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    お互い両想いなんだけど、それを告げずにでも行為=好意(感情)を無意識にぶつけているだけのお話。ディミレト風味の先生視点。

    イメソン「君に花を、君に星を」

    #





    ───────大切な君の為に、心をこめて送りたい。



    「大司教猊下。こちらでよろしいでしょうか?」
    「ああ…、すごく素敵だ。ありがとう」

     渡された花のアレンジメントを受け取り、ベレトは修道女に礼を言う。綺麗にアレンジメントされたその花達は、ベレトが教師時代と変わらずに温室で育てていたものだ。咲き頃を数日後に控えた花を、修道女に贈り物用にアレンジメントしてくれないかと頼んだのだ。受け取ったアレンジメントに更に綺麗に飾り付けをし、最後にブルーのリボンをかけると満足気な笑みを浮かべた。

    「最後に魔力を注いで……。よし、こんなものか」

     花の寿命が少しでも長く伸びるように特殊な魔法をかける。通常の花より美しく花開く時期を楽しむ事が出来るのは、教え子であるアネットが白魔法の応用で考えた魔法だと前に教えてもらったものだ。瑞々しさを残し、綺麗に飾り付けられた花を見てベレトはまた笑顔になる。

     明日、ベレトは教え子であり現在の統一されたフォドラの国王であるディミトリのいる王都フェルディアへと出立する。セイロス教会の定期視察で、西方教会の監査指導や孤児院の視察、教説など大司教として様々な職務がある為だ。だがそれはそれとして、久しぶりに教え子であるディミトリに会う事が出来る。ベレトと言えど、楽しみなのには変わりがない。現に今回も飽きもせず、彼への贈り物の花を用意したくらいなのだから。

    「喜んでもらえるかな…」

     ベレトの言葉は、静かな執務室に響いた。



    ✽✽✽



     ガルグ=マクを出立して3日目、ようやく王都フェルディアに到着した。道中様々な町や村に寄りながらだったせいもあり、少しだけ遅れてしまったが想定の範囲内だ。

     護衛に着いてくれたイングリットの天馬騎士団に礼を言い、先ずは無事に到着した事に安堵する。王城に着くと早々にギルベルトに出迎えられ「陛下は公務で出迎えが出来ずに申し訳無いと仰っておりました」と伝言を伝えられた。それに対してベレトはわかっていた事なので、笑顔で「ありがとうございます。お気持ちだけで嬉しいです」と応えた。

     初老の騎士は慈しむ様なベレトの笑みに、つられて笑うも「ベレト殿…、いえ、大司教猊下は相変わらずですね」と言われてしまい、その言葉の意味を理解出来なかった。

     それからは城下にある修道院と併設されている孤児院に行き、子供達と一緒に遊んだり民衆の悩み事を聞いたりと忙しなく動いた。行く先々で「大司教様」と呼ばれる度にベレトは笑顔で人々に接した。全く苦ではないと聞かれれば答えは否だが、この道を選んだからにはそれを全うする責任がある。

     ベレトが大司教代理から大司教に就任した一番の理由が「国王になったディミトリを、一番近い立場で支える事が出来る」からであった。彼の為に自分は生きているのだとベレトは思っている。どれほど時が経とうと、ベレトはディミトリの良き理解者でいたいというだけの理由だった。



    「せ…、大司教猊下。長旅お疲れ様でした。わざわざ御足労いただいて申し訳無いです」
    「此方も公務ですのでお気になさらないで下さい、国王陛下」

     ディミトリとベレトが再会出来たのは夕刻を過ぎた頃だった。黄昏時の空を窓越しに眺めていたら不意に部屋をノックする音。続いて国王の従者の声にくすりと笑った時、彼はベレトの部屋に現れた。部屋にはベレト以外は誰もいなかったが、ディミトリは数人の騎士達を引き連れていたのかベレトの前でも王の顔で現れた。それがたまらなく可笑しくて笑いそうになってしまうが、彼の為にも頑張って堪える。

    「陛下、猊下。夕餉の用意が出来次第、また伺います」
    「ああ、ありがとう」
    「ドゥドゥー、また後で」
    「…はい」

     ひらひらと国王の従者こと元教え子のドゥドゥーに手を振るベレトは、どこか満足気な笑みを浮かべている。彼は少し苦笑していたがベレトは気にしない。ぱたん、部屋のドアが締まるとふぅ…とディミトリが息を吐く。それに可笑しくて噴き出してしまうと流石のディミトリも拗ねたような口調で「そんなに笑うな」と言う。

    「ふふ、すまない…。相変わらずだなっと思ったら、つい…」
    「仕方ないだろう…久しぶりに会うのだから嬉しくて…」
    「うん、俺も嬉しい。ディミトリ」

     自分より身長も体格も大きくなってしまったディミトリの金糸に手を伸ばし、そっと梳く。長い髪は国王になってから後ろで結う様にしているとディミトリは言っていたが、なるほど…これは似合っているなとベレトは髪を梳きながらそう思う。ベレトにとっての空白の五年でディミトリは片目を失ってしまい、今は眼帯をしているせいか妄執から抜け出した後は将来の国王がこれでは民に示しがつかないと嘆いていたのを思い出す。

     級友であるアネットやメルセデスに「伸びて長くなってしまった髪を結ってみたら印象が変わりますよ」との言葉に、慣れない髪結いに挑戦していたのを、毎節の手紙づてで聞いていたので彼なりの努力が見て取れた。

     ディミトリは不意にベレトの手を取ると「お前の手はいつも温かいな…安心する」と頬に手をあて、そう言う。その仕草に喜びと同時に戸惑いと期待もせめぎ合う。この隠している感情の名前は知っているが、彼の未来の為にも自分か彼が死ぬまで隠し通さなくてはならないのだ。

    「…ディミトリ。贈り物があるんだ」
    「そんな、わざわざ用意してくれなくても…」
    「俺が贈りたくてやっているんだ、気にしないでくれ」

     テーブルに置かれたフラワーアレンジメントをディミトリに見せると、彼は微笑む。ベレトは士官学校でディミトリが学生の頃から花を贈っていた。昔は簡単な一輪挿しや小さな花束だったが、五年以上も経てば段々と立派になってくるものだ。ディミトリは花を受け取ると「綺麗だ」と言い、香りを楽しんでいた。

    「魔力をこめておいたから、少しは長持ちをする筈だ」
    「そうか…。どうりで先生からもらう花は、普通のより長生きだと思った訳だ」
    「ああ。アネットから教えてもらった魔法でな」
    「そうか。皆、立派になったものだ」

     白い薔薇を見つめながらどこか遠くに思いを馳せるディミトリに、ベレトは声を掛けようとした時だった。こんこんと部屋をノックし、ドゥドゥーが現れたのだ。彼はディミトリに「忘れ物です」と何かを渡していた。どうしたのだろうと二人を見やるとディミトリがベレトに向かって言う。

    「いつも先生からもらった花は、こうやってドゥドゥーが残してくれるんだ」
    「それは……、押し花か?」

     小さな額縁に入っている花を見つめているとどうやら押し花の様だ。白いかすみ草は確かに前にディミトリへ贈ったアレンジメントの一部に入っていた花だ。あの時の様に瑞々しさは無いものの、ほんのり残っている色がこれはこれで味が出ている。ディミトリが自分が贈った僅かな間しか咲き誇る事が出来ない花を、こうして形に残してくれている事実に胸が暖かくなる。

    「綺麗だ。ドゥドゥーに礼を言わなくてはな」
    「ああ。俺があまりにも花を気にかけるせいかな、こうして物として残してくれるのはありがたい」
    「そうだな。俺も嬉しいよ」

     他にも栞にしているものがあるとディミトリが見せてくれた。たくさん作ったから先生にもお返しだともらい、ベレトは笑顔で礼を言う。ガルグ=マクに帰ったら使おう。これを見ると自分もディミトリを思い出し、繋がっていられる気分になるから。

     それからドゥドゥーが夕餉の知らせを告げに来るまで、取り留めのない話をたくさんした。公務が終わって時間を作れたらベレトの淹れた茶が飲みたいと言うディミトリに、ベレトは喜んでと返事をすると彼は今日一番の笑顔を見せてくれた。士官学校の頃とは全く違う、何も隠すことのないディミトリ本来の笑顔がベレトは好きだった。

    「(そんな笑顔を見せるのは俺だけだと、勘違いしてしまうよ………ディミトリ……)」 

     秘めている思いなど告げる事は出来ないと誓った筈のベレトの心が揺るぎそうになった瞬間だった。ベレトは、ディミトリに恋をしていた。伝える事は一生ないと思っているこの気持ちを押し殺し、しかしディミトリと今まで通りに接していたいと、この教師と生徒の関係を続けていた。しかし戦後、彼の為に想いを伝えない代わりに、ベレトはディミトリに花を贈る様になった。

    「(ディミトリの笑顔は、花が咲く様に綺麗だ。その笑顔を自分が咲かせていると…そう都合良く考えてしまう)」

     夕餉の時間も、楽しそうに笑うディミトリにベレトもつられて笑顔になる。彼と出会い、感情の色彩が鮮やかになったのは今になって良く分かる事だとベレトは思う。楽しいも嬉しいも、悲しみと怒りとたくさんの感情をディミトリが与えてくれた。いつも自分を支え、頼りにしてくれた。彼には与えられてばかりだ、とも思う。

     するとディミトリは何かを思い出したように「先生」と少し慌てた様子でベレトを呼ぶ。ベレトはブルゼンに向かって伸ばしていた手を止めてディミトリを見ると、先程より少しだけ緊張した面持ちで此方を見ていた。

    「寝る前に少しだけ時間をくれないか?」
    「……構わないが…。今ここでは話せない内容か?」

     周りにはディミトリとベレトを始め、ドゥドゥーや従者の人間が数名いるくらいだ。ベレトはそうディミトリに問い掛けるも彼は少し思案顔になり「まぁ…」と歯切れの悪い返事をする。だがここで詮索する意味もないのでベレトは「わかった」と頷いた。それから出された料理に舌鼓をうち、あまり食べないディミトリに世話を焼いたりしたらあっという間に平らげてしまった。

    「相変わらずお前の食べっぷりは見ていて気持ちがいいな。じゃあ先生、また迎えに来る」

     そう言ってディミトリはドゥドゥーと共に部屋を出て行く。ベレトも城の従者に連れられて客室として宛てがわれた部屋に戻る。それから湯浴みを済ませ、明日の予定を確認し息をついたタイミングで部屋のドアをノックする音。ベレトが返事をすると、先程より軽装になっているディミトリが現れた。手には燭台を持っているし、何よりドゥドゥーを連れていない。

    「すまないな、こんな時間に」
    「構わないが…。立ち話もあれだから中に、」
    「いや、先生。連れて行きたい所があるんだ」
    「?」

     ベレトは寝間着にストールを肩にかけていただけで、今から外出でもするのかと思ったがすぐに「大丈夫、王城の中だから」とディミトリが訂正する。別にディミトリの頼みならどこへでも行く気であるベレトはくすりと笑って彼の手を引いた。

    「わかった。行こうか」
    「ああ…」

    言葉にしても伝えられない思い。形にしてしまったら、いつか訪れる別れに悔やむ日が来るだろう。だからベレトは、花を贈り続ける。それがベレトの「愛」を伝え続ける方法だった。


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