バレンタインデーのお話になるはずだった 今日はオロルンと外で待ち合わせをしている。というのも、バレンタインデーという今日を特別な日にしてみようとレストランを予約しているのだ。同居している相手ではあるが、社会人として仕事をしている男は大学生のオロルンと外で待ち合わせをした。
オロルンは男の事を誰もが憧れ、振り返り、畏敬の念を抱くという。妬いていたらきりがないというが、それは男からしても一緒である。
待ち合わせ場所はオロルンが好んで出向くことが多い図書館だ。男が図書館の中に入るとすぐにわかる。そこには机の上に本を広げ、足を組みつつ頬杖をついてその本を読みふけるオロルンがいた。
これから行くレストランはカジュアルであるがドレスコードがあるレストランである。男の知り合いが経営をしている店であり、男もたびたび利用していることをあらかじめオロルンには伝えていた。そのため、普段とは違うハイネックのインナーにジャケット、細身のパンツという格好で、もともとすらっとした長身のため非常に様になっている。周りの女性の視線がオロルンに向かっていることに、本人だけが気づいていないだろう。
その視線を遮るかのように、男は足早にオロルンに近寄った。オロルンは特徴的な獣の耳をぴくぴくさせると本から顔を上げる。
「スラーイン」
そして花が綻ぶ様に笑顔がこぼれ、男の名を呼んだ。雰囲気だけだとクールで近寄りがたそうなオロルンだが、こうなると一気にイメージが変わる。
「待たせたな」
「問題ない。僕も面白い本を見つけたからな」
「借りていくか?」
「また来るよ。スラーインは仕事もういいのか?」
「あぁ」
「じゃぁ行こう」
オロルンはパタンと本をたたみ棚に戻しにいく。その間に男は椅子に掛けてあったオロルンのコートを広げた。
「外は寒い」
「あ、ありがとう」
素直に広げられたコートにそでを通す。きっちりボタンを留め、マフラーも巻いて準備万端である。男は満足気に頷くと「では行こう」と促した。
2月の半ば。キンと冷えた空気が肌を突き刺す。吐く息は白く、冬を感じさせるだろう。
「寒いな」
しっかり防寒対策をしているものの、露出された鼻の頭は赤くなっている。
「雪が降るそうだ」
「そうか……。植物たちも正念場だな」
他愛もない話が心地よい。ぽつりぽつりと会話をしながら歩いていけば、目的地となるレストランへとたどり着いた。
「……僕の思っていた数倍すごい」
「語彙力がどこかへいっているぞ。さあ、こっちだ」
「ま、待ってくれ気後れしてしまう1人にしないでくれ…!」
男は度々来ていると言うだけあり、自然に中に入っていく。オロルンは慌てて男を追いかけた。
照明が少し落とされ、暖かな光が迎えてくれるレストランだった。ほとんどが個室のようで、恋人や家族が過ごす空間のようだ。
「ようこそ、いらっしゃいました」
壮年の男性が出迎えてくれる。優しげな表情にオロルンの気持ちも少し落ち着いた。
「スラーイン様がお連れ様を連れてこられるとは、私も楽しみにしておりました」