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    川の落描き帳

    キバダンとかkbdnとかキダとか描きたい&お絵かきの手習いをしたい
    等身の高い絵は一定期間経つと非公開にします(期間はきまぐれ)

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    川の落描き帳

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    # 雨とキバダン企画に間に合わなかったお家デートする付き合いたてのキバダン話
    書いておきながらkさん繊細(幻覚)だから常に傘持ってそうだよなと心の中でつっこんでた。dは絶対持ってない(確信)

    雨がふっていたってかまわない ギュッと急旋回をしながらもオーバーランせずに着地を決められたのは、リザードンの器用さか、それともこの家に来ることに慣れてきたのか、どっちだろうかとダンデは一瞬考えた。
     しかし背後でポツポツ、ポツポツと雨音がし始めれば意識はそちらに向く。ダンデが振り向く間に、音はザーザーと重たいものになった。軒下にいるとはいえしずくの一部はウッドデッキの上で跳ね回り、ブーツを濡らす。
    「降られる前に間に合ってよかったな」
    「ばぎゅっ」
     ほんとうによかった! と言うようにリザードンは一鳴きし、早く中に入ろうと言うようにぐるぐると喉を鳴らした。その鼻先はベランダの鍵が入っている胸ポケットを探っているので、ダンデはぶつかる鼻息がこそばゆくてたまらなかった。
    「わかったって! あ、コラ押し出そうとするな! びしょ濡れになるっ」
     ほっぺすりすりからずつきの勢いに変わったため、ダンデは軒下から追い出されそうになるのをどうにか踏みとどまり、鍵を取り出してガチャッとベランダ窓を開ける。
     ライトはつけておらず、太陽も雨雲にすっぽり覆われてしまっているので、家主がいない室内は夕方にもかかわらず暗かった。
     それを気遣っているのか、リザードンはしっぽの炎を少し大きくしてダンデの足元を照らす。暗いといってもまったく見えないわけではないのだが、相棒の心配りを無駄にするわけにはいかないので、ダンデは黙ってキッチンの方向を指さした。
     ダイニングキッチンにも二箇所窓をあるが、ひとつは換気用の小窓なので光は入らず、もう一方の外側にあるすりガラスの窓は本降りになった雨がぶつかり、雨水が滝のように流れているのでやはり室内は暗い。
     リザードンの炎で足元を照らされながら、部屋の奥にある洗い場でさっと手を洗ったダンデは、濡れた手のままラジオの電源を入れた。一瞬ノイズが入ったあと、ダンデも聞いたことのあるポップスが流れる。聞いたといえど、バトルタワー内の食堂で聞いたことがあるくらいで、歌詞も曲名も知らない。
     さらに隣にある冷蔵庫からサイコソーダを取り出すと、3分の1はコップに入れ、残りはビンのままリザードンに渡した。バトルタワーからナックルシティまで、雨に当たる前に全速力で駆け抜けた彼の喉はとうに渇いていたようで、ゴッゴッと勢いよく飲み干した。同じことをダンデがすれば、冷えたソーダで頭がキーンとなるはずだ。
     ラジオの曲はすでに終盤だったようで、ダンデがコップに口をつけた頃には音楽番組も終了し、「夕方のニュースです」と切り替わった。
    「キルクスタウンから向かってくる寒気の影響により――」
     ダンデは赤いジャケットを脱いで放送を聞いていた。時折、雨が電波を遮断するせいで音が飛んだり小さくなったりしたが、雨は明日の朝まで振り続けるということはわかった。しかしピークはこの1時間ほどだという。
    「キバナのやつ、小雨になるまで帰って来ないんだろうな……」
     せっかく、だいぶ余裕を持って待ちあわせ場所である彼の家にたどり着いたというのに。
     そのつぶやきはラジオの音にも外の雨音にも負けそうな音量で、おもわずため息も漏れるほど元気がなくなっていた。

     二人は久しぶりに休みが被ったので、前日の夕食と当日にキャンプに行くことを約束し合っていた。
    「うまい赤ワインを貰ったから、肉食おうぜ」
     キバナ様特製手料理でもてなすぜ! と料理上手な彼が作る料理ととぷんと中身が揺れる黒緑色のボトルをダンデは楽しみにしていた。実際さきほどに開けた冷蔵庫には、大きな肉の塊がどんっと存在を主張していた。
     帰り際スタッフたちより「お休み、楽しんで来てください」と笑顔で言われるくらいだ。リザードンに全速力で空を駆け抜けてもらうことはもちろん、仕事を一時間早く切り上げたのはそのためである。
     美味しい料理とワイン、明日のキャンプもダンデにとっていずれも楽しみなイベントだが、電話越しでも白さが目立つ八重歯を見せて笑うキバナの存在はダンデの気持ちを高ぶらせる。
     いろんな制限があったチャンピオン時代よりバトルすることが格段に増えたが、同時に何も話さずに静かに過ごすことも増えた。沈黙が苦にならないのは、生来もの静かなダンデには居心地がいい。
     今の外のような雨でも、彼となら有意義に過ごすことができるだろうし、ただひたすら昼寝することも悪くないと思えるのだ。
     しかしそれはあくまで本人といっしょにいる時だけだ。
     この家のあらゆるものが高い位置にあることにも、少し古ぼけたラジオの存在にも、足に付いた砂を洗い場で流せるのが気に入ったという広めのベランダにも彼の気配を感じるが、肝心のキバナがいないと、彼いわく「小さい家」であるこの家も広くて寒々しい。
    「ジムの方へ行けばよかったな……」
     そう一人溢しても、先に家で待っててくれと玄関の扉とベランダの鍵の両方をくれた人もお疲れさんとダンデの頭をなでてくれる人もまだ帰って来ない。
     外の雨はますます強くなっていった。このなかで傘を差さないとみずタイプになってしまいそうなほどに。
     シュートシティの人間が傘を持たないのは有名だが、シュートよりも雨の多いナックルシティでも傘を持ち歩く者は少ない。
     ハロンのように年間通じて雨が少ないとかシュートのように降っても霧雨だからというわけでなく、ワイルドエリアから雨雲で土砂降りとなっていても彼らはレインウエアを着込んで街中を駆け抜けていくのだ。それが無理ならば雨宿りし、小雨になれば、駆けて行って、だ。
     キバナもその一人で、多少の雨くらいならあのポケモンのようなフードを目深に被って長い足を活かしたスライド走法で目的地に向かっていってしまう。
     そんなキバナのすがたをダンデが思い描いているうちに、キッチンタイマーも兼ねたデジタル時計がちょうど5時に切り替わった。専門職の意味合いが強いポケモンジムでもオフシーズンのこの日では業務終了の時間だ。しかし外は相変わらず大雨で、土砂降りと言ってもいいくらいだった。
     今頃、彼は凝り固まった体を大きく伸ばしながら窓の外を見て、雨が弱くなるのを待つかどうかを考えているのだろう。
    「……すぐにでも会えるっていうのに、なんでこんなに虚しいんだろうな」
     独り言は窓を叩きつける雨音よりか細かったのだが、ダンデのそばでダイニングテーブルに顎を乗せてリラックスしている相棒の耳はきちんとそれを拾った。
    「ぎゃう」
    「ごめんな、ため息なんか吐いて。ほんとうにもうすぐに会えるに決まっているのにな」
     今度は押しのけるのではなく、慰めるためにリザードンの鼻先はダンデの胸に当てられる。鱗でもぬくもりが感じられてダンデの心は少し和らいだ。
    「キバナからメッセージロト!」
     しかしそれも外の雨を吹き飛ばす勢いのロトムの元気な声によって途切れる。本質的におくびょうなリザードンがびっくりしないよう小さめの音量にしているのだが、それでもふいうちだったので、彼のしっぽはこころなしか縮こまっていた。
     対するロトムは、嬉しそうにゆらゆら揺れている。それはダンデも同じで、さっきまでの寂し気な表情から一転したご機嫌な様子は、トレーナーにそっくりだとリザードンは思った。
    『もう着いた?』
     キバナからの短いメッセージを見たダンデは普段の倍くらいのすばやさで「着いた」と返した。
    『返信はや その様子じゃ迷子にならず済んだんだな』
    『リザードンのおかげだ(昔のチャンピオンタイムポーズのスタンプ)』
    『何自分の手柄みたいに(爆笑するタチフサグマのスタンプ)』
    『オレとリザードンは一心同体だからな』
    『一心同体ならあと一時間はたどりつかなさそうだ』
    『ひどいな ひどいといえば雨、そっちもひどいか?』
    『あー……うん。外に出るにはちょっと厳しいな(窓に雨が流れる動画)』
     今どこだ? と尋ねたかったダンデだが、メッセージアプリ上でのやりとりだとキバナに競り負けてしまうので、話は少し回り道をする。
     キバナが送ってきた動画はナックルジムのジムリーダー執務室の窓だった。
     まるで貴族の書斎のような執務室には大きな両開きの窓があり、その先には有事の際にトップが飛び出せるようにやはり大きなバルコニーがあった。普段のキバナもそこからフライゴンの背に乗ってダンデに会いに来るのだ。
     もちろんそこから見下ろすナックルシティの街並みはすばらしい。しかしダンデに送られた映像には、窓を叩く雨によってピントがずれてぼんやりとした風景が映されていた。
    『こっちも同じくらいだぜ』
    『困ったなぁ傘持ってきてねぇから』
     やっぱりなとダンデは自分の予想が当たったことに口端を小さく持ち上げた。だがポケモン勝負で相手の戦術を見破った時のような爽快感はない。
    『走って帰りたいんだけど今日はケーキがあるからなぁ(きのみのケーキを掲げるピカチュウのスタンプ)』
    『今夜は豪勢だな! どんなケーキだ?』
    『ヒミツ。新作なんだけど、だぶんダンデも好きなやつ』
    『ますます楽しみだ! 雨すごいだろ? 迎えにいくぜ!』
     そう言うが早いかダンデは急ぎ、キバナ邸の玄関口まで走った。そのすばやい動きに、ウトウトととろけかけていたリザードンも寝ぼけて「きゅ?」とヒトカゲ時代のような高い声を出す。
     玄関には傘立て代わりの背の高い壷に、無機質なビニール傘と彼自身の瞳と同じ布張りの大きな傘が差してあった。その2本を迷わず掴んだところでキバナが叫ぶ。アプリの中で。
    『いい!』
    『いいって!』
    (両腕をクロスさせて「NO!」と叫んでいるソーナンス
    のスタンプ)
    『迷子になるから!』
    (ニャースが笑っているスタンプ……おそらく間違って押されたのだろう。すぐに消された)
     ロトムによる送信もフリック操作もすばやく正確な彼には珍しいミスに、ダンデは微笑みつつも、確実に迷子になると断言されてちょっとだけムッとした。
     その間にもキバナからのメッセージが滝のように流れていく。
    『もう実はジムから出てんだよな』
    『オレさま足長いからもう10分で着く』
    『ケーキも箱は無事』
    『走ったけど、中身も無事なはず』
    『頑張ったけどけっこう濡れた』
    『お湯溜めておいて』
     ダンデの目が追いかけている間にも次から次へとメッセージが流れていく。しかもすでにジムを出ているということはキバナの足だと5分も掛からずに到着するだろう。
     何しろ彼は足が長く、本気のスライド走法で走られたら特性にげあし持ちも逃げられないくらいすばやいのだから。
     土砂降りに近い雨も、この街のことをちょっと広い庭としか思っていない彼ならば、濡れることも最小限に済むだろう。それでも「けっこう濡れた」と言うのだから、相当濡れて震えているはずだ。
     そんな彼のためにダンデはバスルームに向かい、バスタブのコックをめいっぱい引いた。ドドドッと雨音に負けないくらいの音量で溜まっていく湯を眺めているとさらに、「今アパートの真下にいる」とメッセージが届く。
     キバナの部屋は3階にあるが、これもまた世界記録レベルの速さで駆け上がって来ることなど容易に想像できた。ならあとはバスタオルの準備だ、と洗濯機の上部にある棚から一番やわらかいものを取り出し、ダンデはふたたび玄関口に向かう。
    『オレさま熱烈なお出迎えがほしい xxx』
     その間にも送られたメッセージにダンデは「xxxとか古いな」と吹き出すしかなかった。
     今時のミニスカートだってそんな表現をしないだろう。キバナは時々、メロンやカブが目を剥くくらい古い言葉を使うことがあった。古いものと新しいものが交差するナックルシティならではなのかもしれない。
     そう思いながらダンデは扉の前でバスタオルを広げて、これから帰ってくる家主を待った。ダンデの背後ではリザードンがあくびをしながらリビングへと移動している。そのさらに後ろの窓からは未だ雨が窓を叩く音がする。
    「ただい…うわっ」
    「はは、おかえり!」
     至って普段通りに帰ってきたキバナを、ダンデは虫取り網で虫ポケモンを捕らえる要領でバスタオルを被せ、ワシワシと大袈裟すぎるくらいの力加減で雨雫を拭い去ろうとした。しかし一番水を吸っていそうな髪やフードの部分はほとんど濡れておらず、「いたいっての、このばかぢから!」とダンデを抱きすくめる腕や前身頃も濡れた感触はほとんどなかった。
    「…思ったより濡れなかったんだな」
    「傘借りたんだよ。置き傘もしてて、予備も持っていた優秀な部下のを」
    「ちょっと小さいな。それに、ふふっ、なんだかかわいいな」
    「ヌメラモデルだからな。かわいいに決まってる。これでもレディースにしちゃデカイ方なんだけどな」
     貸してもらった身で文句は言えねぇからな、と深く被ったフードとかけられたバスタオルの下でキバナは微笑む。
     その左手に持っている貸し傘は、よくこの雨に耐えられたなと思うくらいに華奢で、キバナとはヌメラモデルという色合いと模様も含めてアンバランスだった(と口に出すと某ヌメルゴンから反発を受けそうなので、ダンデは何も言わずにいた。)。そのため雨を一身に受けた傘はもちろん、キバナのユニフォームのズボンから下もびしょ濡れだった。
    「オレさまこんなんだけど、ケーキは無事だからディナーのあと楽しもうぜ。
    それよりさ――」
     雨音のリズムに合わせて歌うように言ったキバナは、傘を扉に立てかけ、雨にも濡れず潰れてもいないケーキボックスを玄関横の棚に置くと、さらに強くダンデを抱きしめた。それでも濡れてひんやりしている足元をぶつけないように気を遣っている。
    「ちょっと想定外なことが起きたけど、ちゃんとお土産付きで帰ってきたから、それ、くれる?」
     と言ってキバナは、親指でダンデの唇をそっと撫でた。その動きと種類を変えた微笑みに、ダンデの背にはあまい痺れが走る。そのしびれと薄暗い室内でも妖しく光るキバナの眼を覆い隠すように、両手で彼の顔を押しのけた。それでもきちんとキバナの唇に触れる方の掌にキスを落としたのでキバナの求める「熱烈な」出迎えを達成したつもりだった。
    「急いで帰ってきてくれたのは偉いけど、びしょ濡れで冷たいのはいやだぜ!」
     もうすぐ風呂も沸くからと顔面を叩かれて怯んだキバナの腕の中からダンデはするりと抜け出す。
    「キバナ様特製ディナーと映えるケーキ、用意してくれるんだろ?」
    「食い物優先かよ……」
    「そりゃそうさ。キミのつくる料理も、キミといっしょに食べるのもおいしいからな!」
     だから早く風呂であったまって来い、とキバナの背を押しのけるダンデの声は少し羞恥に震えながらも、雨を遠くにやってしまいそうなほど明るく、リビングで丸まっていたリザードンの耳にも届くくらい大きかった。
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