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    のくたの諸々倉庫

    推しカプはいいぞ。

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    鍾タル

     果たしてかみさまを愛してしまった、ということ以上の驚きが、この世界にあるのだろうかと考えたことがある。
    「おはよう、公子殿。どうしたんだ、そんな顔して」
    「……なんでもないよ、おはよう先生。朝ごはんできてるよ」
    「む、助かる。ありがとう、公子殿」
     けれど今、公子ことタルタリヤがその疑問に答えるとするならば「案外ある」だろう。何せ自分と同じくらいの背格好だったかみさま──鍾離の身長は今、その頃に比べて大分縮んでいた。
    (ほんと、人外っていうのはよく分からないよ)
     小さくなった手でもなお箸を使いこなし、タルタリヤの作った料理を幸せそうに頬張る姿は確かに、子供が好きなタルタリヤからすれば微笑ましいものだっただろう。だがそれはこの少年が鍾離ではない、という前提でのみ起こる思考であり。かつての恋人がそうなっている、なんて現実を受け止め切れていないタルタリヤは、ひっそりと息をつくばかりだった。
     ──仮初のものでこそあれ、朝の光が洞天内を照らす。鍾離がこうなってしまってからしばらく、タルタリヤはこの世界から出ていない。そして彼に世話されている鍾離もまた、塵歌壺の中でのんびりと暮らしている。
     事の経緯はこうだ。ある日唐突に現れた鍾離そっくりの少年に、「先生の隠し子?」と近付いたタルタリヤは「お前が公子殿か」と声をかけられる。そして少年が語ったのは、人間には想像もつかないような話だった。

    「この世界における神、という点でいうなら、俺はお前たちからすればとても万能な存在に見えるだろう」
    「しかし俺たちが足をつけているこの地がなければ、そもそもこうやって文明が築かれることはなかった。それほどまでに、世界というものの存在と持ちうる権限は大きい」
    「簡単に言うなら、『鍾離』としての体に活動限界が来た。そのため記憶のリセットと共に、しばしの間少年の姿へと戻る」

     いやそもそもあんたらに少年期なんてあるの? という問いは「体積が小さければ消費する力も少なくて済むだろう」と完封され。「簡単に言うなら」と言われてもうまく理解できない事実と共に、タルタリヤは恋人が死んだことを知った。

    「……今日は何して過ごす、先生」
     ショックだった、というのも間違いではない。鍾離が見聞きしたものとしての記憶は失われ、それら全ては事実として記録としてのみこの少年に残っている。つまりこの鍾離にはタルタリヤと恋仲であった、という知識こそあれ実感も記憶もない。そんな状態の二人に壺の貸し出しを提案したのは旅人で、それを受け入れ始まった共同生活も今日で一週間だ。
     諸々の手続きはきちんと済ませてきたし、鍾離もまた不満はないというのだから問題はない。けれどどこかで吐き気のようにくすぶっている、もやもやしたものをタルタリヤは消化できないでいる。
    「そうだな、のんびり昼寝でもするか」
    「はは、先生そればっかり。でもいいよ、まだ色々馴染んでないんでしょ」
    「ああ、しばし胸を借りる……」
     草原に寝ころんですぐ、タルタリヤにくっついて眠り始めた鍾離を、見つめる視線は無感情なものだった。見た目は確かに鍾離だが、以前のタルタリヤと過ごしていた鍾離はどこにもいない。
    (……神様として「死ぬ」んなら、凡人としての寿命も考えといてほしかったよ)
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    makulakamakula

    DONEクリスマスだってのにバレンタインネタ(書きたかったから)
    勢いで書いたので誤字脱字はご容赦下さい。

    パスワードについては次の問題の解答(数字のみ)となっております。

    ガイアくんがラグヴィンド家から家出して毎分80mで歩いて行った。ディルックおにいちゃんがそれに気づき5分後に毎分100mで追いかけた。
    ディルックおにいちゃんがガイアくんに追いつくのはディルックおにいちゃんが出た何分後か。
    薔薇の秘密 温暖な気候とはいえ二月のモンドは寒い。
     ここ数週間でモンドでは風邪が流行し、そしてそれは、西風騎士団も例外ではなかった――

     体がだるいような気がする。
    ただの疲労とは違う気怠さを自覚しつつ、騎兵隊長ガイアは一人黙々とペンを走らせていた。流行り風邪のせいで執務室から一人、また一人と騎士団員が姿を消し、常に人手の足りない西風騎士団は今なら本気で猫の手を借りたいほどに忙しい。何なら今からキャッツテールに行って仔猫を借してくれとお願いするのも有りかもしれない。誰かさんが常日頃から『騎士団は仕事の効率が悪い』と毒づいていたが、いやこれはほんとにまったく、その通りだとしか言いようのないくらい、効率が悪い。
     ふいに目元が霞んで顔を顰めた。ペンを置いて目頭を揉み解すも、数日ベッドで寝た記憶の無い体にはもはや何の効果もない。眠気覚ましにとノエルが淹れてくれた紅茶もすっかり冷たくなり、これはこれでまぁ眠気覚ましと言えるかもしれない。
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    nonsugar _299

    PROGRESS鍾タル前提モブ→タルの、導入
    名前が決まってません、仮置きとして@が入れてあります
    未定 なぜ船乗りたちは北極星を目印にするのだろうか? そんなの決まっている。「そこにあるから」だ。何があろうと変わらずあり続けるもの。信じるに値する求心力。何もない海においての唯一の希望。信じて、ついていけば間違いないと思わせる輝き。
     では、海原での希望が北極星なら、戦場での希望はどの星に託せばいいのだろうか? 肉が抉られる恐怖、死が目前にある焦燥、生物の尊厳を許さない地獄において、希望を託すに値するものは? それはやはり、目の前にいる彼────ファデュイ執行官第11位、「公子」タルタリヤその人だろう。あどけない顔立ちに危険な深蒼が見え隠れしていて、うっかりすると吸い込まれて戻ってこられなくなるような錯覚を覚える。戦場では誰よりも勇猛果敢、猪突猛進かと思いきや相手の行動を読み適切な対処をする判断力と冷静さ。戦うために生まれてきた闘争の権化。しかし、いかに神のような権力と凡人を超えた力を持つ執行官であろうと、部下とともに美酒を楽しむこともある。その流れで恋愛相談に乗ることも、なんらおかしいことではない。
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