードショップを覗いてみたいという昨晩の一言。
    ヌメロンコード後、色々なものが変わってしまった。
    勿論、光子も居なければタキオンも居ない。しかしそれでも、我々は生を受けた。
    生きることに意味があるのかは定かではないが、それを考えるのも、考えないのも、その人物の勝手であろうし、誰が咎める命題でもない。
    涼やかな夏の夜。二人で眺めた星空の端に過る雲が少しばかり気掛かりだったが、きっとそれも見る者によっての変わる景色で。
    折角だから二人で出かけようと提案してきたのはカイトだった。
    「珍しいな」
    「オレだって外に出なければ不養生だの、またハルトに叱られるからな」
    「ハルトが言ったから動くのか貴様は……」
    「まあ、そう言うな。それに、ミザエル。お前ともまだゆっくりこの街を歩いたことがなかっただろう」
    「……学校に慣れる、というよりも人間としての生活を学ぶので精いっぱいであったからな」
    「一限目から居眠りしていたと聞いた時はどうなることかと思ったぞ」
    「そ、それはもういいだろう……」
    「ふふ」
    大方ナッシュ辺りから聞いたのだろう。
    人間の退屈な話など、とまだどこかで巣食っている思考のせいで、退屈、を身体が覚えてしまったのだろう。
    おおよそ15歳という年齢で人間として転生したからには、その生活をしなければならないのだが、どうにも、決闘ばかりしていた身に一定のルーティンを要される生活は難しく。
    最初の月は殆ど走り回るか新しい知識に頭を痛めるか、同行しているドルベやカイトを呆れさせるか、こう思いだしてみると、この私があろうことか失敗ばかりではないか!
    無意識に苛々していたのだろう。それを察知したのか、カイトが何かしてみたいことはないのかと、ふと聞いてきたことがあった。
    その問いかけが切欠だった気がする。ようやっと、自分がしたいこととは何だろうかと、目の前の一点以外のものを考えようと出来たのは。
    恐らく、カイトは私をずっと見ていて、だからこそこのタイミングで声をかけてきたのだろうと、それに気が付けたのも星空を眺めて互いにおやすみと声をかけあい、布団で思考を巡らせていた時だ。
    そうか、きっと、こいつは私が欲しい言葉を、もっと知っているのかもしれない。
    理解したが以来、随分と私はカイトの面影を追いかけは手繰り寄せたがるようになってしまったな、と。
    月明かりが淡く照らす天井に翳していた手のひらをゆるりと握りしめてから、今更になって人間じみたな、と。
    この心の温もりを忘れないようにしていきたいと、そしてもっとカイトと共に歩きたいと、気が付いたのもきっとこの時だったのだろう。

    カードショップを覗いた時は、とくにこれといったものを買ったわけではなかったが、今までドラゴン達との絆を信じていたがゆえに、こうして見ると多くのモンスターに歩み寄ろうとする決闘者が多いのだと。
    今更大きく変える必要もないとはおもったが、エースであるタキオンが居ないというのは、やはりどこか寂しさを感じ。
    カイトが会計をしているのを遠目に、ひとつカードを手に取ってみたが、静かに戻した。
    「いいのか」
    「……ああ、縁というのもあるからな」
    「そうか」
    言葉は多くなくとも、カイトとミザエルにはこれで丁度いいのだ。
    ミザエルも、縁や絆、そういったものを信じている、というよりも、思い出した過去による記憶を勝手に無碍にしてはならないと。
    まだ整頓がし切れていないのだ。しかしそれを急ぐ理由もないのだと。
    途中、服屋を通りがかった時に「あれはミザエルでも着れるのではないか」「少し色が派手過ぎないか?」「お前らしいじゃないか」「何ィ!」などと。
    他愛無い話をして、笑い合ったときに、ああ、そうだ。これでいいのだと。
    友と遊ぶ、ということを学ぶのではなく、生きていく上で知るというのはこういうことなのだなと嬉しかった。

    夏の天気というのは変わりやすい。
    ぽつり、と頬に当たる滴と雲行きに先に気が付いたのはミザエルだった。
    前世の頃の生きた知恵が働いたのか、それとも体質なのだろうか。
    「夕立か?」
    天を突き抜ける青を覆うように、暗雲が立ち込めている。
    「よくあることだが、タイミングがあまりよくないな」
    「まあ、走って帰れば間に合―――」
    言うよりも早く、ザアザアと音を立てバケツをひっくり返したような大雨が注ぎ始める。
    薄手の制服上着一枚なミザエルは、白い生地が透けてぺったりと張り付いているし、この夏でもいつもと変わらぬコートを羽織っていたカイトは猶更水分を吸い込んだ衣類が重そうで。
    「……帰るか」
    「……ああ」
    何とも言えない空気の中、もはや走って帰るのも億劫になってしまった二人は唐突な雨に睨みを利かせたが、天気は人間のことなど気にも留めないのだ。
    すでに雨が上がっていると思われる遠い空で輝いてる虹が、余計に憎く思える。


    「ところで、貴様の目的は果たせたのか?」
    制服のズボンもハンガーにかけ直し、乾くまでの間ルームウェア代わりにカイトのズボンを借りる。
    僅かに腰回りが狭い気がしたがきっと気のせいだ。カイトが細すぎるのだと、一瞬自らの腹を摘まんだのは内緒だ。
    「ああ、大した用事でもなかったからな」
    「では今日でなくても良かったのでは……」
    「まあ、後で教えるから待て。明日は休みだろう」
    当たり前のように交わされる約束だが、ミザエルはこれが好きだった。明日という予定を組む、というのも今まで得たことのない日常の希望。
    心弾むのを悟られぬように、そうだな、と返せばじっとカイトに見つめられたのでどうしたと目配せすれば、ふと笑み返された。

    「ようやく笑ったな」

    頬の端をつつき、カイトが安堵の笑みを浮かべていた。
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