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    mary_trades

    @mary_trades

    基本デアアイ
    ※なんでも許せる人向け
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    mary_trades

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    狼男=🔧と吸血鬼=🍈に仮装した話と、ばざ×ぜたっぽい何か
    ※ハロウィンばざぜたのフェイトエピネタバレがあります

    ##デアアイ

    総額5000ルピの甘味「それで、アイザック。説明を要求する」
    「え? さっき伝えたばかりじゃないか」
    「……」
     あっけらかんとした男に、流石のデアン・クラックも眉を顰めざるを得なかった。
     ハロウィン、という空の祝宴は知っている。
     ファータグランデ空域にある古くからの言い伝えが町おこしとして脚光を浴び、空域を超えて広まっているということを団長である少年が説明してくれた。その日の晩は幽霊やミイラなどに扮して街を練り歩くのだとか。
     だが、それを加味してもだ。
     亜麻色の髪と瓜二つの毛皮を腕から生やし、大振りの耳と尻尾を揺らして目の前でくるりと回って見せた青年の姿はデアンに激震を齎した。
     一体なんだこれは。
     元から好奇心旺盛な男だ、自らの技量を磨くため錬金術に手を出したとしても何ら不思議ではない。むしろ、夜が更けてもランプの灯りを頼りにして設計図に向かう姿は眺めていて飽きることはない。
     だがこれは頂けない。
     愛くるしすぎる。
     以前グランサイファー内で猫、といった有機生命体と触れ合った事があるが、今の彼はそれに近しい容姿だ。
     微動だにしないデアンは猫に好かれ、胡坐の上で腹を出してじゃれつく個体さえいた。あの時はなんとも和やかな気分になったが、もし、彼に膝の上で甘えられたら。
     ぎりぃ。
     危ない。
     脳内でアドレナリンがヘドバンをしていた。もう少しで彼を砕くところだった。
     クラッシュした脳の演算を再起動している目の前で彼が肉球を見せつけながら両腕を上下させる。満面の笑みを見せる口から鋭い犬歯が覗いていた。
    「僕はダクトなワーウルフだよ、ガオー!」
    「……仮装か?」
    「ザッツライト! どうだい、上手く出来ただろう?」
    「ああ……そうだな」
    「ふふっ、実は君の分も作ったんだ!」
    「……」
     手渡されたのはシンプルなシャツと黒の光沢が美しいベスト、そしてローブ。
     全てデアンの規格外な体格に合致する造りになっており、髪を後ろに撫でつけて側頭部に小さな翼を固定すればドラキュラと遜色ない。

     わぁ、そっくりだ。

     はしゃぐ狼男にデアンも同意する。 
     体の造りはともかく、確かに姿形は瓜二つ。
     サイズ測定などしていないはずの衣装も体にフィットしていてほつれもない。
     それどころか裏生地にポケットまでついており無線機を隠し持つことさえ出来る万能仕様には職人のこだわりさえ見え隠れしている。
     感心して頷く、その手に渡されたのは飴が詰まった籠だった。
    「なんだこれは」
    「決まってるじゃないか、君も夢を配りに行くんだよ!」


    ーーーーーーーーーー

    「うわ……」
     なにあれ。
     ハロウィンの祭りの最中、かぼちゃを被ったバザラガの横で意気揚々と歩いていたゼタは頬を引き攣らせた。
     文字通り月から落ちてきた寡黙な戦闘狂と、一緒に置いておくだけで乾パンが湿気てしまいそうな気の抜けたエンジニア。
     人込みの中で頭一つ分飛び出している二人組は既に目立っているのに、彼らの頭には吸血鬼の翼と大振りの獣耳が生えていた。
     カオスだ。ここはいつから幽世に?
    「なにあれ……ちょっと、バザラガ……」
    「俺にはアイザックと、月の戦士デアン・クラック……に見えるな。頭の装飾品はともかくとしても」
    「嘘ぉ……私にもそう見えるんだけど……」
     それにハロウィンの祭事中というこの状況。
     頭が痛い。
    「ねぇバザラガ。グレイスと初めて出会った時も……ハロウィンだったわよね……」
    「みなまで言うな。気が滅入るぞ」
     それもそうだ。
     だから、祝宴に浮かれたカップルから逃げ出そうとしたのに、皮肉にもこちらのかぼちゃ頭もよく目立っていた。
     ゼタを見つけたアイザックが目を輝かせて駆け寄ってくる。しかもにふにふと笑っているアイザックの重心はデアンの方に寄っていて、寄りかかられているデアンは目尻を下げてアイザックを見つめている状態で。
     熱愛だ。揚げたてのアツアツだ。
     ……友達が彼氏とイチャつく姿なんて見たくないんですけど。
     しかも空の脅威と。
     睨んでもデレデレとしている狼男には効きはしない。彼はほんのわずかに赤らんだ頬に笑みを載せてデアンの胸元に体重を預けた。
     うわ、もうヤダ。
    「ハッピーハロウィンだ、ヒヨコちゃん! 気分はどうだい?」
    「あー、んっと……どうだろう……あはは…………はぁ……帰りたいわ……」
    「人混みが苦手なのかい? 奇遇だね、僕も同じだ! でも、今日はデアンが傍にいるからかな、とても楽しいんだ」
    「うーん……そうね……そうみたいね」
    「姫、疲れているのなら歌でも歌ってやろうか?」
    「はぁ!? アンタ、冗談寒すぎ!」
     口調が笑っているかぼちゃ頭を空になったガラス瓶で小突く。
     するとデアンの碧眼がその動きを追った。カシウスとは違う、物静かな瞳に思わずたじろいだ。
    「それは……どの売店で獲得した? 屋台での褒賞か」
    「え、飴玉入れてた容器だけど ……なに、こんなの気になるの?」
    「ああ。組成から鑑みるに、摂食による身体の硬度強化に用いる事が可能だ」
    「ん~~……えっと……バザラガ」

     つまり?

    「俺が思うに、グレイスと同じ原理だ」

     つまり、彼は瓶を食べようとしている。

    「ちょっと、ガラスは食べ物じゃないの!」
    「大丈夫だよヒヨコちゃん、デアンはガラスを食べないよ」
    「いやいや、さっき食べるって言ってたわよメガネくん! 騙されないでよ!」
     アイザックの前で人畜無害を装ってもこの巨躯の男は人の皮を被っているだけだ。隙を見せたらビン食い女のように街を恐慌に陥れる気なのだ。
     前よりも人が多い広場で幽世の住人が召喚されたらだなんて考えたくもない。
    懲罰は覚悟で彼を拘束してしまおうかと考えているとデアンの背から金髪の青年が顔を出した。
     カシウスだ。
    「カシウス! あんた1人で何やってるの?」
    「ハロウィン、とやらを楽しんでいる」
     月で脳と分離されていた体に包帯を乱雑に巻いた彼は、形の良い唇を懸命に動かしては手に持ったチョコバナナを頬に詰め込んでいる。
     喉仏を動かして嚥下した青年は木串も噛み砕く。そして片方の手に持っていたコットンキャンディーを頬張り始めた。
    「食用のガラスは俺が所望した。それに指示通り、単独行動は避けている。現に俺は先程までベアトリクスの世話をしていたからな。その後、群衆の中から発見したω3、デアン・クラックに菓子の贈呈を要請した。だがこの男は俺が指定する菓子を所有しておらず、悪戯までの猶予を検討されたためこうして同行している」
    「へえ……って、ベアは? 一緒だったんでしょ?」
    「ベアトリクスはお菓子を熱望する子ども達に襲撃された」
    「まさかそのまま放置したんじゃないでしょうね!?」
    「なぜだ? 彼女は俺の分のお菓子も所持していなかった」
     だからいたずら。
     無表情の彼が胸を張る姿にゼタは額に手をやった。
     ああ可哀相なベア。グランサイファーで別れる前は祭りの活気に当てられて浮かれていたのに、きっと今頃泣きべそをかいている頃だろう。
     後で屋台でスイーツを奢ってあげなきゃ。 
    「ゼタ。トリックオアトリートだ。形状、色味から識別するに、その種のガラスの珪素含有量は非常に美味だ。性急に譲渡を要求する」
    「あーもう、分かった分かった! これあげるから、一緒にベアにごめんなさいしに行くわよ」
    「了解した」
     受け取ったビンを早速頬に詰め込む彼に呆れているとその目がついとデアンを見上げる。
     むふ、とリスのような顔で碧眼を細める姿はまるで何か悪戯に成功した悪ガキのような、そうでないような。
     だがデアンは腹を立てた風もなく懐から何かを取り出した。掌に乗る小瓶のようなもので、先端は釣鐘状になっている。
     アンプルだ。
     ヤバい。
     武器を抜いて戦闘態勢に入ろうとする。その腕をバザラガに引かれた。急な重心移動にたたらを踏んだ体は後ろからすっぽりと抱き込まれ、武器を持つ右手を上からやんわりと包まれた。
    「ちょっと、バザラガ!」
    「まあ待て。見ろ」
     見上げた彼は無言で顎を(いかんせんかぼちゃで分かりにくいのだが)しゃくっており、そのかぼちゃの先では太い指がアンプルの先端を引き抜き液体を地面に捨て、空になった容器をカシウスに差し出しているところだった。
    「これは?」
    「これはお前が先程摂取したガラス瓶と同量の珪素含有量を示す空のアンプルだ。混合物は少々異なっている」
    「良いのかい、デアン。そのアンプル、貴重な代物だろう?」
    「構わん、それに中身はただのエリクシールだ」
     嘘だ、そんなわけない。
     けれど月の戦士の表情は変わらずの無で、好奇心に負けた月の民は茶褐色のアンプル瓶を手に取った。
    「……」
     赤い舌がアンプルの切り口を味わうように舐め、白い犬歯が瓶に突き刺さる。網目状に走った亀裂。
     華奢な音と共に顎が合わさって、淡い碧眼が細まった。
    「美味い。そして食感も新鮮だ。これは……酸化ケイ素を主体とし、ホウ酸や酸化アルミニウムを混合しているのか。石灰とはまた異なったキレがある上に、密封性も極めて合理的だ」
    「摂食したのならば、先程の要請は……」
    「受理しよう」
    「感謝する」
    「良かったね、デアン! これで初めてのトリックオアトリート達成だ!」
     熱い握手を交わすミイラ男と吸血鬼に、その姿を泣いて喜ぶ狼男。

     なによ、心配して損した。

     むすりと頬を膨らませてバザラガの胸に凭れる。気が緩んだせいか相方の心音がこめかみの痛みを和らげてくれた。
    「あの時よりも騒がしく、愉快な祭りになったな」
    「そう? まぁ、アンタがそう言うのならそうかも。うーん、ベアを回収しに行かないとだけど、ちょっと疲れちゃったなぁ」
    「すぐそこだ。行くぞ、姫」
    「はーい」
     太い腕が腰に回る。
     傍から自分達も恋人同士に見えていることなど知りもしない二人は、文字通り手を組んだ月の民二人からお菓子をねだられて絶叫しているエンジニアを無視してその場を後にした。


    ーーー

    「デアン! 一体なんなんだい!」
    「何、とは?」
    「どうして二人して僕にお菓子をねだったんだい!?」
     持ち合わせがポケットに入っていたマイナスネジしかなく、カシウスがその形状に異様な執着を見せてくれたからこそ事なきを得たが、あの時はどうなることかと。
     部屋に戻ってぷんぷんと拗ねる恋人にデアンは微かに体を傾けた。
    「ハロウィンとは、そういうものなのだろう」
    「だからって不意打ちはダメだ。君、僕がお菓子を持ってないことくらい知っていただろう?」
    「……」
     確かにそれはそうだ。
     彼は気が優しいからねだられるまま子どもたちに二個、三個と飴を配っていた。
     だからデアンの持っている籠にストックしていたお菓子が消えるのも早く、その瞬間を狙ってきたかのようにカシウスが声をかけてきたのだ。
     それもネズミ《獲物》を見つけた猫の表情で。
     トリックオアトリートなど関係ない。彼は今すぐにでもデアンにいたずらをしかける気だったのだ。
     後方の木々の隙間から物静かなエルーンの視線が射していたとはいえ、数少ないアンプルの中身を捨てて差し出さないとカシウスはすぐにでも子どもをけしかけただろう。
     デアンに、ではない。
     アイザックにだ。

     あの月の民は空の知識、感受性を貪欲に吸収するけらいがあった。例えば戦闘技能。
     彼のベースはデアンが蓄積した戦闘データだ。だが、彼の技巧は目まぐるしく変化を遂げている。聞くと団員の槍使いに頼んで稽古をつけてもらっているらしく、時折他の武器にも手を出していた。
     情緒の構築も日進月歩の勢いを呈し、どうやら愛や嫉妬といった感性も理解し始めているようだった。そうでなければ、デアンに対してトリックオアトリートとねだっておきながら、アイザックにちょっかいを出すわけがない。
     彼は気づいている。月の機関において至上の存在であるデアン・クラックは、この草臥れたエンジニアを何よりも尊重し、愛していることに。
     自慢げに笑う後継機を思い出して眉間に皺が寄る。険しくなった頬に最愛の指が触れた。
     狼男の碧眼は僅かながら翳りを見せている。
    「もしかして……お祭りは嫌だったかい、デアン」
    「そのような事はない」
    「でも……すごい怖い顔をしているよ。ねえ、デアン。僕には本当の事を教えてくれないかい?」
    「……」
    「僕、君にハロウィンをどうしても楽しんでもらいたかったんだ。君と空の文化を共有したくって……でも……そうだね、君は物静かな性格だ。無理に連れ回してしまったね」
    「お前も人込みは得手としていないだろう」
    「そうだけど……でも、君と一緒にいられて楽しかった」
    「そうか」
     俺もだ。
     目の前の胸に顔を埋め身体を預ける。落ち着いた心拍は随分と心地が良くて、アドレナリンを中和するには充分過ぎる。
     明日もお祭りはあるから今日は寝ようと微笑む彼にデアンも緩く微笑み腰に手を回した。
     そして。
    「ところでだアイザック」
    「ん? え、うわっ!」
     彼の足を払って寝台に倒れこむ。ぎえ、と潰れた声をあげるエンジニアの股の間に右膝を入れて左手首を掴みシーツに縫い付ければ逃げ出す事など不可能だ。
     そもそも腐っても月の戦士、いや吸血鬼。
     今晩の獲物を逃がす気は毛頭ない。
     寧ろ、月の『後輩』にあそこまで嫉妬を煽られて穏やかで居られる程に腰抜けでもないのだ。
     白い首筋に唇を這わせて犬歯を軽く皮膚に当てる。早い脈を堪能して鼻頭を擦りつけ、忙しなく動く碧眼に目を細めた。
    「俺は未だにお前から菓子を頂戴出来ていないのだが」
    「あーーわあわわわ……」
    「お前が話を有耶無耶にしようとしていた事は露呈している。お前の演技には散々鼻を明かされてばかりだからね。そのため今回はカシウスの協力を仰ぎ寝室までお前を連れ帰ったのだ」
    「えっ!? いつそんな話を!?」
    「月面適合手術を受けた戦士達はブローカ野に備え付けられた機器で会話が可能だ。彼にはお菓子を供与する見返りとしてお前を祭りから撤退させる手助けを要請していた。そのため多量の甘味が必要となったが……結果としては申請が受理された」
    「え、なんだい君たちずっとおしゃべりしてたのかい! 嫉妬しちゃうぞ!?」
    「そうか。嫉妬するという事は、少ならからず俺はお前に大事に想われているという事だな」
    「ッ……!」
    「逃げ場はないぞ、観念しろ」
     それでも往生際悪く首を伸ばして逃げる男の獣耳は下がりきって甘えたモード。
     満更でもないくせに。
     悪戯だと、合わせた唇は甘かった。
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