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    8hacka9_MEW

    @8hacka9_wataru

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    2021年のクリスマスに、突発的にTLに流したお話です。想いを届けたいヒミコと、虎王とワタルの話。

    星を届けてキラキラ光る星を見上げて、ヒミコはほうっと、白い息を吐いた。
    「今日はクリスマス、なのだ」
    その昔、『クリスマス』の事を知らなかった相手に、その意味を教えた時の事を思い出す。
    赤い服を着た使者が、子ども達にプレゼントを贈る日。
    その相手は「星が欲しい」と言っていた。
    その時ヒミコには、何故その様な事を言い出したのか分からなかった。
    けれど『欲しい』という物なら、あげたかった。本物は、あげるのが叶わなかったから、せめて自分の手で作った物をと渡したら、とても……嬉しそうに、笑っていた。

    「トラちゃん、星は見つかったのか?」

    空を見上げて、ヒミコはその向こう側に声をかける。返事はない。
    随分昔に、旅に出てしまったのだから。
    どこにいるか、いつ戻ってくるかも分からなくて、寂しくないと言えば嘘になる。
    けれど、共に過ごした事を思い出す度、心がふわりと、暖かくなる。
    相手も、そうであってくれているだろうか。
    側にいれば、この上なく明るく笑える様にしてあげられるというのに、今は、目にする事も、触れる事も、声を届ける事も出来ない、遠い遠い所にいる。
    心に星があるのなら、今すぐ届けてあげたかった。寂しくない様に。側にいるよと伝える為に。
    ヒミコは、自分の胸元の前でぎゅっと両拳を握る。
    目を閉じて、自分の中から拳の中へと、想いが伝わる様にと願いを込める。

    「…トラちゃんの所へ、飛んでいけ……!」

    パッと大きく腕を広げて、ヒミコは笑って、天を仰いだ。
    自分の想いと心が、そうやって……空を、星を通じて、相手に届けばいいと、そう思った。

    ヒミコは、今一度、同じ様に拳を握る。
    今度は、別の相手の事を考えての事だった。
    ぎゅうっと握った手を腕ごと大きく開き、再び天を仰いだ。

    「ワタルの所へ、飛んでいけ……!」

    白い息を吐きながら、目をキラキラさせながら、ヒミコは笑って、そうそう言った。

    遠く離れた友だちは、笑顔でいるだろうか?
    寂しくないだろうか?

    自分がいるよ、と、その想いを届けたくて……

    ヒミコは、自分の心が星へと変わり、空を通じて飛んでいって欲しいと、願った。



    寒風が吹く、とある夜空の下。
    焚き火の前で一人座り、暖を取っていた虎王は、ふと、気配を感じて、上空を見上げた。

    「………?なんだ……?」

    何かが、降ってくる。
    雪とも、羽根ともつかない、何か……白くて、ふわふわとして光っている物が『二つ』、虎王の元へと降り立とうとしていた。

    「………?」

    虎王は、二つのうち、先に降りてきた方に手を伸ばした。指先が、その光に触れた時……

    フワッと、虎王の体を、温かな物が包んだ。

    「……これは、ヒミコ……?」

    声が聞こえる訳でも、姿が見える訳でもない。
    けれど虎王は、今、ヒミコがすぐ側にいる時と同じ位の温かさを感じていると思った。
    虎王にとっての、春の日差し。
    どんなに寒くても、想い出すだけで心が柔らかくなる、そんな…気配を……

    「……ヒミコ……」

    虎王の口元が、綻んだ。周りはしんと冷えているのに、火にあたるよりも、虎王の体も心も、温かく満たされていった。

    次いで、今一度虎王は上を見る。眼前に落ちてきた『もう一つ』の光に、虎王はそっと触れた。
    ふわり、と、周囲が明るくなる心地がした。暗闇でも失われる事のない灯火、暗い道でも行先を照らす篝火の様な……

    「……ワタル………?」

    虎王は、大切な『トモダチ』の名を口にする。
    本の少し、泣きたくなった。
    苦難が訪れる度、迷いが生じる度、思い浮かべる顔。
    道を見失わない様、虎王が支えにし続ける、消える事のない希望の光……

    「励ましてくれてるのか?二人とも……」

    バカだな、と、虎王は小さく呟いた。どちらにともつかず、またどちらにも伝える様に。

    自分は大丈夫だ、と、言い切れるほど何かを見つけた訳ではなく。
    それでも、前に進もうという気持ちが失われる事はない。
    その力を、与え続けているのは………

    「………」

    虎王は目を閉じて、胸元に手を当てる。
    先ほど、自分が感じた暖かさを思い出す様に。
    感じた暖かさをそのままそっと掴む様にして、緩く拳を作る。
    少し腕を上に上げて、静かに手を開いた。

    同じ事を、今一度繰り返す。
    今度は、自らを照らした光の明るさを思い返した。
    緩く握った手を、再び上に掲げて手を広げる。

    そこから飛び立ったののが何かは……今は虎王のみが、知ることだった。

    「……そんなに、心配するな」

    苦笑して白い息を吐きながら、虎王は星が瞬く空を見上げていた。



    ワタルは塾の帰り道、クリスマスの音楽が流れる商店街を抜けて、一人帰路についていた。
    喧騒から離れた住宅街には、いくつか、クリスマスにふさわしい電飾が灯っている家がある。赤や黄色に青などの光が、チカチカと瞬いていた。

    かじかむ手と手を擦り合わせ、ふうっとワタルは、自らの手に息を吹きかけた。温い自分の吐いた息が、一瞬、手を温める。

    ふと、空を見る。
    今夜は寒くて、もしかしたら雪が降るのでは、と思ったが、上空にはわずかな雲があるばかりで、星と月が、よく見えた。
    凍える夜の空にひっそりと輝く月と、その周りに散りばめられ、小さいながらも強い光を放つ星。
    それらはまるで、寒い中、互いを温め合う為に寄り添っている様にも見えた。

    さながら………

    「……ん?」

    ワタルは、上空へと目を凝らす。
    最初は、雪が降ってきたかと思った。
    けれども『それ』は、雪というには大きくて、淡く光を放っているように見えた。

    「なんだろ……、あれ……」

    『大きめの綿帽子』という表現が、ワタルにはしっくりときた。
    月の白い光の一部が溢れ落ちたような『それ』は、ふわりふわりと漂いながら、ワタルへと降りて来る……

    「……?」

    どうやら『それ』は二つあるようだった。ワタルは先に降りてきた光へと、手を伸ばした。
    指先が、光へと触れた、その瞬間、

    『ワタル!』

    「え?」

    ワタルの脳裏に、明るく眩しく笑う姿が、思い浮かんだ。
    「これ……ヒミコ……?」
    指先から伝わってきた感触を、どう表現して良いのか分からなかった。けれどワタルの中には、ふつふつと、明るい気持ちが湧き上がって来る。
    まるで、たった今、とても楽しい思いをしたかのようだった。
    いつもいつも、どんな時も、ワタルの傍で眩しく笑い続けていた、彼女と過ごした時の様に……

    「今のがヒミコなら、こっちは……?」

    ワタルは、後から落ちてきた光へと手を伸ばした。淡く白い光が、指先へと触れると……

    『ワタル』

    「?!」

    ワタルの心に、一陣の風が吹く。
    迷いやためらいを、一瞬で吹き飛ばしていく様な……

    「……虎王?」

    心に浮かんだ名を口にする。
    先ほどの風を思い起こし、最後に別れた時の笑顔が蘇ってくる。

    今、どこでどうしているのかは、分からない。
    その旅路が、虎王にとってどんな物か、ワタルには知る由もない。
    けれど、今、確かに感じた風の力強さは、

    あの時のままで……

    「………元気なんだろうな、ヒミコも、虎王も……」

    けれど、と思う。
    だから、と想う。

    ワタルは目を閉じて、胸元に手を当てる。
    明るい笑い声を思い出し、それを掬い上げる様にして、手をすぼめた。
    手のひらを自分の口元に寄せ、ふうっと、上空に向けて、息を吹きかける。丁度、綿毛を飛ばす様に。
    再び、ワタルは手を胸元に当てて、目を閉じる。
    風を、力強い笑顔を思い起こし、掬い上げた想いを、息を吹きかけて上空に飛ばした。

    白い息は周囲に溶けて消えていく。
    けれど、届けたい想いは、消える事はない。

    そう願いながら、ワタルは、いつの間にか雲がかかり始めた夜空を見上げていた。



    周囲の闇が濃くなり、夜空には気付けば雲が多くなってきた。
    けれど創界山の虹が隠れる事はない。
    きんと冷える空気に、七色の輝きは一層美しく輝いている。
    けれどヒミコは、星が見えなくなってしまった事を残念に思った。雲の隙間が出来ないだろうかと、ヒミコは白い息を吐きながら、じいっと、空を見上げていた。

    すると……

    「なんか落ちて来たのだ!」

    曇り空から、ふわりふわりと、ほの白い『何か』が降って来た。まるで雪の様に、くるりくるりと、弧を描いている。けれど、雪ではないと、ヒミコには分かった。
    わくわくしながら、ヒミコは『それ』が降りてくるのを見守っていた。
    手の届く所まで来た時……ヒミコは『二つ』の『それ』に、手を伸ばす。

    ヒミコが、それに触れた時……

    光が、弾ける様に溢れた。



    眩しさに一瞬、ヒミコは目を閉じた。
    そうして、目を薄く開き……

    すぐさま、目を丸くした。

    夜のはずだった。
    けれど、周囲はほの白く輝いていた。
    上空は暗いのに、地面だけが光っている様だった。

    ヒミコの目の前に、人影があった。手を伸ばして掴むには遠く、けれど、とても近い距離に。『二人』とも、ヒミコと同じ様に目を丸くしている。

    喜びが、
    嬉しさが、
    幸せが、

    ヒミコの中に満ち溢れていく。

    「トラちゃんっ……、ワタル!」

    顔一杯の笑顔で、ヒミコは二人に笑いかけた。

    虎王もワタルも、それぞれの顔を見て、戸惑った様子だった。
    けれどヒミコの呼びかけに、顔を向けて……

    二人とも、ヒミコに笑いかける。
    とても、嬉しげに。

    次いで二人は、互いの顔を見る。目が合うと、少し気まずそうに…それでも、やはり嬉しげに、笑った。

    三人は、その場から動かなかった。
    虎王とワタルが、今一度ヒミコを見る。
    三人で共に過ごした日々が、思い起こされて……

    幸せな気持ちで、ヒミコは再び、虎王とワタルに、笑いかけた。

    二人もまた、ヒミコに笑いかける。ヒミコが大好きな笑顔だった。

    ほの白い光が、一層、輝きを増す。三人を温かく包み込む様に、視界を白く染めていった。



    気付くと、ヒミコの周囲は暗くなっていた。
    辺りを見回しても二人はいない。
    遠くに創界山の虹が見える。
    知らず、ヒミコはその虹を見つめた。その目端に、白いものが掠めた。
    上を見上げると……

    「……雪、なのだ!」

    キラキラと光る息を吐きながら、ヒミコは弾んだ声を上げる。
    夜空を隠した雲が、ふわり、ふわりと雪を降らせていた。
    ヒミコは、手の平で雪を受け止める。一瞬手の一部を冷やした白い結晶は、すぐに溶けて温い水へと変わった。

    ヒミコは、しんしんと降る雪を見上げた。耳や指先が冷たかったが、心はとても……温かだった。

    虎王とワタルの上にも、今、雪が降っているのだろうか?
    だとしたら、今三人は、同じ光景を見ている事になる。
    違う空の下でも、同じく雪を見て、そうして……

    きっと、ここにはいない『二人』の事を、想っていて……

    「………」

    少しだけ、ヒミコの笑みが寂しげな物となる。
    寂しくないと言えば、嘘だった。
    いつも、いつでも、会いたい時に会えるのなら、どれだけ良いだろう。
    けれど、それでも、

    笑った顔が見れた。
    元気そうな姿だった。

    それを知る事が出来た……その事が、

    ヒミコを、なによりも幸せな気持ちにしてくれた。

    雪は、後から後から降ってくる。地面を、木々を、そしてヒミコの髪や肩を、ゆっくりと白く染めていく。

    雪を降らす雲の向こう側には、星がある。
    星空がある限り、きっと三人は繋がっていられる。

    そう信じ、湧き上がる喜びと幸せな想いのまま……

    ヒミコは、雪空に向かって、とびきりの笑顔を向けた。
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