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    kusaishi88

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    kusaishi88

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    鍾空
    洞窟に閉じ込められた空を助ける岩神の話

    「空!」

    パイモンの自分の名を呼ぶ声、そして何かが崩れる轟音。今、立っているのは小さい洞窟の中、突然の落石だった。空は咄嗟にパイモンを洞窟の入り口側へ突き飛ばす。その直後、目の前に大岩がどしんと落ちる音が聞こえた。間一髪、鼻先に落ちてきた大岩に息をつく暇もなく、岩が落ちた衝撃で次々と洞窟内の内壁の岩が落ちてくる。その岩は洞窟の出口をあっという間に塞いでしまった。
    出口から差し込む光も塞がれ突然周りに闇に訪れる。
    突然の事に瞬きも出来ず立ちすくむ中、岩の向こう側から見知った声が聞こえた。

    「おい、大丈夫か!空!」
    「パイモンも大丈夫!?怪我してない?」
    「あぁ!おいらは大丈夫だ!怪我もしてない!」

    空は元気そうなパイモンの声に一先ず安心し、続ける。

    「動けそうなら、助けを呼んできて、こっちでも出れるか試してみるけどうまくいくかわからないから」
    「あぁ!わかった!任せとけ、すぐ誰かを見つけてきてやるからな!」

    パイモンの幻想の翼が遠ざかる音を聞いて、空はふぅと大きなため息をついた。

    「参ったな……」

    ついつい口から出てしまった声が、洞窟内に木霊する。パイモンの前では平気な振りをしていたが今の状況が思わしくない事は自覚していた。
    脱出する方法を考えてみる。まず、剣や元素の力で無理やりこじ開ける、という手段はあまり取りたくないものだった。今いる空洞は大岩が落ちたことで脆くなっている可能性が高く、無理やりこじ開けるとなるとその衝撃で崩れかねないからだ。
    かといって、誰かの助けを待つというのもあまり現実的ではなかった。ここは人が滅多に通らない山奥。途中で誰かに会うというのは難しくここから一番近い町といえば、璃月港だがパイモンの足、もとい羽だと片道2日かかる。現状、手持ちの水も無い状態で2日以上過ごすのはかなり厳しい。

    空は、洞窟内に何かがないか目を凝らしたがほとんど真っ暗な洞窟の中だ、見えるものも見えない。壁に触れるのは冷たい岩肌ばかりで何か脱出の手がかりになりそうなものも見つからず再びため息をついた。そして、ぺたりと地面に膝を抱え座る。
    とりあえず、限界までパイモンの帰りを待とう。
    そう決め、ゆっくりと目を閉じた。




    あれから何時間たっただろうか、岩の隙間の光が2度消えたことからおそらく閉じ込められてから2日は立ったのだと思う。
    喉、乾いたな……。
    強烈な飢餓感に堪えながらも、冷たい暗闇の中でじっとしていた。ずっと闇の中にいたせいで自分という存在がまるで消えてしまっているような感覚に苛まれる。孤独と不安から今すぐ叫んでしまいたいほどだった。発狂してしまいそうな中、必死に別の事を考える。
    前に行った世界での旅の事、この世界の旅の事、モンドで会った風神とドラゴンのこと、璃月で会った人々のこと、ファデュイのこと、そして双子の片割れの事。
    まさかこんなところでこんな事になるとは思わなかった。蛍は無事だろうか、もしこのまま自分がここで朽ち果てても彼女にだけは無事でいてほしい。

    俺の旅の終わりはここなのだとしても――。

    そういえば、鍾離先生も旅の終わりの事を言っていた気がする。こちらの境遇に憂いを見せる様子もなく、嘲笑するわけでもなくただ不思議と安心する声色で旅の成功と無事を祈ってくれた。そして、岩神としてではなく、鍾離として力になれることがあるなら何でもすると。そう言ってくれた。

    「へんなひと」

    空は笑う。意識を手繰り寄せゆっくりと起き上がった。
    彼の事を思い出すと不思議と安心できるのだ。こんなどうしようもない状況でも彼の事を思い出すと自然に笑みが零れる。

    「力になるっていうなら、今助けに来てほしかったなぁ……」

    空はそう呟く。

    その直後、周りの岩が音を立てて、動き始めた。まさか、洞窟が崩れるのか?と身構えたが岩が崩れ落ちるわけではなく地形自体が龍のように蠢き、洞窟の上部にぽっかりと穴が開いた。突然の太陽の光に空は目を細める。
    洞窟の上空から、すとんと人の影が落ち空の目の前に着地した。

    「大丈夫か?」

    それは確かに先刻思い出していた神の声だった。背後から光を受け、石珀色の瞳の色だけがこちらを見ていた。その姿はあまりにも人外染みていて一度自分は死んで、天から迎えが来たのかと錯覚するほどだった。
    鍾離はしゃがみこみ、地面に伏す空を抱き起こす。ぽっかりと天井に穴が空いてしまった洞窟からは久方ぶりの太陽の光が差し込む。2日ぶりの光は存外眩しく思わず目を細めた。

    「日光を直視するな、ずっと暗闇の中にいたんだ。目に毒だろう」
    鍾離は空の顔を覗き込み手のひらで日光を遮るように覆った。

    「…っ、しょりせんせ…」
    「助けが遅れた、すまない。神の心があればもう少し早く駆け付けられたのだが……」

    本当に申し訳なさそうに謝る鍾離を見て空は何となく泣きたい気持ちになった。自分を助けにきてほしいと契約したわけではない、それなのに急いで助けにきてくれたのだ。鍾離という凡人として、好意で助けに来てくれた感謝の気持ちを伝えようと声を出そうとするが、水を数日口にしていない喉からはげほっごほっという乾いた咳しか出ない。

    「無理をするな、今、水をやる」

    鍾離は空の様子を見て、持ってきていた水筒を手に取り自らの口に含んだ。
    そして、そのまま空の唇と唇を重ね合わせる。

    「……っ…ふっ…」

    突然の口づけに空はピクリと身体を震わせたが、あまりの渇きに今の状況を正常に受け取れるほどの余裕もなく目を細め、水を飲みこむ事に専念する。
    ゆっくりとぬるい水が口内に流れ込みを喉を潤していった。こくりと喉を鳴らすと重なった唇が離れていく。

    「もっと飲むか?」

    鍾離の問いにゆるゆると首を振る。水を飲んだことで安堵感と今まで張りつめていていた何かが切れずしりと身体が重くなった感覚がした。聞きたい事はたくさんある、意識を保っていたいのに、瞼が上がらない。

    「今は安心してゆっくり休むといい、旅人」

    太陽の光と共に降り注ぐ声と共に、空の意識はゆっくりと沈んでいった。
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