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    squall_0610

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    squall_0610

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    人魚×少女アンソロに寄稿予定でしたが、人間の姿から人魚の姿になる気配がなくなってきたので書き出しだけ埋葬します。

    #没原稿
    rejectedManuscript

     小エビが生まれ育った世界の大昔には「光源氏計画」と呼ばれるものがあるらしい。
     なんでも、大昔に存在していた当時でいっとう尊く美しい人が、恋慕していた養母によく似た少女を自らの手で養育し、美しく育て上げて後に自分の妻としたそうだ。それが転じて、いい歳の大人が幼い少女を自分にとって理想的な「大人の女」に育て上げることをそう呼ぶ、という話だった。
     オープンしてから数ヶ月。今日も大盛況で営業を終えたモストロ・ラウンジ二号店で閉店作業をしている時の与太話として小エビが口にした事だったが、経営者席に座るアズールは顔を顰めて「ろくでもない大人ですね」と切り捨てた。その横に控えていたジェイドは口元に笑みを浮かべて、視線はタブレットに向けたまま「そうですね」と同意してみせる。フロイドはソファにひっくり返っていたが、小エビはフロイドの気まぐれ加減をよく知っているので、特に反応を求めることはなかった。
     その時フロイドは、小エビが語った内容に引っかかるものを覚えて、その違和感はいったいなんだったかなと、記憶の海に潜って探していた。ようやくその心当たりについて思い出したのは、すっかりラウンジの仕事も終えて、身の回りも整え終わった頃。ベッドに入って布団を被り、さあ寝るぞ、と目を閉じた瞬間だった。
     あれ、ジェイドもそんな感じのこと、してなかったっけ。
     それはつい、三ヶ月ほど前のこと。
     拾ったんです、今日から僕が世話をします。などと言うジェイドに紹介された、小さな小さな人間の少女のことを、フロイドはようやく思い出した。
     それは本当に人間なのかと疑問に思うほど、見窄らしい姿。体に纏うぼろ切れは土汚れやら滲んだ血液やら色々なもので汚れていて、見るに堪えない。しかしジェイドはそんなことは全く気にもせずににこにこと満足そうな笑みを浮かべながら、腕の中の少女をアズールとフロイドに見せつけてきた。
     アズールと同じブランドで仕立てたばかりのスーツはその辺の店のレディメイドなものとは異なる一点ものだというのに、それを汚すことすら厭わず、ジェイドは腕の中の少女を抱く力を強める。そんな姿を見てしまっては、フロイドは「あ、これ梃子でも動かねぇな」とすぐに察した。
    「そういうことでよろしくお願いしますね」と言って踵を返して部屋を出ていったジェイドを追って、フロイドはジェイドの隣を歩く。そうしてもう一度腕の中のそれを覗き込んでみれば、昆布のような色合いの長髪の間からきらりと輝くオブシディアンと目があった。
    「ジェイド、こんなの拾ってどうすんのぉ?」
     尋ねると、ジェイドは「どうしましょうかね」などと返事にならない相槌を打って、それから困り眉を作る。
    「気まぐれですよ。なんとなく、面白そうだったので」
     そう語るジェイドに「ふうん」とフロイドも気のない返事をして、ラウンジに備え付けられているシャワールームに入っていったジェイドを見送る。
     ジェイドはただの「気まぐれ」と口にしたが、いったい自分がどんな顔をしているのか、自覚しているのだろうか。
     その表情は、ただ面白いものを見つけたというよりは、学生時代から熱中しているキノコを見つめている時や、山に登る準備をしている時や、テラリウムの手入れをしている時と、同じ――持続性の高い好奇心が滲んだものだった。
     あの稚魚も運がなかったなとフロイドはひっそり考えて、長い足でリズムを刻みながら廊下を歩く。
     きっとあの子は、一生ジェイドから離れられないんだろうなと、漠然とした確信があった。
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    squall_0610

    MOURNING人魚×少女アンソロに寄稿予定でしたが、人間の姿から人魚の姿になる気配がなくなってきたので書き出しだけ埋葬します。 小エビが生まれ育った世界の大昔には「光源氏計画」と呼ばれるものがあるらしい。
     なんでも、大昔に存在していた当時でいっとう尊く美しい人が、恋慕していた養母によく似た少女を自らの手で養育し、美しく育て上げて後に自分の妻としたそうだ。それが転じて、いい歳の大人が幼い少女を自分にとって理想的な「大人の女」に育て上げることをそう呼ぶ、という話だった。
     オープンしてから数ヶ月。今日も大盛況で営業を終えたモストロ・ラウンジ二号店で閉店作業をしている時の与太話として小エビが口にした事だったが、経営者席に座るアズールは顔を顰めて「ろくでもない大人ですね」と切り捨てた。その横に控えていたジェイドは口元に笑みを浮かべて、視線はタブレットに向けたまま「そうですね」と同意してみせる。フロイドはソファにひっくり返っていたが、小エビはフロイドの気まぐれ加減をよく知っているので、特に反応を求めることはなかった。
     その時フロイドは、小エビが語った内容に引っかかるものを覚えて、その違和感はいったいなんだったかなと、記憶の海に潜って探していた。ようやくその心当たりについて思い出したのは、すっかりラウンジの仕事も終え 1469

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    squall_0610

    MOURNING人魚×少女アンソロに寄稿予定でしたが、人間の姿から人魚の姿になる気配がなくなってきたので書き出しだけ埋葬します。 小エビが生まれ育った世界の大昔には「光源氏計画」と呼ばれるものがあるらしい。
     なんでも、大昔に存在していた当時でいっとう尊く美しい人が、恋慕していた養母によく似た少女を自らの手で養育し、美しく育て上げて後に自分の妻としたそうだ。それが転じて、いい歳の大人が幼い少女を自分にとって理想的な「大人の女」に育て上げることをそう呼ぶ、という話だった。
     オープンしてから数ヶ月。今日も大盛況で営業を終えたモストロ・ラウンジ二号店で閉店作業をしている時の与太話として小エビが口にした事だったが、経営者席に座るアズールは顔を顰めて「ろくでもない大人ですね」と切り捨てた。その横に控えていたジェイドは口元に笑みを浮かべて、視線はタブレットに向けたまま「そうですね」と同意してみせる。フロイドはソファにひっくり返っていたが、小エビはフロイドの気まぐれ加減をよく知っているので、特に反応を求めることはなかった。
     その時フロイドは、小エビが語った内容に引っかかるものを覚えて、その違和感はいったいなんだったかなと、記憶の海に潜って探していた。ようやくその心当たりについて思い出したのは、すっかりラウンジの仕事も終え 1469

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    squall_0610

    MOURNING人魚×少女アンソロに寄稿予定でしたが、人間の姿から人魚の姿になる気配がなくなってきたので書き出しだけ埋葬します。 小エビが生まれ育った世界の大昔には「光源氏計画」と呼ばれるものがあるらしい。
     なんでも、大昔に存在していた当時でいっとう尊く美しい人が、恋慕していた養母によく似た少女を自らの手で養育し、美しく育て上げて後に自分の妻としたそうだ。それが転じて、いい歳の大人が幼い少女を自分にとって理想的な「大人の女」に育て上げることをそう呼ぶ、という話だった。
     オープンしてから数ヶ月。今日も大盛況で営業を終えたモストロ・ラウンジ二号店で閉店作業をしている時の与太話として小エビが口にした事だったが、経営者席に座るアズールは顔を顰めて「ろくでもない大人ですね」と切り捨てた。その横に控えていたジェイドは口元に笑みを浮かべて、視線はタブレットに向けたまま「そうですね」と同意してみせる。フロイドはソファにひっくり返っていたが、小エビはフロイドの気まぐれ加減をよく知っているので、特に反応を求めることはなかった。
     その時フロイドは、小エビが語った内容に引っかかるものを覚えて、その違和感はいったいなんだったかなと、記憶の海に潜って探していた。ようやくその心当たりについて思い出したのは、すっかりラウンジの仕事も終え 1469