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    kingyo017

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    kingyo017

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    リヴァハンのお仕事デートを書きたい→どんどん横道に逸れていって収拾が付かなくなってきたので一旦区切ります。できれば完成させたい。マーレのモブ捕虜が出てきます。

    #リヴァハン
    riverhan.

    氷爆石を探しに行く話(仮題) 小さなパンが二切れ、スクランブルエッグ、薄い野菜スープ。ふかした芋に塩を一振り。
     できるだけ時間を掛けて食べようとしたが、簡素な朝食はものの10分と経たずに終わった。扉の向こうにトレイが消え、施錠の音と共に兵士の足音が遠ざかっていく。
     再び一人になったマインズは、質素なベッドに寝転んで天井を仰いだ。やることがないのでただ徒に記憶を巡らせ、ここに来た日のことを思い出す。
     あの日は正しく人生最悪の日だった。
     『悪魔の島』に乗り込むからにはそれなりの覚悟をしていたつもりだが、いきなり乗っていた艦船を巨人に釣り上げられるなんて聞いていない。やっとのことで陸に上がれば、そこに待っていたのは若干頭のネジが飛んでいるんじゃないかと疑わしい隻眼の女と、マーレの軍人でもそこまでじゃないぞと言いたくなるほど凶悪な目つきの小男。笑えない冗談で歓迎され、この監獄に連れてこられたのがほんの十日ほど前。あのときは、本気で死を覚悟した。
     ところが、その後はというと。
     食事のメニューはマーレと比べてお粗末の一言だが、意外にも捕虜として与えられたこの部屋での暮らしはそう悲惨なものではなかった。三食昼寝付き、今のところ拷問も受けていない。敵国の要人でもない、ただの捕虜を放り込んでおくにはもったいないほどの部屋だ。築年数はそんなに新しくもなさそうだが、何しろ掃除が行き届いているため、居心地は悪くない。ここを管理する人間のポリシーなのか、収容される捕虜の主な仕事は室内の徹底的な清掃だ。少しでも掃除の手を抜くと見張りの兵士が飛んできて「真面目にやれ。俺が兵長に怒られちまうだろ」となんとも緊張感に欠けた檄を飛ばす。
     そこまでされるのにはさすがに閉口するが、清潔だって保たれていて、むしろマーレ軍の捕虜に対する扱いよりもよほど人道的と言えるのではないだろうか。
     だからこそ余計に不気味で、不快感が増す。得体が知れない。
     『島の悪魔』と呼ばれる連中は、一体何を考えているのか。

     物思いにふけるにはうってつけな朝の静寂が、突然廊下に響き渡る足音でぶち破られ、マインズは思わず跳ね起きた。上陸当時と同じ怖気が背筋を這い、竦み上がる。
     どうか自分のところに来てくれるなという願いもむなしく、それは迷いなくこの部屋の前で止まった。
     ――ああ、ついにお迎えが来やがった。俺はここで処刑されるのか。
     頭の中を走馬灯が駆け巡る。祖国に残してきた妻、両親、友人、仕事仲間……理不尽な終わりを迎えようとしている人生を一瞬で振り返り、鼻の奥がつんと染みた。
     解錠する数秒の間を置いてから、ドアが開けられる。死神の足音は厳かというよりはやや軽薄に床を鳴らした。
    「やあ、君がマインズだね! 地質調査のことなら君が第一人者だってイェレナから聞いてるよ! さっそくだけど我々に同行してもらえないかな? 友達も一緒だから安心してよ。いやぁ楽しい旅になりそうだなあ!」
     片眼をぎらつかせた女に両肩を掴まれ、マインズは人生最悪の日が更新される予感に打ち震えた。

    ***

    「氷爆石の調査に行こうと思うんだ」
    「あ?」
     遥か東方の国、ヒィズル国の特使であるキヨミ・アズマビトが来訪してから数週後。ハンジとリヴァイは、調査兵団本部の団長室で机を挟んで向かい合っていた。
    「キヨミ女史が言ってただろ。氷爆石は金になる。あの食いつき方からして、相当に有用性の高い資源であることは間違いなさそうだ。だが彼女の言うとおり、まだ埋蔵量すらも確認できていない。今後港を通して他国と貿易することを視野に入れるのなら、交渉材料について我々自身が無知だとまともな取引もできない。いいようにつけ込まれて不利な取引をさせられる可能性だって十分にある。私たちは立体機動装置の動力源としか思ってなかったけど、うまく活用すれば文明の遅れを取り戻すのも五十年まではかからないかもしれない」
    「……お前の言うことは一理あるが、それは俺たちがやるべきことか?」
    「こんな重要なことを憲兵だけに任せられると思うかい? それこそ新たな汚職の種になるかもしれないよ。ナイル師団長や一部の兵士はともかく、彼らだけじゃ古くから染みついた憲兵の腐臭を拭いきれないのは事実だ」
    「それはそうだが」
     答えながらリヴァイはハンジの目を見つめ返した。正確にはその下に刻まれた隈を観察した。昨今ますます色濃くなっていく黒い陰は、そのままハンジが背負うものの重量を示しているようだ。だが誰かが彼女の代わりをできるかといえば、そうもいかない。「ハンジが駄目なら次だ」と言ったのはエルヴィンだったが、二年前に調査兵団はウォール・マリアと引き換えにハンジとリヴァイ以外のベテラン兵をすべて失った。当時生き残った若者たちも頼もしく現在の兵団を支えてくれてはいるが、さすがに団長の抱える膨大な職務を分け担えるほどではない。今は、まだ。
     何より氷爆石の調査というなら、兵団では随一の研究者ポジションにいたハンジが適任なのは異論の唱えようがない。そしてハンジが自分でやると決めた以上、そこに横槍を入れることがいかに無益な作業であるか、リヴァイは誰より骨身に染みてよくわかっている。
     数秒の逡巡ののちにリヴァイが説得を諦めたことなど知る由もないハンジは、「だろ?」と当然彼の了承を得たものとして話を進める。
    「残念ながらエルディア国の技術では地下資源の精密な調査を行うのはまだ無理だ。かといってヒィズル国に協力してもらうのは実質あちらさんに資源を引き渡すのに等しい。国としてそれはまずいだろ。イェレナに聞いたら、拿捕したマーレ船の中に地質技師や採掘師もいるらしいんだ。あちらさんも考えてることは同じだね、もしパラディ島に潜入できたら密かに地下資源についての調査も行うつもりだったようだよ」
    「そいつらを連れていくってことか」
    「その通り。それであなたに頼みたいことというのはね、私が不在の期間の団長代理を引き受けてほしいってことなんだ。まあ今回は本格的な調査じゃなく、埋蔵量を推定するのに今後どういった機材や設備が必要かの確認みたいなものだから、移動含めて五日ほどで帰ってくる予定だよ」
    「オイ待て。お前一人で行くつもりか」
    「だからマーレの技術者を連れてくって言ってるだろ。もちろん現地で実際に働いてる壁内の技師にも協力してもらうつもりだよ」
    「そういうことじゃねえ。団長のくせに供もつけずに長旅に出るなんざ危機感が無さ過ぎるだろ。いくら民間人でも捕虜の身でこっちに友好的なわけがねえし、複数連れていったら結託して逃亡を図るかもしれねえだろ。万が一にも逃げられて、貴重な資源の情報を外に漏らされてみろ、それこそこの国の終わりだぞ。お人好しも大概にしろ」
    「もちろん私一人だけでは行かないさ。兵団から誰か連れていくよ」
    「俺を連れていけ」
    「はあ?」
     今度はハンジが疑問を呈する番だった。左目を覆う眼帯をぐりぐりと弄るのは苛立ったときの癖だ。
    「捕虜とはいえ民間人相手にあなたが出張る必要ないよ。一〇四期も鉄道の建設準備で忙しくなるし、駐屯兵からの転属組の誰かにでもお願いしようかと思ってるんだ」
    「わかってねえなお前は。お前が連中に頼もうとしてるのは団長の護衛だぞ? つい最近までぬるま湯に浸かってた奴らには荷が重すぎる役目だ」
    「辛辣だなあ。でもまあ交代要員も含めて三、四人もいれば安心だろ?」
    「俺を連れていったら、一人でそいつらの三倍は働いてやる」
     ヒュウ、と行儀悪くハンジの口笛が響いた。
    「私たちが不在の間の代行は?」
    「実務的なことはジャンとアルミンの二人体制でなんとかなるだろう。高度な判断が必要そうな場合はピクシスの爺さんにも指示を仰げばいい。その代わり、日程は五日じゃなく四日にしろ」
    「実質滞在期間は二日か……。まあ、下見程度ならなんとか……」
     顎に手を添えて何事かの計算をしていたハンジは、やがて納得したように頷いて顔を上げた。厚い雲の切れ間から覗いた陽光のような、久々に見る笑顔だった。
    「よし、一緒に行こうリヴァイ。久々に調査兵団らしい仕事ができるね!」

    ***

     調査兵団の歴史は、氷爆石とともにあると言っても過言ではない。
     およそ百余年にわたる壁内の歴史において、立体機動装置の開発は、それまで巨人と対峙したが最後、蹂躙されるがままだった人間たちに革新的な光明をもたらした。踏み潰され、あるいは臭気漂う口内に飲み込まれるだけだった命は、ブレードとワイヤーにより抗う術を覚えたのだ。
     その立体機動装置の動力として不可欠なのが、結晶化されたガス鉱物である氷瀑石である。
     固形化したガスであるこの石は、融点以下の温度を保てる、某工場都市の地下洞窟内にしか存在しない。その正確な場所は政権内でもほんのひと握りの人間しか把握していないと言われる。氷室のようなカルデラ湖の底に沈んでいるそれらが青白く光るさまは、この世のものとは思えないほど美しいという。
    「訓練兵団にいた頃、教官にその話を聞いて、どうしても見に行きたくなってね。年越し休暇のときに帰省せずにその工場都市に潜り込もうと考えたんだ。私もその頃はくそ真面目だったからさ、教官に聞いたんだよ。その都市の場所を教えてくださいって」
    「どうなった」
    「こっぴどく叱られて終わりだよ。でも諦めきれなくて、休暇に入ってすぐに王都の図書館まで出向いて、百年前から現在に至るまでの地図を見比べてあたりをつけたんだ。なかなかの執念だろ?」
    「そうだな――だが、その話はもうオチが見えた」
     ばつが悪そうにハンジが肩を竦めた。
    「ああそうだよ……そのとき図書館で借りた化学書が面白くて徹夜で読んでたら熱を出して休暇中ずっと寝込んでたんだよ! 何しろ真冬だったからね!」
    やけくそのように吐き捨てられた台詞に、リヴァイはお見通しだと言わんばかりに鼻を鳴らした。
    「お前は昔っから変わっちゃいねえな。興味が向くとすぐ突っ走りやがる」
     まあ、前よりはずいぶんおとなしくなったが――と付け足された声は小さく、特にハンジをフォローするつもりもないようだった。
    「あなただって人のこと言えないだろ? 何かというとすぐ破壊行動に及ぶんだから。地下室のときだっていきなり扉を蹴り破るし――」
    「こんなところで説教はやめろ。それより積年の願いが叶ってめでてえじゃねえか」
    「うん……まあね」
     ハンジははにかむように目を伏せた。歴戦の女兵士の表情が、急に小娘のように幼くなる。リヴァイはそれを横目で一瞥し、見るべきものは見たとでもいうように馬車の窓の外に視線を移した。

     なんなんだこれは?
     隣から困惑したような同胞の視線を感じたが、俺が知るかとマインズは目を彷徨わせた。
     目の前で繰り広げられる他愛もない掛け合いは、馬車に乗り込んでからずっと続いている。そう、この二人に軟禁されていた官舎を連れ出され、噂の稀少資源のある都市に向かう道中ずっとだ。
     ハンジという女に強引に勧誘された二日後、マインズがハンジに連れられて馬車に乗り込むと、中には先客がいた。例の小柄なわりに威圧感のすごい兵士長と、その向かいで怯えたように座る同郷の男だった。
    「ゲルト! お前も行くのか」
     マインズが声をかけると、ゲルトはほんの少し安堵したような顔になった。
    「ああ……よかった、俺一人じゃなかったんだな」
    「なんだリヴァイ、彼にはお友達も連れていくって伝えなかったのかい」
    「どうせすぐわかることなんだから構わねえだろ」
    おそらく公的な立場としては調査兵団団長の方が上のはずだが、兵士長の団長に対する物言いはだいぶぞんざいだ。マーレ軍では考えられないことだが、あまり階級に拘らない組織なのかもしれない。
    「まあ、ゲルトにとっては嬉しいサプライズだったんじゃないかな? 君たちをお迎えしたのが一ヶ月ほど前だから、久々の感動の再会だね!」
    そしてこのハンジという団長が実に不可解だった。どこまで本気なのか、ふざけているのか、こちらを舐めているのか、逆に気を遣っているのか、あるいは全くの天然なのかわからない。なんというか、佇まい、言動が軽い。一般的に兵士や軍人につきまとう重厚な印象が全く感じられないのがかえって不気味だった。
    「とはいえ、何も知らされず馬車に乗せられたんじゃ怖いよね。マーレの先遣隊として選ばれるほど優秀な地質技師と採掘師である君たちに、どうしても力を貸してほしいんだ」
    穏やかな表情を崩さないままハンジは本題に入った。
     その島に眠る未知の鉱物について、噂を聞いたことはあった。
     氷爆石というその石は、現在世界中で採掘されている石炭を上回るほどエネルギー効率のいい鉱石だという話もある。その他にも、まだ発見されて間もない石油や特殊な金属などの資源も埋まっている可能性がある。世界から隔絶した文明を生きる悪魔たちは、地下に眠るそれらのもたらす富にも気づかずのほほんと暮らしている。まさしく宝の持ち腐れだ。その価値を正しく活用できる者に与えられてこその宝だろう。
    「マーレからすれば我々の文明は100年相当遅れてる。今さら見栄を張るつもりはないよ。どんなに頑張っても追いつくのには50年かかると言われてる。それでも、たとえ一分一秒でも、私はその遅れを少しでも取り戻したいんだ」
     まるで教師に将来の夢でも語るかのような顔で語るハンジを、マインズは内心冷ややかに見つめた。
     呑気なこった。だが、チャンスかもしれない。
     協力するふりをしてパラディ島の資源についての情報を得て、あわよくば脱出する――きっと、マーレは先に派遣した船が消えたことに気づいて、早々に次の船を出すはずだ。それに拾ってもらえればマーレに帰還できる。
     すぐに脱出は無理でも、この島の権力の中枢に取り入ることができればそれはそれでメリットは大きい。
    (ゲルト、手を組もう。必ずマーレに帰るぞ)
     マインズはハンジに呆れたふりをしてゲルトに目配せした。こちらの意図が伝わったのか、そうでないのか――ゲルトは苦笑して肩を竦めた。
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    kingyo017

    MOURNINGリヴァハンのお仕事デートを書きたい→どんどん横道に逸れていって収拾が付かなくなってきたので一旦区切ります。できれば完成させたい。マーレのモブ捕虜が出てきます。
    氷爆石を探しに行く話(仮題) 小さなパンが二切れ、スクランブルエッグ、薄い野菜スープ。ふかした芋に塩を一振り。
     できるだけ時間を掛けて食べようとしたが、簡素な朝食はものの10分と経たずに終わった。扉の向こうにトレイが消え、施錠の音と共に兵士の足音が遠ざかっていく。
     再び一人になったマインズは、質素なベッドに寝転んで天井を仰いだ。やることがないのでただ徒に記憶を巡らせ、ここに来た日のことを思い出す。
     あの日は正しく人生最悪の日だった。
     『悪魔の島』に乗り込むからにはそれなりの覚悟をしていたつもりだが、いきなり乗っていた艦船を巨人に釣り上げられるなんて聞いていない。やっとのことで陸に上がれば、そこに待っていたのは若干頭のネジが飛んでいるんじゃないかと疑わしい隻眼の女と、マーレの軍人でもそこまでじゃないぞと言いたくなるほど凶悪な目つきの小男。笑えない冗談で歓迎され、この監獄に連れてこられたのがほんの十日ほど前。あのときは、本気で死を覚悟した。
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