さよならかみさま 屋敷は阿鼻叫喚に包まれていた。
常ならばきれいに掃き清められている床は血で汚れ、見る影もない。火の気のない場所から炎が上がり、またたくまに燃えひろがった。広大な屋敷は人気のない山奥にある。助けを求めたところで、警察や消防が駆けつけてくるのは、早くても明日の朝だろう。どうにか扉の中に身を隠した男は必死で息を殺していた。すべてうまく行っていたはずだった。すべてはあの男がこの屋敷に来てからおかしくなった。賢かった妻は愚かな女に変わり、大人しかった娘も言うことを聞かなくなってしまった。あの男。九井一と名乗った男。
男は売れない劇団員だった。金に困っていたところを女に、いまの妻に拾われて、教祖に仕立て上げられた。シナリオはすでにできていて、男はそれを演じただけだ。
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