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    Tonya

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    Tonya

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    お題「泣くくらいなら、笑ってやる」
    流ロク 双葉ツカサ、ヒカル

    公園を駆け回っていた幼児がこてんと前のめりに倒れ、ワッと泣き出した。母親らしい女性が慌てた様子で駆け寄っていく。
     ありきたりな光景。甲高い泣き声に注意を向けていた周囲の人々も、事態を把握するとすぐ各々の行動に戻っていく。一人、ベンチに腰かけている少年を除いて。
    『……うるせぇな』
    「あ、ヒカル。起きたんだ」
     頭の中だけで行われる特殊なコミュニケーション。あるいは自問自答。
    「大丈夫かな。派手に転んだみたいだけど」
     顔面をぶつけたらしく、幼児の小さな鼻が赤くなっていた。
    『あんなの本気じゃねえよ』
     気を引くためだ。何を、とはあえて言わない片割れの言葉にツカサは首肯する。たしかに母親に抱き起こされると、幼児はすぐ涙を引っ込めた。
    「きっとそれは……いいことだよ」
     つまずき倒れたとき、手を差し伸べてくれる人がいるのはきっと幸せなこと。ほら、あの子供だってもう笑顔になっている。
     じゃあ、もしそんな相手がいなかったら。
    『ケッ、くだらねえ』
     疑問を浮かべるのと同時にヒカルが吐き捨てる。
    『他人の手を貸りなきゃ立てねえなんざ、雑魚の証みたいなものだろうが』
    「どうだろう。でも、うん……ヒカル」
    『あんだよ』
    「ありがとう」
     唐突に向けられた感謝に、片割れはしばし沈黙した。目には映らないが、相手がかすかに狼狽した気配がする。
    「大丈夫だよ。僕は泣かない。泣くくらいなら」
     笑ってやる。
     平素通りの、穏やかな声に混じった陰を感じ取れるのは彼の半身だけ。戸惑いから一転してヒカルは口端を吊り上げた。
    「そりゃあよかった」
     ごくありふれた日常の一場面。その片隅で、ベンチに腰かけてぼんやりと音楽を聴いていた少年の胸の内は、誰も知らない。
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