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    Tonya

    2025.2 再開。お絵描きの習慣化を目指して、しばらく練習記録を投げる予定です。

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    Tonya

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    「迷惑な隣人」
    APH フェリクス

    昔書いた微ホラー

    何年くらい前かな。仕事の都合で地方の支部へ半年間異動することになって、引っ越ししたときの話。
    そんとき入居したのは七階建てマンションの角部屋。すぐ真横にもう一つ大きなビルが並んでて、頑張って通路の突き当たりの柵を越えれば、映画みたく向こうに渡れそうなくらいだった。
    メトロが近くて交通の便もいいし、食料品店が歩きで行ける距離にあってなかなかいい立地条件だったし。部屋も広くて、暇ができたらトーリス呼ぼかなとか思ってた。
    とはいえ、引っ越してしばらくは引き継ぎだの何だのと忙しくて、夜遅くにやっと解放されたらすぐ帰宅してベッドに転がり込むような日々だったんだけど。



    問題が起こりはじめたのは、引っ越しからひと月くらい経って、異動のゴタゴタもひとまず落ち着いた頃。
    夜も更けてきて、そろそろ寝る準備しよかなと思ってたら、玄関からガチャッとドアノブを回す音がしたんよ。
    様子を見に玄関へ行くと、俺がドアスコープを覗くのと入れ違いに、外からバタンって扉の閉まる音がした。そんときは、ああ他の住人が部屋を間違えたんだなって程度にしか考えなかった。
    でも、それからほぼ毎晩、それは起こるようになった。夜中に一回だけガチャッと外からノブを回して、静かに去っていく。まるで鍵が開いてるか確認してるみたいで、薄気味悪かったし。メトロが近かったから、酔っ払って帰ってきた他の住人が部屋を間違えた可能性もあったけど、それにしては毎日なんて多過ぎるよな。
    そんで、誰かが故意にやってんじゃね?と思いはじめた。
    まっさきに思い浮かんだのは、右隣の住人。実は最初のときも含めて、ドアノブが回された後、外から扉の開閉音が聞こえることがよくあったんよ。そのマンションは壁が厚くて、他の部屋へ出入りする音も聞こえるのはせいぜい両隣まで。俺んとこは角部屋で左隣はいないから、必然的に右隣ってことになる。
    右隣の奴が怪しい理由は他にもあったし。引っ越し当初は帰りも遅かったし疲れ過ぎてて気付かんかったけど、真夜中の、周囲がぐっすり眠ってるような時間帯に、隣の住人が騒いでることがあったんよ。電話でもしてるのかゲラゲラ笑ったり、ガタガタ変な音立てたり。
    さっき言った通り、マンションの壁が厚いから、ちょっとやそっと物音立てたくらいじゃ音が漏れたりしない。つまりそいつは、近所迷惑も憚らず夜中に大音量で騒いでたってことだし。その時点で、なんとなく嫌な印象は受けてた。



    ソファでファボルキ齧りながらくつろいでると、ドアノブが半回転して扉越しに人の気配を感じる。ベッドで読みかけの本広げたままうたた寝してると、隣室から響く笑い声に起こされる。そういう繰り返しに、だんだんうんざりしてきてな。




    ある日、ついに文句言ってやろと思って右隣のインターホン押したんよ。出てきたのは予想よりずっと若い男で、あれ?って思った。けど、そいつの対応がありえんくらい悪かったから、そんな驚きすぐどうでもよくなったし。面倒くさそうに「何の用ですか」って、マジこっちのセリフっていうか!
    毎晩人んちのドアノブ回してくのやめろっていったら、あらかさまに狼狽えた後、急に怒り出した。言いがかりをつけるな、証拠でもあるのかってな。そんでこっちの話もろくに聞かずに、ドアを乱暴に閉めてしまったんよ。
    ……今から考えると、あいつはノブを回しに来るとき、いつも俺が不在だと思っとったんな。ほら、転居してきて一ヶ月くらいの間、仕事が忙しくて帰宅時刻がかなり遅かったろ。注意していれば、扉の開閉音でこっちが帰ってきたことが向こうもわかるはずだから、多分留守を狙って来てたんだし。途中から俺の帰宅が早くなってたこと、気付かんかったんやろな。
    とにかく、そんな風に逃げられて、結局夜中の騒音については文句言えずじまいやったし。
    自分の部屋に戻ってきてチョコラダ淹れて、甘ーいチョコレートを味わってるうちにようやく俺もムカムカした気持ちが落ち着いてきた。隣人の態度は最悪やったけど注意はしたし、騒音はともかくドアノブガチャガチャされるのは収まるかもなと思った。
    ところが、それがまったくの逆効果やったんよ。
    正体がバレたことで吹っ切れたのか自棄になったのか、右隣の奴は今度は毎晩のように俺んちの玄関を叩くようになった。散々叩きまくってドアノブをうるさく捻るくせに、こっちが出てこうとするとさっと隣室へ隠れる。んで、インターホン押しても呼んでも絶対に出てこない。おまけに近所迷惑な騒音も相変わらず。
    今ならこうして普通に話せるけど、当時はムカつくのを通り越してなんだか気持ち悪かったし。急にガチャガチャバンバン鳴り出す玄関に驚くってのもあるけど、ちょっとの注意であそこまで執着するような人間がすぐ隣に住んでるってのが一番キツかったんよ。いっそのこと、トーリス呼んで捕まえてもらおかなとか思うくらいに。
    けど、結果としてトーリス呼ぶまでもなく、そいつは消えた。いつの間にか引っ越してたんだし。



    あっちで暮らしはじめてから、ゴミ出しのときよく一緒になる年配のご婦人がおってな。マンションの通路なんかで会うと、挨拶したり軽く雑談したりしてたんよ。
    彼女はここに長いこと住んでて、同じような古株の知り合いもいたからマンション内の大抵のことは知ってた。どこそこの夫婦は絶縁寸前らしいだとか、この前あそこの子供が別の部屋の子供と大喧嘩して怪我したとか、まあ、いわゆるゴシップが大半やったけど。
    右隣からの嫌がらせに業を煮やしてた頃、たまたま彼女に愚痴ったことがあったんよ。何だっけ、右隣は夜中にあんな騒音立てて今までよく苦情つけられんかったし!みたいなことを。そしたら彼女は「あのお隣は空室ですからね」って。どうりでおれ以外あいつに文句つけてないわけだって納得したし。
    そのことが後日 他の古株仲間を通じて大家まで伝わったのか、右隣の奴に直接注意が飛んだんだと。
    当初シラを切っていたあいつは、夜中の騒音の件になると突然困惑し出したらしい。それは本当か、何かの間違いじゃないのかと再三大家に尋ねて、慌てた様子で電話を切ってしまった。
    ……そういえばその少し前、いきなり右隣の奴が押しかけてきたことがあったんよ。新手の嫌がらせだと思って、ドアを開けなかったけど。いつになく長いこと扉を叩き続けてたから、よく覚えてるし。
    それ以降、毎日のようにうるさく鳴ってた玄関がピタリと静かになったから、大方諦めたか嫌がらせの現場を他の奴に見つかって止められたかしたんだろうと思ってた。



    けど実際のところ、あいつは数日のうちに荷物をまとめてどっかへ転居していたんやし。俺がそれを知ったのは、後日ゴミ出しで例のご婦人と話したとき。
    詳しい理由は知らんし。彼女は大家に嫌がらせがバレていづらくなったからじゃないかって言ってたけど、俺はあんまり納得してないんよ。
    あいつの今までの行動を省みても、まともに注意を受け入れる人間だとは思えない。だから本当の理由は、別にあるんじゃないかって。
    その本当の理由ってのは……あくまで想像やけど。真夜中に右隣、あいつの部屋から聞こえてきた騒音と何か関係あるんじゃないかと思うんよ。
    どうして気付かんかったんやろな。俺、最初に文句言いに行く前から、右隣の奴の声、知ってたんよ。深夜にしょっちゅう壁越しの騒音に起こされてたから。そんでようやく、初めてあの住人を見たときの違和感の正体もわかった。
    壁越しに聞こえてたのは、年配の男の声だった。
    だから俺は、右隣にはおっさんが住んでるものと思い込んでたんよ。ところが実際は若い男で、予想が外れたから変な感じがしたんやろな。
    迷惑な隣人についての話はこれで終わり。あいつがどうして急に引っ越していったのかはっきりしたことは誰も知らんし、夜中に聞こえてた声の主についても同じ。右隣の奴は一人暮らしだったらしいけど、もしかしたら寝てる間だけおっさんみたいな声になる夢遊病者だったかもしれんし。



    ……あ、補足っていうか、後から耳にした噂な。
    あのメトロの周辺、かなり空き巣被害が多いところなんやって。特に、うちのマンションのすぐ真横にあるでかいビル。あそこは規模が規模なだけにしょっちゅう盗難が頻発してて、過去には空き巣犯と鉢合わせした男性が刺される事件まで起きてた。
    男性は亡くなり、犯人は逃走。結局捕まらなかったそうやけど、男性がちょっとゴミ出しに部屋を離れた隙に空き巣が侵入したっていう警察の見立てから、犯人は近隣に住んでる人物じゃないかともっぱら噂されてたみたいやし。
    ……俺の住んでたフロアの突き当たり、あそこからなら柵を越えて横のビルへ渡れそうだよなあ、なんてな。
    その後は嫌がらせや騒音に悩まされることもなく、トーリス呼んだりご婦人の誕生日パーティーに呼ばれたりして残りの任期を過ごした。
    けど、今でも時々思い出すんよ。ゲラゲラ笑うおっさんの声と、右隣のドアの隙間から見えた、空き巣に荒らされたみたいに散らかった室内の光景を……
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    Tonya

    TRAININGお題「神のハゲ」
    ボクタイ ジャンゴ
    大変なことをしてしまった。
     ジャンゴは頭を抱えていた。
     窓の外はしとしと雨が降っている。おてんこは籠に入って眠り込んでいた。はみ出たひまわりに似た頭部は不自然につるりとしている。てっぺんの花びら型のパーツが一枚、欠けているためだ。
     欠けたものはどこへいったかというと、ジャンゴの手の中にあった。
     痛ましい相棒の姿にジャンゴは再び視線を下げた。
     おてんこさまを毟ってしまった!
     故意ではない。不慮の事故である。
     なぜこんなことが起きたのか。
     遡ること数十分前。

     最近は雨続きで、今日も細い糸のような雫が街を包んでいた。雨は雨で恩恵がある。リタやマルチェロは結構好きだと言っていた。染み込んだ雨水は大地を潤し、草木の糧となり、やがて空へ帰っていく。自然の循環を感じるらしい。なるほどと思う。
     しかし、ジャンゴは太陽少年である。銃のバッテリーチャージには日光が必要だ。他の武器でも戦えはするが、ソル・デ・バイスのない今、属性攻撃の際にはやはり銃が入用になる。お天気下駄は切らしているし、回復用アイテムでまわすにしても諸々の返済で懐はひと足早く冬を迎えている。太陽スタンドの中身は言わず 4226