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    _aoi__925

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    学級みんなで海に行くお話。浜辺でいちゃつくディミレトが書きたかった。

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    「ん……、風が気持ちいい…」

     どこまでも続く海岸線と、晴れ渡る空に浮かぶ真っ白な雲。照りつける太陽の日差しは痛いくらいで、顔馴染みの赤毛の女商人ことアンナに「この学級の子たちはみんな北国出身で、この太陽の強さには慣れてないからこれを塗ってあげてね!」と言われ、その日焼け止めの意味をベレトは今になって理解した。

    「せんせい〜! 見てください!」
    「海岸の砂浜にたくさん貝殻が落ちてたの〜。可愛いわ〜」
    「本当だ。たくさん集めたら、リースが作れそうだな」

     アネットとメルセデスが浜辺に打ち上げられた貝殻を楽しそうに集めているのにベレトも屈んで見ると、足元に波が押し寄せる。さざっ…───寄せては返すを繰り返す波を見ていると、こういうのもたまにはいいなとらしくもなく思ってしまう。

     ベレトが受け持つ青獅子の学級は今、異界の地にある浜辺に来ていた。というのも、ベレトが赤毛の女商人であるアンナの店でいつも通りに買い出しをしていると「今はキャンペーン中で福引をやってるのー! 特賞は秘蔵のプライベートビーチにご招待!」という言葉に言われるがままにくじを引くと、ソティスの加護の賜物か見事に特賞を引いてしまった。しかしこんなものをもらっても…と、渋るベレトに噂を聞きつけた大司教レアからの許しを得るまでにそう時間は掛からなかった。

    「折角の機会です。たまには羽を伸ばし、生徒と交流を図るのもいいでしょう」

     誰もが予想もしなかった、レアからの承諾。確かに最近は毎節の課題の連続─────しかも王国領での依頼が多いせいか、王国出身の者が多い青獅子の学級の生徒達も身体面より精神面でのリフレッシュが必要だと思っていた。大司教たるレアからの許可も得たのだから、存分に楽しもうとアンナが有するプライベートビーチに来たのだが──────

    「うっわ、殿下!? ちょっとちょっと!!」
    「チッ、猪め………」

     普段とは違う色鮮やかな水着に身を包み、生徒達は各自海を満喫していた。水着の文化も無いに等しいフォドラの人間にもアンナは動揺などせず「水着のレンタルもやってますのでいかがですかー?」と彼女の商売魂にはこちらが舌を巻く程だ。それから各々気に入った水着を選んで(やっぱりそこは女子が強くて、地味な水着を選んだイングリットを無理矢理に更衣室に連れ込んでスタイリングしていたアネットとメルセデスはそれはそれは良い顔をしていた)、海を楽しんでいたのだが、なにやらベレトを呼ぶ不穏な声がした。

    「せんせー、殿下が暑さにやられましたー!」
    「なっ…!? 大丈夫か、ディミトリ」

     シルヴァンに肩を抱えられて覚束ない足取りで来る青獅子の学級の級長であるディミトリに、ベレトは慌てて駆け寄る。ビーチパラソルとシートが敷いてある場所まで彼を連れてくると寝かしつける。熱中症だろうか、濡らしたタオルや予めアンナが用意してくれた保冷剤をディミトリに渡しながらベレトは「大丈夫か?」と声をかけると、返事の代わりに小さく頷いてくる。

    「殿下〜あまり無理しないで下さいね。ただでさえアンタここに来るの乗り気じゃなかったんですから」
    「……、誰のせいだと…?」
    「あーはいはい! 先生、あとお願いしますよ」

     わかりやすく戯けるシルヴァンが撤退だと逃げていく背中に相変わらずだなと思いつつ、ディミトリに水分補給をさせなくてはと冷やしてある飲み物を用意する。これもアンナが用意してくれたもので、暑い時期にはただ水を飲めばいいのではない、失われた電解質と塩分とミネラルも一緒に補給しなくてはならないと海に入る前に言われたのだが、ひとまずそれが含まれているこの飲み物なら大丈夫らしい。

     先程味見に一口飲んでみたが、無色透明なのにほんのり甘い。そして薄味なせいかさっぱりとしていて飲みやすい。ベレトはディミトリに「水分補給できるか?」とコップを渡す。

    「……っ、すまない…先生…」
    「ゆっくり飲むんだぞ」
    「ん……」

     ディミトリを起こしてやり、ゆっくりと飲み物を飲ませてやる。先程よりは落ち着いているがまだ額や首筋に汗が浮かんでいる。風邪をひいてしまうとベレトがタオルでディミトリの首筋を拭うと、彼は驚いたのか身体を強張らせる。ベレトはディミトリに「すまない」と謝りつつも、タオルを動かす手は止めなかった。

    「せんせ……」
    「結構汗をかいているな…。拭かないと風邪をひいてしまうぞ。ただでさえ身体がこの暑さに慣れていないのだから」
    「うっ……そうだな」

     あくまで冷静なベレトに対し、ディミトリは顔を赤くして俯く。どうしたのだろうかと思うと珍しくディミトリが歯切れの悪い声でベレトを呼ぶ。

    「せ、先生の今の姿も…俺にはよく、ない…」
    「…?」

     ぐいっと手を引かれて何を言うのかと思えば。ベレトだって今はディミトリや学級の皆と一緒で水着姿だ。と言ってもいつもの外套に似た色合いのフード付きのパーカーを着ているので、それ程までに肌の露出はしていないのだが─────そうベレトは思っていても、普段の平服と比べ物にはならないらしい。ディミトリの顔を見ればわかる。そう、二人は教師と生徒という間柄でありながら恋人同士なのだ。

    「…似合わないか? 水着」
    「な、そんなことはない! とても似合っている! だ、だが…」
    「うん」
    「その…、少し……刺激が強すぎてだな……」
    「ぷっ………それ程にか?」

     戯けてみせるベレトにディミトリは真摯に応えるものだからあまり意地悪のもするのはよくないかと思うも、彼の反応はいつだって可愛らしいとさえ思ってしまう。パーカーの合わせ目をディミトリの手が引っ張り、胸元を隠す様に無言でやってくるものだからベレトは苦笑しながら慣れないジッパーを上げる。水着はフォドラでも見ないし、何より服装の文化も違う異国にいるのだと再認識する。

    「これでいいか?」
    「……すまない…」
    「構わない。日焼けをすると、肌の皮も剥けて痛いとアンナも言っていたし」

     照りつける太陽の日差しは痛いくらいで、先程アンナから説明があった通り日焼け止めを塗ったが不安になる程だ。ベレトは未だ赤い顔をするディミトリにタオルで巻いた保冷剤を手渡す。

    「首筋か脇の下に挟むといい。なるべく太い血管にあてれば、直ぐに体温も下がる」  
    「ありがとう…。それにしても詳しいな…」
    「前にマヌエラ先生に簡単な応急処置の方法を教えてもらったんだ。あとアンナにも。不足の事態に備えておく必要があるからな」

     さぁ、もう少し休んでいなさい────そうディミトリに言いながら彼の金糸を撫でる。汗のせいで少しだけ濡れてしまっているそれを撫でた瞬間、ディミトリの双眼に目を奪われる。そっと前髪をかき分け、不躾にもじっと見つめてしまった。

    「せ、せんせい…?」
    「ああ…、すまない。ディミトリの瞳は、この青空みたいに澄んでいて綺麗だなぁと思って見つめてしまった」

     感情が読み取れない声音のままベレトがそう告げるのに、ディミトリは息を呑む。するとひと呼吸遅れて彼の顔が赤く染まった。それにベレトは気づき、頬に滑らせたままの手を離そうとした瞬間だった。

    「そういう事を平気で言わないでくれ…」
    「む…、すまない。嫌だったか?」

     ぎり、生来の力の強さを隠そうともしないディミトリの手がベレトの手首を握り締める。ディミトリは顔を赤くしたまま「違う…。先生が好きだから、容姿を褒められるだけでも嬉しいし、浮かれてしまうんだ……」と告げるのに、ベレトは漸くディミトリの心情を理解する。熱が伝播してしまったかのようにベレトも頬を染めると「すまない…無意識だった」とディミトリに謝る。

     ざざ…っ…─────打ちつける波音が、二人の沈黙をかき消す。お互い顔を赤く染めたまま、無言を貫いていたが不意にディミトリがベレトの手を引き寄せる。腰に手を這わせ、ぐっと距離が縮まった。

    「………せんせいの瞳は、海の深い色と同じだな」
    「っ、ぁ……」

     軽く唇が触れ合った気がする─────ベレトかそう思った瞬間には、ディミトリとの距離が開いた。ふつふつと身体の血液が熱くなってくる。きっと浜辺にいて太陽の熱に魘されたせいだ…!───ベレトは自分自身に言い聞かせ、ディミトリの腕から逃れようと試みる。しかしゼロ距離とも呼べる程に近くなってしまっていた。ビーチパラソルで出来た日影のおかげでそれ程に暑くない筈なのに、ベレトは顔を赤く染める。

    「せんせい…、」
    「でぃみ─────っ、ん」

     頬を引き寄せられ、唇が触れ合う。まだ昼間で、しかも少し離れたところには学級の教え子達もいる。楽しそうな声が響くのにベレトは冷静な頭でそう考えるも、茹だる思考に靄がかかる。このままではディミトリのペースに呑まれる…!────ベレトがその身体を突っぱねようと力を込めた時だった。

    「ぁ、あつい……、」
    「っ、ディミトリ!?」

     がくんとベレトの身体にもたれ掛かるディミトリを受け止める。歳下とはいえ、自分より身長のある男にもたれ掛かられてはひとたまりもない。ベレトはディミトリの身体を抱きしめると、再びシートに寝かしつける。

    「……えっと、飲むか?」
    「す、すまない…。調子に乗り過ぎた……」
    「……ん、」

     水分補給用の飲み物のコップをディミトリに見せると、彼は喉が乾いているのか素直に手を伸ばす。しかしまた起きないと飲む事は出来ない。ベレトはディミトリが伸ばした手を取ると、そのコップの中身を自身の口に含む。ディミトリはベレトに手を握り締められた理由がわからずにいると、ぼやける視界に迫り来るベレトの顔。

    「っ、ふ……、ぇ………?」
    「………仕返し」

     つぅ、唇の端から流れ落ちる透明な液体をベレトの親指が拭う。ディミトリは口移しでベレトから飲み物を与えられた事に気づくと、声にならない叫びを発していた。しかしベレトは気恥ずかしさからか、ディミトリから視線を逸らすと立ち上がる。

    「…どれ、俺もちょっと海を楽しもうかな」

     遠くからアッシュがベレトを呼んでいる。一緒に釣りをする約束をしていたとベレトが告げれば、途端にディミトリは眉を下げる。

    「……行くのか、せんせい……?」
    「ふふ、大丈夫。お前はゆっくり休んでて」
    「っ、でも……」

     急に子供の様に甘えた声を発するディミトリに、ベレトは微笑むと熱がひかないディミトリの頬を優しく撫でる。そしてそのまま、「直ぐに戻るから」と言い聞かせられる。

    「昼間は皆とも平等に接しないと、この交流の意味がない。だけだ夜なら……」
    「え……?」
    「夜なら涼しいから、また一緒に来よう。今日は夜も晴れているからきっと、きれいな星空が見れるぞ。夜の海もまた、楽しもうな…ディミトリ」

     さざっ……──────打ちつける波の音と、ベレトの声が重なる。今日は一晩泊まりも兼ねている。ベレトの言葉の意味を理解するとディミトリは顔を隠し、「約束だからなっ…」とぶっきらぼうに返事をする。その声に「もちろんだよ」とベレトが答えると、また優しく頭を撫でられた。


    「……殿下、お加減は如何ですか」

     ベレトと入れ違いでやってきたドゥドゥーが、ディミトリを心配そうに見つめる。彼は寝転んだまま「ここは暑いが、こういうのはたまにわるくない……」と口走るのに気の利く従者は目を瞬かせた。






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    sika_blue_L

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