緩やかに意識が覚醒すると同時に、頬に擽ったい感触を覚える。
ゆっくり像を結んだ瞳をその方へ動かすと、視界の端に小さく動く影のようなものを捉えた。
その正体を寝起きの頭で思案して、とある小動物の可能性に行き着く。
先輩が大切に飼っているハムスターは、確かに以前もケージを脱走しては部屋の中を探し回る事態になったこともあった。
しかしその先輩は既にこの部屋を去り、ここから離れた別の棟の部屋へと移ってしまっているのでその可能性は考えにくいだろうか。
探るように影を捉えた方角へ左手を伸ばすと、柔らかな感触が手の内に触れる。
そのまま反射的に握り込めば、どうやら捕まえる事に成功したらしい。
そのまま逃げ出さないように右手も添えて包み込むようにして、その手を目の前へと戻す。
指の間から様子を伺うと、まず目に飛び込んできたのは肌色の布地。
その上から縫い付けられているのだろう緑がかった生地の隙間から、丸い瞳がこちらを見ていた。
その姿かたちは明らかにマスコットやぬいぐるみの類のものだが、刺繍で縫い付けられたように見える茶色の目から明らかに視線を感じるのだ。
そしてこの手の中から出たいのだろう、体を揺らして抵抗しようとする感触を確かに覚える。
逃げないように指先だけで摘むように持ち替えて、その姿をじっくりと見てみることにする。
まさにハムスターと同じ位の手乗りサイズのそれは、小さな円筒状のような些か奇妙な形をしている。手足は側面からそれぞれ二本ずつ生えているようで、摘まれて浮いている今は手を離したら飛んでいってしまうのではないかという程の勢いで激しく上下に暴れて宙を切っている。
「お前は……何だ……?」
そう思わず呟いた声に、小さくモチィという高い音が何処からか返ってきた。