I love youは聞こえない / I love youは届かないあの世界の月――≪大いなる厄災≫は綺麗ではなかった。
たくさんの生物を殺し、大地を壊し、賢者の魔法使いたちに傷を与えた。
血に染まった、醜い存在。
だけど、この世界に来てからはどうだろう。
この世界の月は俺たちに危害を加えることはないし、何かを壊すこともない。
毎晩暗くなった街を照らし、人々に希望を与えている。
「あの世界で『月が綺麗だ』って言ったら、フィガロは不謹慎だと怒りましたよね」
「そりゃそうだよ。賢者様は殺人鬼を美しいと思うのってあの時も聞いたはずだけど」
「俺はそんな変わった人じゃないです」
賢者様はたまに意味不明なことを言う。
蒸し暑い時に「今日は少し肌寒いですね」とか、晴れているのに「雨、止みませんね」とか言っていた。俺が「風邪引いたの?」「大丈夫?」と声をかける度、悲しそうな顔をしていた。
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