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    のくたの諸々倉庫

    推しカプはいいぞ。

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    POIPOI 57

    鍾タル

     果たしてかみさまを愛してしまった、ということ以上の驚きが、この世界にあるのだろうかと考えたことがある。
    「おはよう、公子殿。どうしたんだ、そんな顔して」
    「……なんでもないよ、おはよう先生。朝ごはんできてるよ」
    「む、助かる。ありがとう、公子殿」
     けれど今、公子ことタルタリヤがその疑問に答えるとするならば「案外ある」だろう。何せ自分と同じくらいの背格好だったかみさま──鍾離の身長は今、その頃に比べて大分縮んでいた。
    (ほんと、人外っていうのはよく分からないよ)
     小さくなった手でもなお箸を使いこなし、タルタリヤの作った料理を幸せそうに頬張る姿は確かに、子供が好きなタルタリヤからすれば微笑ましいものだっただろう。だがそれはこの少年が鍾離ではない、という前提でのみ起こる思考であり。かつての恋人がそうなっている、なんて現実を受け止め切れていないタルタリヤは、ひっそりと息をつくばかりだった。
     ──仮初のものでこそあれ、朝の光が洞天内を照らす。鍾離がこうなってしまってからしばらく、タルタリヤはこの世界から出ていない。そして彼に世話されている鍾離もまた、塵歌壺の中でのんびりと暮らしている。
     事の経緯はこうだ。ある日唐突に現れた鍾離そっくりの少年に、「先生の隠し子?」と近付いたタルタリヤは「お前が公子殿か」と声をかけられる。そして少年が語ったのは、人間には想像もつかないような話だった。

    「この世界における神、という点でいうなら、俺はお前たちからすればとても万能な存在に見えるだろう」
    「しかし俺たちが足をつけているこの地がなければ、そもそもこうやって文明が築かれることはなかった。それほどまでに、世界というものの存在と持ちうる権限は大きい」
    「簡単に言うなら、『鍾離』としての体に活動限界が来た。そのため記憶のリセットと共に、しばしの間少年の姿へと戻る」

     いやそもそもあんたらに少年期なんてあるの? という問いは「体積が小さければ消費する力も少なくて済むだろう」と完封され。「簡単に言うなら」と言われてもうまく理解できない事実と共に、タルタリヤは恋人が死んだことを知った。

    「……今日は何して過ごす、先生」
     ショックだった、というのも間違いではない。鍾離が見聞きしたものとしての記憶は失われ、それら全ては事実として記録としてのみこの少年に残っている。つまりこの鍾離にはタルタリヤと恋仲であった、という知識こそあれ実感も記憶もない。そんな状態の二人に壺の貸し出しを提案したのは旅人で、それを受け入れ始まった共同生活も今日で一週間だ。
     諸々の手続きはきちんと済ませてきたし、鍾離もまた不満はないというのだから問題はない。けれどどこかで吐き気のようにくすぶっている、もやもやしたものをタルタリヤは消化できないでいる。
    「そうだな、のんびり昼寝でもするか」
    「はは、先生そればっかり。でもいいよ、まだ色々馴染んでないんでしょ」
    「ああ、しばし胸を借りる……」
     草原に寝ころんですぐ、タルタリヤにくっついて眠り始めた鍾離を、見つめる視線は無感情なものだった。見た目は確かに鍾離だが、以前のタルタリヤと過ごしていた鍾離はどこにもいない。
    (……神様として「死ぬ」んなら、凡人としての寿命も考えといてほしかったよ)
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    のくたの諸々倉庫

    DONEいずれ永遠へとつながる奇跡/鍾タル人というものは不変の日常に、「いつもと同じ」であることに安堵しながらも、望む以上を与えられれば絶望する生き物だと聞いた。
    「おはよう先生、元気してる?」
    「……ああ、公子殿か。そうだな、健康状態が良好かどうか……という意味でなら、おそらく元気であるだろうよ」
    「はは、どうしたのその言い方。まるで心は元気じゃない、みたいに言ってるように聞こえるけど」
     俺の部屋を訪ねるなり、ソファにどっかりと腰を下ろした公子殿。人好きのする笑顔を浮かべ、けれど深海のように濁る瞳で──しばし思案の海に沈む俺を、「先生?」と不思議そうに呼んだ。
    「どうしたのさ、本当は体調悪いんじゃないの?」
    「……お前たちが異常だと、病的だと呼ぶ事柄について……少し考えを巡らせていた」
    「へえ、例えば?」
    「例えば……そうだな、公子殿はもし今この瞬間から、その身が不老の存在になったとしたならばどうする?」
    「難しい質問だねえ……まあそれが誰に言われたか、どんな瞬間にどのように言われたかでも信じるか信じないかは変わるね。不老かどうかなんてさ、そこそこ時間が経たないと分からないだろうし……というかそこ、不死はつけなくていいの? 1804