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    付き人佐々木と歌手ポセのパロ設定の短文(こじポセ)

    万雷の拍手に包まれながらポセイドンは舞台を後にした。

    今日の公演も寸分の狂いなく成功した。ポセイドンはここヴァルハラ市の最も大きな劇場で花形を務める歌手だ。

    花形といっても黄色い歓声が飛び交う華やかなそれとは異なり、ポセイドンは端正な美貌、よく通る歌声、確かな才能を持っていたがその冷たい視線で近寄り難い雰囲気の偶像であった。

    控室でポセイドンが食事を兼ねて休んでいると、コンコンとノックの音がして1人の男が入ってきた。

    「よう、お疲れさん」
    「遅い、一体どこに行っていたのだ」
    「どこってそりゃあんた練習用の衣装を店に洗濯しに出しに行ってたんだよ…というかあんたが吾に言ったんじゃねぇか…」
    「それにしては遅いと言ったのだ」
    「いやぁ道を少し間違えちまってなぁ…まだこの街には慣れねぇな!たはは」

    悪びれもせずヘラヘラ笑う老齢の男にポセイドンは鼻を鳴らした。男の名は佐々木小次郎、最近物騒な事件が耐えないこの街でポセイドンの身辺を護衛する為に雇われた男だ。

    東の国から各地を修行し、ヴァルハラ市に流れてきたという小次郎。年齢を感じさせない剣技には護衛として信頼を置けるとポセイドンは思っていたが雑務にはかなりルーズで、度々ポセイドンの悩みの種になっていた。

    「それで?今日はどんな役だったんだい?」
    「今日は…海の神だ。思い上がった人間に罰を与える…と言った役回りか」
    「へぇ、あんたにぴったり」
    「…それはどういう意味だ、雑魚」

    やや物言いに引っかかるものを感じて問いただそうとしたが上手く交わされるだけだろう、とポセイドンはため息をついて追及を諦めた。この男のそういうところが気に入らない。

    時間にも雑務にもルーズで癪に触るというのに、完璧を旨とする自分とは全く相容れないのに、ポセイドンは小次郎をクビにする事が出来なかった。理由は彼自身にも分からない。

    難しい顔で考えているポセイドンを小次郎が覗き込んだ。

    「ふぅむ…」
    「……なんだ……何か余の顔についているのか…」
    「そういやあんたの瞳は海、みたいだねぇ」
    「海……」

    「そう、海……ここから随分南に年中日が照っていてなぁ冬が来ない街があってねぇ吾は何年か暮らしてたんだけどあそこの海は綺麗だったねぇあんたの目見てるとそこの目が覚めるような蒼を思い出しちまう、いや待てよ…」

    小次郎はむむ、と顎に手を当てもう一度確かめるようにポセイドンの瞳を覗き込んだ。

    「いや……あの北の方の氷河の村の海の方かね……?そういえばあんた視線まで冷たいしねぇ……」
    「一体どっちなのだ」
    「分からん、角度によって変わっているようだ…不思議だね。一つ言えるのはあんたの瞳は海みてぇに綺麗って事さ。言われたことないかい?」

    ふふ、と穏やかに笑う小次郎からポセイドンは顔を逸らした。

    「………余は生まれてこの方海というものを見た事がない」
    「……ほう?」

    ポセイドンの言葉に小次郎は少なからず驚きを隠せなかった。前々からポセイドンは街の芸能に関する事柄以外には疎いと小次郎はそう感じていた。ポセイドンはそんな小次郎を他所に続けた。

    「この街で生まれ才能を見初められ、この街で歌い続ける事を望まれてきた…それが役目なら余はそれに応えるだけの事…」
    「ふぅん」

    まるで神様のようだ、と小次郎は思った。大衆に崇められ望まれるままに振る舞う舞台の上で独り歌う神様、そんな印象が小次郎の頭をよぎった。

    「見に行きたいと思った事はねぇのか?」
    「…必要無い」

    普段通り感情を感じさせないトーンの返事であったが、彼とそれなりの時間を過ごした小次郎は僅かな揺らぎを見逃さなかった。

    小次郎は側の机に目をやった。机の上にはポセイドンが口にしていた途中の缶詰の魚と彼がずっと愛用しているというイルカの刺繍が付いたハンカチーフが置いてある。

    そういえば、昔異国で買った海の絵葉書を彼にプレゼントしたらいたく気に入っている風だった(指摘すると彼は否定したが)。小次郎は少し考えて口を開いた。

    「お前さんと海に泳ぎにいけたらきっと楽しいだろうなぁ」

    「…なぜ泳ぐ必要があるのだ」

    「泳ぐのも楽しいぞ、まぁ見に行くだけでも良いけどなぁ!なぁ休みが出来たら海に連れていってやろうか?ポセイドン」

    身を乗り出してそう提案する小次郎に対してポセイドンは戸惑っていた。

    「……考えて、おこう」
    ポセイドンはふい、と顔を背けて絞り出すように返事をした。

    (海、か………)

    さざ波の音はどんな風なのか、波は冷たいのかそれとも暖かいのか、鯨や魚は本当に泳いでいるのか、昔から夢想してやまなかった。

    連れて行ってやると言われたのは初めてだ。ポセイドンは本や絵で見た波打ち際に小次郎と2人で並ぶ自分の姿を思い浮かべながらハンカチーフのイルカをなぞった。
    ──────
    「海のそばだと缶詰じゃなく美味い魚が食えるしなぁ 吾が美味い店紹介するぜ」
    「やはり食い物ばかりか、貴様は……台無しだ」
    「?なんでそっぽを向くんだ?おーい?」

    おわり
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