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    8hacka9_MEW

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    救世主の役割を終えた直後のワタルと俊のお話。6月位を想定。

    ラムネ

    喉が、かわいた。
    熱くて、あつくて、そのまま全部干上がってしまいそうなくらいに、
    のどが

    「ワタル!」

    耳元の大きな声に、ワタルは跳ね起きた。目を瞬かせると、担任の呆れ顔が目に入った。
    「お目覚めか?暑いのによく寝るな」
    「あ、はい…すみません…」
    周りから、クスクスと笑い声がして、ワタルは気まずそうに頭をかいた。
    「暑いのは分かる。先生だって皆だって暑い。もうすぐ夏休みだから、余計に気が緩むのは分かる。でもな、休みの前にやらなきゃいけないこともある。寝ている場合じゃないぞ」
    「……はい」
    「後で職員室に来なさい」
    う、と、ワタルは声を詰まらせて、気まずそうに頷いた。
    「はい……」
    担任が前に向き直り、由美が、大丈夫?と聞いてきた。ワタルは、声に出さずに頷いた。
    授業が再開されるも、ワタルの耳に内容はあまり入ってこなかった。

    授業がおわったのち、職員室に赴いたワタルは、少なからず緊張した。今週は何度も授業中に眠ってしまっている。怒られるのではと、自然、構えてしまう。けれど、実際に担任からかけられた言葉は、ワタルの体調を気遣う言葉だった。夜ちゃんと眠れているか、食事はきちんと取れているか、何か心配事や悩み事があるのか、など。
    ワタルは恐縮するも、たいした事ない、暑いせいです、とだけ答えた。叱られると思ったが、担任はそれ以上聞かず、早く帰って休みなさい、とだけ言った。

    既に下校時刻だったので、人はまばらだった。由美も先に帰っている事だろう。ワタルが荷物を持って、下駄箱に向い、靴を履き替えている時だった。少し雨が降っていたが、ワタルは傘を持っていなかった。
    「おい、ワタル」
    聞き覚えのある甲高い声に、ワタルは少し顔をしかめて振り返る。靴に履き替えている俊が、傘を持って玄関口に立っていた。
    「なんだよ」
    また何か嫌味でもいいに来たのかと、ワタルは内心、辟易した。
    「ちょっと来いよ」
    「ええ?」
    「どうせヒマだろ?」
    「これから帰るんだけど……」
    「帰り道なんだから、いいから来いっての!」
    誘われているのだろうが、命令口調なのがワタルは面白くなかった。けれども、突っぱねるのも面倒なので、ワタルは頷いた。
    「どこ行くって?」
    「黙ってついて来ればいいよ!」
    俊はワタルを見向きもしないで、スタスタと行ってしまう。無視しても良かったが、やはり、逆らうのが面倒で、ワタルは小さくため息をついて、俊の後を追った。

    着いた先は、一軒の駄菓子屋だった。
    「ほら」
    何故だか俊は、ラムネを二本買って、一本をワタルによこした。傘もなく、少し濡れているワタルは、意味が分からず、顔をしかめた。
    「なんで」
    「いいから飲めよ」
    「今飲みたい気分じゃ……」
    「余計な事言わないで、飲めばいいだろ?」
    ぐいっと、俊がラムネの瓶を押し付けてくる。渋々ワタルは、それを受け取った。
    俊は、ワタルを見ずに、ラムネの口の部分のパッケージを剥がし、手のひらで線の部分の球を叩いた。ぽん、と軽い音と共に、シュワッと、炭酸の泡が弾ける音がする。瓶に沈んだガラスの球は、周囲に泡をまとい、ゆったりと炭酸水の中を漂っていた。俊が、あおる様に瓶を傾ける。途端に、激しく咳き込んだ。
    「おい……大丈夫か?」
    「うるさいな……っ、炭酸は苦手なんだよ」
    「はあ?じゃあなんで、これを買ったんだ?」
    「そういう気分だったんだよ」
    言いながら、俊は再びラムネを飲む。少し眉根を潜めながら飲むその様は、あまり美味しそうには見えない。
    そうはいっても、突っ返すのも億劫だったので、ワタルは俊と同じ様に、ラムネの栓のガラス玉を押し込み、瓶を傾けた。ピリリとした刺激と共に、甘味が喉を通る。少し強い刺激は、俊でなくとも眉をひそめたくなったが、それでも、熱のこもった体を、ゆっくりと冷やしてくれる様な気がした。
    「ラムネって、涙が出るよな」
    俊が、何気ない口調で言った。
    「なに?それ」
    「別に……」
    ワタルの問いに、俊は答えなかった。乱暴に、駄菓子屋の脇にあるケースにラムネの瓶を押し込んだ。
    「じゃあな」
    俊は素っ気なく言って、ワタルの前を素通りし、振り返らずに行ってしまった。ワタルはその背中を見送り、再びラムネに口をつける。
    (……ラムネ代、渡してないな…)
    少しずつ飲みながら、ワタルは思い返した。明日でもいいか、と思いつつ、すぐ口を離した。喉にラムネの刺激が染みて、自然、視界が滲んだ。
    “ラムネって、涙が出るよな”
    「なんだい、俊にそんな事言われたくは……」
    呟きながら、涙が溢れた。雨の雫と相まって、ワタルの顔を濡らしていく。ワタルはそれを、ラムネのせいにした。もう、顔を拭うのも、億劫だった。

    ワタルが『救世主』の役割を終えて、まだ3日の事だった。
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