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    1kasagake

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    手癖

    ばじふゆ

    #ばじふゆ
    bajifuyu

    未精通だけどおっぱいが好き「千冬、お前どっち派?」

     街頭インタビューよろしく、横にしたB5のノートを片手に廊下を歩き回る男子生徒に声をかけられた。こいつは確か、場地さんのクラスメイトだ。顔馴染みくらいの同級生にまで下の名前で呼ばれていることに少し驚きつつ、手渡された丸いシールを迷わず右の欄に貼る。
    「わざわざこんなのまで用意してんのかよ」
    「おう、百均で買ってきた! つーか即答じゃん」
    「心は決まってんだよ。男たるもの、こっちだろ」
    「ま、わからんでもない。千冬、サンキューな!」
     バンバンと指で弾かれたノートの真ん中には大きな縦線。そして左右に分かたれたスペースには、たくさんのシールが貼られていた。色が大きく偏る右側には「おっぱい」、やや白紙が目立つ左側には「おしり」。それも、下手くそなイラスト付きで記されている。
     正直、男子中学生たるものこの手の質問は耳にタコができるくらいされてきた。その頻度をわかりやすく言い換えるなら、週二回の体育――教室が男子だけになる絶好のタイミング――の度に意思表示を強要させられるほど。要は、おっぱいが好きかおしりが好きか。彼女はいないがそういう話は常にしていたい男子の性だった。

     またすぐ後ろから聞こえてくる「お前どっち派?」に、彼の見境のなさが窺えた。
     コイツ、まさか場地さんにも聞いてんのかな。そんな疑問がふと頭に浮かぶ。こうして廊下で他クラスの奴に声かけているということは、クラスメイトの集計はとうに終わっているのだろう。そして、その結果に納得できず集計範囲を広げたという往生際の悪さまで想像に難くない。そんな、行く先々でノートを持って走り回る彼は現在劣勢のおしり派だ。議論を巻き起こすほどだから、おしりにも男の夢とロマンがたっぷり詰まっているんだろうが、オレにはどうも良さがわからない。そんなところを見る機会もなければ、魅力を感じる機会もない。

     やっぱ男はおっぱいだろ。

     さてところで、廊下で繰り広げられる「お前どっち派?」が指す最も重要な事実は、もう既に場地さんにこれが問われたというところにある。一体、場地さんはどっち派なんだろう。実のところ、場地さんとは下ネタを話す機会がなかなかない。ずっと、誰よりも長く一緒にいる自覚はあれど場地さんの性的嗜好は知らない。オレも場地さんもそういう話を積極的に話すタイプではないし、オレ達の間で話題は尽きない。聞かれもしないから答えないし、聞くほど前のめりな興味があるわけでもない。たったそのくらいの、些細な理由で知らないのだが、場地さんのことで知らないことがあるというのは気持ちが悪い。オレも知らないのに、ただのクラスメイトが知っているのも気持ちが悪い。声をかけた奴の名前をオレが知らないほどだから、きっとそこまで仲が良い訳でもないのだ。今の状態は、自然の摂理ってやつに恐らく反する。世界の均衡はオレが保たねばなるまい。

    「場地さんって、おっぱいが好きですか? おしりが好きですか?」
    「は?」
     誰もいない昼休みの屋上でさっそく尋ねてみることにした。
    「今日聞かれたでしょ、どっちって答えたんスか?」
     場地さんはどっちだろうか。オレの予想では、おっぱいだ。もしかしたらオレとは違って、おしりの魅力とやらに気付いているかもしれない。歳も一つ上だし、幹部のなかには猥談が好きな人もいるからよく話題に上ってそうだし、ちん毛もオレよりずっと濃くて多い。場地さんの方が知識も豊富で一歩も二歩も先を行ってるだろう。だけど、おっぱい派なんじゃないかと思うのには理由があった。なんてったってオレと場地さんは、好みが似ているからだ。野良猫も、ペットショップの窓越しに覗く犬も猫も、試しに食べてみた猫用おやつの味も、好みは大体一緒だ。だからきっと場地さんも、オレと同じでおっぱいが好き。
    「…ケツ」
    「へ? ケツ?! な、なんで…」
    「なんでもくそもねーけど…」
     汚い屋上の床に、白いシャツで寝転ぶのは気が引ける。それは場地さんも同じで、かいた胡坐の上で頬杖をついてぼんやり答えた。どうでもよさそうな態度が妙に真実味を帯びていて、現実を突きつけられるようだった。
     そして、あろうことかオレの予想は見事に外れた。なんてことだ。まさかそんな、おしり派だなんて。場地さんに関することで予想を外したことも悲しかったが、どちらかと言えばオレは、B5ノートの真ん中にでかでかと引かれた線を挟んで別々の場所にシールを貼っていたことの方が、なぜかずっと悲しかった。オレは場地さんと気が合って、場地さんもそうだと思っていた。だから何かを決めたり選んだりする時は、譲るとか主張するとかいうことはあまり考えず、己の好きな方を率先した。場地さんが選んだとしてもそれは大体オレが選びたかった方だったから、てっきり、そういうことだと思っていたのだ。
    「…ケツのどこが…いいんスか?」
    「まぁケツがいいっつーか、おっぱいに興味ねぇ」
    「よ、よくないスか? おっぱい…」
    「千冬ぅ。オマエおっぱい派?」
    「はい。オレは断然、おっぱいっスね」
    「ふぅん…じゃ、おっぱい見ながら抜くんか」
     場地さんはオレの返答を待たずして、エロ本見ながらすんの? などと、自販機で買った紙パックのこんにゃくゼリー飲料をジュルルッと吸いながら、事も無げにずかずかと踏み込んでくる。まさかこの人相手に文句などあるはずもないが、ただほんの少しの後ろ暗い気持ちはあって、せめて嘘はつくまいと慎重に口を開いた。
    「まぁ、おっぱい見ながら扱きますけど」
     勃起した漢を握りしめ、快感だけを追い求めて懸命に手を動かす。オナニーは、中学生男子であればみんなしていることで、オレも周りがそうだからと倣ってしていた。週に一回は、エロ本を隅から隅まで読んだ後に布団を頭まで被って目を瞑った。脳裏に浮かんだおっぱいに顔を埋めてじゅるじゅると貪り尽くしてエロい気分を高めれば、自然と身体が熱くなる。硬くなってきた下半身を撫でて揉んで、より一層硬くなったらあとは快楽に任せて一心不乱に手を上下する。気持ちいい、もっと。もっと、気持ちよくなりたい。もっと。それを十分も繰り返しているとどこかの折に、「もっと」が「もういいか」に変わる。何回何分粘ったところで、その先がなかった。いくら気持ちよくなっても、てっぺんがないからいつしか疲れて手を離してしまう。それに、このオナニーも便宜上しているだけにすぎず、週に一回で十分すぎるほど。みんなが、本当にみんながやっているというから、きっとやるということ自体に意味があるものなのだと言い聞かせて、自分の生活に取り込んだ。
     いつからだろう。きっと、この習慣を始めてもうすぐ一年になる。その上もう中二になろうというのに、オレには未だ、みんなの言う「イく」ってやつがわからないでいた。緩やかに上って、着地点が見つからず緩やかに下がる。この快感のどこに「イく」があると言うのか。

    「へぇ意外」
    「意外…スか?」
     意外とは、思いのほか。予想もしなかったこと。それはつまり、場地さんがオレの何かに対して抱いていた予想が、今の話で外れたことを示していた。一体、何が意外だったんだろう。おっぱいを見ながら抜くこと? オレがおっぱい派であること? エロいことを口にすることそれ自体? だが、それを口に出すより質問に答えるより先に、場地さんは次の質問をぶつけてきた。
    「ぶっかけたりすんの?」
     今日の場地さんはどうやら知りたいことが多いらしい。まぁ、それはオレもそうだからよく分かるのだが。場地さんはつんと顎を上げてどこかわからないその辺にある空気を見ながら話すもんだから、興味があるのかないのかわかりづらかった。
    「ぶっかけ…は、しない…スね」
    「ま、そうか。いやオレもしねぇよ別に。聞いてみただけ」
    「そうっスよね!」
     ハハハ! なんて努めてカラッと笑い、自分の振った話題にここで終止符を打つことにした。この間のペケの写真見てくださいよ、なんて携帯を取り出せば、あのよそよそしい態度はなんだったのかというくらい前のめりになって画面を覗き込んでくる。やっぱり、さほど興味がなかったみたいだ。場地さんのためにもオレのためにもこの辺りで話を切り上げておいて正解か。などと場地さんを気遣う風を自分の中で装ってみるが、本当は何より、これ以上の詮索でぼろが出てしまうのが怖かった。それはどんなぼろだと言われてもうまく言葉にできないが、ただなんとなく、思いがけず何かが発覚しそうなそんな感じがするのだ。危なそうな橋は渡らずに今日はこのくらいにして、この会話に散りばめられたヒントを基に自分で調べてこのこそばゆい違和感を払拭すればいい。そうすればまた明日から、場地さんと猥談だってできるようになる。場地さんがおしり派だとわかった今、何が良いとかいつから好きとか、色々と聞きたいことができてしまった。


     場地さんに聞きたいこと。場地さんについてのこと。だが、本当に聞きたいことは他にある。
     場地さんとした会話のなかで、意味がよくわからないくだりがあった。その時すぐに聞いておけばよかったのかもしれないが、直球でぶつけるのはなんだか躊躇われて言葉を飲んだ。これはオレの悪い癖。場地さんに対してだけではない。ことエロい話題、下世話な話題つまりは猥談になった途端、何かが心に引っかかってクラスメイトとの会話さえもぼんやり笑ってやり過ごしてしまう。それって何どういうこと。何がイイの。一歩踏み込んで聞いてみることがどうもできないのだ。それ故、彼らの猥談にはいつまでもオレのわからない言葉が含まれたまま。

     ひとつ、「ぶっかけ」。
     ぶっかけとは何だろう。ぶっかける? 一体、何を? ぶっかけと言われて思い浮かぶのはうどんくらいのもので、醤油とか卵とかそういう液状の何かを「ぶっかけ」る。それが正解に近いのかなとは思っている。
     では、それをどこに。オレのちんこに? ちんこにぶっかける液体なんて、何があったろう。まず思い付いたのは、つば。唾液だ。確かにフェラをしてもらったらきっと唾液がつくだろうけど、ひとりでエロ本片手に扱くようなオレ達中学生が誰かの唾を「ぶっかけ」られるなんて現実的じゃあない。わざわざ場地さんが「ぶっかけたりすんの?」と聞くはずもない。オレ達にエロいことをしかけてくれる相手なんているはずないのだから。そこでふと、思い至ったことがある。「ぶっかけ」とは、するものであってされるものではないのかもしれない。もしかするとオレのものを、どこかにぶっかけるんじゃあないか。
     だから、どこに。エロいことをする時、傍らに置いているものなんて何がある? そう、そんなものエロ本かティッシュしかない。あぁきっとこれだ。エロ本かティッシュに、オレの何かを「ぶっかけ」るのだ!
     とまぁ想像を膨らましてみるなどしたところで、やっぱり場地さんに何から何まで聞く勇気はなくて、オレは性の知識が豊富な兄貴肌・ドラケン君に助けを求めることを心に決めた。


     集会後、今日はめずらしくマイキー君がドラケン君の手を離れていた。他を寄せ付けない総長のオーラを漂わせたまま三ツ谷君達と何やら話し込んでいる。総長の顔の時ばかりは、ドラケン君もむやみやたらに世話を焼くことなく、少し離れたところで見守る。まさに理想の副長と言えよう。
     じぃ、と場地さん含む幹部らの方を気にしていると、不意にドラケン君が片手をひらりと上げてその輪から抜け出し、ひとり茂みへ向かった。彼だけに話しかけられる絶好のチャンスを逃すわけにはいかず、オレもその背を追って立ち上がる。
    「ドラケン君、ちょっと今いいスか?」
    「あ? ションベン終わってからにしろ」
    「オレもしたいんで、ションベンしながらで大丈夫っス!」
    「…なんかヤだな」
     口ではそう言ってもなんだかんだドラケン君は優しくて、黙ってオレを隣に立たせてくれた。
    「で? 場地じゃ解決できねぇこと?」
    「あ…いや、場地さんに言われたことでわかんねぇとこあったんで、場地さんには聞きづらくて」
    「ふぅん なに?」
     ジョボボボボ。木と土の境界を抉るようにションベンの狙いを定める。少しちんこを動かして根っこの輪郭をなぞるオレと違って、ドラケン君は幹にある窪み一点だけを狙っていた。真っ直ぐ、ブレずに一直線。
    「その…ぶっかけ、って何スか?」
    「は?! っう、わ! だぁぁクソッ! ズレたじゃねぇか!」
    「わ、すんません!!」
     驚いたドラケン君が、まだ止まらないションベンを慌てて軌道修正する。
    「そんなん、場地と話してたんならそん時聞きゃよかっただろうが」
    「……そんなん、も知らねぇなんて、ダセェじゃないスか」
     元々すごく尿意があったわけでもなかったオレはドラケン君よりも早く出し終わった。まだ出続ける彼の横でピッと小さく振ってションベンを切り、次の言葉を待つ。
    「ぶっかけってのはアレ、だからこんな風に…ぶっかけんだよ」
    「あ やっぱ そうっスよね」
    「…だろ」
    「でも何をぶっかけんスか?」
    「あ〜それがわかんねぇって話? 普通に、イくと出んだろ。それをぶっかけるって話じゃねぇの? つーかそもそも場地が何言いたかったのか詳しいことは知らねぇし。そんなん知りたくもねぇけど」
     ションベンも答えも出し切ったドラケン君が、もう終わりだと言わんばかりにジーッとズボンのチャックを上げた。だが、これで終わってしまっては、せっかく場地さんから離れたところで声をかけたのに不完全燃焼で終わってしまう。オレが知りたかったのは「ぶっかけ」が何かだけではない。
    「……オレ実は、イくって感じがイマイチわかんなくて」
    「イく、イかねぇにわかんねぇとかあんの?」
    「ありますよ だってオレ、いつもそうっスもん…」
     またしても話に出てきた「イく」という頻出エロ単語。猥談に巻き込まれたら最後、絶対に耳にする言葉だ。聞かぬは一生の恥とは思ってみても、あまりにみんなが当たり前に使うから、オレは聞くタイミングを完全に逃していた。もういい加減、嫌気が差してくる。だから、イくって、何なんだよ。どこからがイくでどこまでがイってないんだよ。境界はどこにあんだよ。そしてオレは、あれでちゃんとイけてんの? そんな不安がいつまでも拭えないから、オレは無意識のうちに猥談を避けていた節がある。だが今日は、ついに、腹を括った。さすがに今更学校の連中には聞けない。四六時中一緒にいる場地さんに聞いて何かが藪蛇になるのもなんだか怖くて、口が堅くて知識も豊富そうなドラケン君に声をかけたのだ。聞くは一時の恥。ここまできたら、気になることは全部聞いてしまおう。
    「でも、出たらそりゃイってるだろ」
    「出る?」
    「あ?」
    「何がっスか?」
    「…あ? え……あぁ?!」
    「あ、ションベンか」
    「いや! ち、違ぇよ! ザーメンな?!」
    「ザーメン…って、出たかよくわかんなくないスか?」
     なんだか驚いた顔の直後に、ものすごい剣幕でションベンを否定された。金の辮髪の暴走族副総長の荒々しい顔というのは心臓に悪い。なんだか悪いことをしたような気になって肩が竦んだ。それかオレが何か見当外れなことを口走ったのかもしれない。その証拠に、ドラケン君の言葉が続かなくなった。
    「ドラケン君…?」
    「ち、千冬……オマエ、一応聞くけど」
    「ウッス!」
    「ザーメン、出たことある…?」
    「多分?」
    「ザーメンって白いどろっとしたやつだぞ」
    「白い……?」
     ちょっと待って。ドラケン君の言っていることとオレの想像していることが食い違っている気がして思考が停止する。白くてどろっとした、やつ。って、何のことだろう。ザーメンって、無色透明で、ちょっと興奮しただけで出てきちゃう汁のことじゃねぇのか。
     あれ、オレ、もしかして……ザーメン出したことない?
    「そうか オマエまだか」
    「えっ、と」
    「精通まだなんだろ」
    「せーつー?」
    「アレ。ザーメンがまだ出たことねぇってことだよ。出たら、精通」
    「せーつー…」
    「ま、その、なんだ。とりあえず、そういうことだ。がんばれよ」
    「あっはい! ドラケン君ありがとうございましたッ!」
    「お〜」
     そう言ってひらひらと手を振って、幹部らの元へ戻って行った。
     ドラケン君ってやっぱり、面倒見がいい。仲間のしょうもない相談をこうして快く聞いてくれて、おかげでオレはずっと聞けなかったことを聞けただけでなく、自分の思い違いにも気付くことができた。まさに名実ともに東卍を支える「副長」だ。オレが場地さんを、いや、オレ達の壱番隊を支える上で必要な能力はきっとドラケン君に詰まっている。
    「憧れんなぁ」
     それできっと、ドラケン君も場地さんも、精通している。
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