今日も残暑とやらが続く。時計人形はあまり暑さを感じないので、その暑いというやらがわからないが。
そんな中、私のそばに抱き着いてくる形で涼む少女が一人。
「あっつーい……」
「暑いというのなら、何故抱き着く」
「それとこれとは別です」
朝火はさっきから私に抱き着いては離れる気配がない。だが彼女の頬や首筋からは大量の汗が流れている。
「熱中症とやらになっては困る。水分を適度に取って――」
「傍に冷えた麦茶置いてあるんで大丈夫です~」
彼女の横を見ると、そこにはきんきんに冷えた麦茶が置いてあった。飲みますか?と聞かれたので、一応もらうことにした。グラスはすでに私の分まで用意してあったらしく、手際よくグラスに茶を注いでいた。
茶が注がれたグラスを受け取る。水分は別に取らなくても平気だが、たまには人らしいこともせねばとそれを飲み干す。冷たいと感じるのはわずかではあるが。
ふと、ある事を思い出した。私は暑さにやられることはないというのに、何故この話をするのを忘れていたのか。
「朝火」
「はい~」
「君はもうすぐ誕生日とやらを迎えるな」
朝火の肩が小さく震える。
「……何か欲しいものはないのか?」
私は贈り物に関しては疎い。さらに朝火相手だと、尚更わからない。
それならばいっそ素直に聞くのが早いと思い、こうして本人に聞いてみた。
それに、今年は20歳という成人の年を迎える。何か、記念になるようなものを贈ってみたいものだが。
「じゃあ、誕生日の日はずっと一緒に過ごすということで」
「……物じゃないのか」
「はい。物より……その……。誕生日、一緒にいてくれたらそれでいいです。あ、あとケーキ欲しいくらい?」
ケーキは用意しようと思っていたが、それ以外は意外な答えで私は軽く悩んだ。
女性は宝石物や装飾品等が一般的に好むと聞く。だが朝火はあまりそういうのには興味がないと最近知った(むしろ、印刷物にある架空の男が好きだと聞いたが)。
「なので、その」
朝火の顔が突如赤くなる。それになにやら恥ずかしがっているのか、もじもじとしていた。
「その日……お泊りしたい、です……」
念のためにその日、朝火の姉がいるのではないかと聞いた。すると、どうやら出張で丁度いないという。
「旅行に連れていけというのか」
「あっ、あの、無理に旅行は……!この家でいいんで!!」
はあ、と思わずため息をついた。この者の考えることはよくわからない。
だが、朝火の姉はその日いないとなれば条件的にはこの家に泊まることはできる。
「わかった、いないというなればいいだろう」
「やった~!ありがとうございます!」
本当にそれだけでいいのか、と思う。物欲がないものだな、と思いきや――
「……そ、その代わり」
「何だ」
彼女は私の耳に小声でその言葉を伝える。
「……。君の姉にバレたら私は今度こそ、ここを追い出されると思うのだが」
「だ、だって……!その、大人、になるので……」
赤い顔をそっぽ向いてそう言った。
「希望に添えるかはわからないが、考えておく」
何せそれは人でいう、大切な何とやらというのではないのだろうか。
まあいい。彼女の言うことには突拍子もないことが多い。
「腹を括るしかない、というのはこういうことか――」
夏。君を愛する夜を与える事ができるのかは、わからない。
END