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    mary_trades

    @mary_trades

    基本デアアイ
    ※なんでも許せる人向け
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    mary_trades

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    クリスマス前に歌を歌ったり、ほんわかするデアアイを目指しました

    ##デアアイ

    Drink up The Ocean. 夜。
     微かに冬に近づき肌寒くなった風が頬を流れて鼻頭を擽る。
     きゃらきゃら、と悪戯気な彼らに湯上りの熱を奪われていくままデアンはデッキを悠然と歩いていた。
     冷を好んでいる訳ではない。そもそも、好悪や価値観の基準は往古、手術台の上に捨てた。
     それが果たして正解だったのか、記憶領域に残存している己の思考回路を追体験してもすでに判断基準が奪われているのだから堂々巡り。
     ならば、と遠くに見える月の海を覗き込んでも干上がった海底が見えるだけで、謎の喉の渇きを潤すことはできなかった。
     
     じくじくとアドレナリン合成回路が痛む気がして思考を中断し、艇内に足を踏み入れる。
     談話室として一番広い部屋には空の民が酒やつまみを片手に語らっており、そのテーブルの1人で占領している青年がいた。
     アイザックだ。
     彼は普段は食事が並ぶ丸テーブルに工具や謎の球体を目一杯に広げ、ああでもないこうでもないと忙しなく手を動かしていた。
     アイザック、と声をかけて傍に寄る。
     ふと顔を上げた碧眼はデアンを捉えるとすぐにふにゃりと崩れた。

    「やあデアン。こんな夜にどうしたんだい」
    「湯浴びの後に散策を。お前こそどうした。普段はこの時間帯、居室にいるだろう」
    「実はね、空ではもうすぐクリスマスという祭事があるんだ。グランサイファーでもクリスマスツリーを飾らないかという話になって。その飾り付けに何か力になれないかなと思ってだ」
     
     彼は笑ってボールを手に取る。掌サイズのそれはコードで機械と繋がっており、

    「見ていてくれよ、デアン」
     
     アイザックが機械のスイッチを弄る。
     するとボールがキラ、キラと輝いた。

    「ほう……」
    「どうだい! 驚いただろう! この光るボールをコードいっぱいにぶら下げて、ツリーに飾ればきっと大盛り上がり間違いなしだ! そうだろう、デアン!」

     実際はアイザックの笑顔の方が眩しいのだが、そうとは言えず頷く。

    「ふむ、そうだな」
    「問題はこのコードを延長させていくと電気抵抗と重量が増えることだな……ええと、長さを諦めて装置自体に複数本のコードを繋げようか……」
    「小さめの電球にし、その他の飾りにライトの煌めきを反射させる仕様にすればどうだ」
    「うーん、主役を引き立てる脇役にする作戦だね。成程だ……よし! もう一度図から作り直しだ!」

     彼は輝く笑顔をそのままに新しい図面を引っ張り出すとペンを引き寄せがりがりと走らせ始めた。

     白い紙の上に留まる事を知らないペン先が弧を描き、豪快に、そして繊細に部品の細部を描き出していく。
    まるで脳内の情報を高速で処理しているかのようで、けれど彼の蒼い目は更に先を見据えていた。
     気づけばその姿に見惚れていて、

    「できたよ、デアン」

     という彼の声で我に返った。
     見ればきょとんとした碧眼が眼鏡越しにデアンを見上げている。

    「もう遅いし、今日は寝ようかな。デアンはどうだい?」
    「……そうだな。俺も同伴しよう」
    「そっか」
     
     立ち上がる彼がてきぱきと工具や図面を片付けていく。
     じゃあ帰ろう、とほんのり微笑んだ彼の瞳は未だキラキラと煌めいて見えた。

     居室に戻って作業机に彼の荷物を置く。
     夜着に着替えたアイザックは眼鏡を外し、寝台の縁に腰を下ろしていた。
     彼が窓を眺め、唇をうすらと開く。
     自身を冷たく突き放した月に歌うのは、

     We wish you a merry christmas, We wish you a merry Christmas……

    「アイザック、それは……」
    「さっき教えて貰った歌だ。もう少し寒くなって、ご馳走を並べて、クリスマスツリーが点灯する時に歌うんだ」
    「そうか」

     彼の旋律が響く。

     クリスマス・プディングが食べたい。
     お願いここへ持ってきて。

    「……」

     貰うまで何処にも行かないぞ。
     だから早く持ってきてくれ。
     喜びの便りを君に。

     なぜだろうか。軽快で途中ズレるテンポ。
     むずったがるように音が跳ねてまた戻ってくる無邪気な様は先程の夜風のように心が穏やかになる。
     知らずのうちに伸ばした手が彼の頬に触れて、碧眼と目が合った。
     大海だ。
     青くて、深くて、そして暖かい。
     俺が月で捨てたはずのが、抱きしめられる程こんな近くにある。
     どうして俺は気づかなかったのだろうか。
     震える音が喉から絞り出されて、言葉を紡ぐ前に大海が慈愛の色を濃くした。

    「ハニー。聞き惚れるだけじゃなくて、き・ち・んと覚えて歌ってくれ。もう君も空の住人なんだ」
    「……」
    「返事は?」
    「……了解した」
    「んふふ、グッボーイ……じゃあ初めからだ……」

    再び彼が口を開く。
    唇と唇が重なる距離で紡ぐ歌は相変わらず調子がズレていたが、俺の渇きを癒すには充分だった。
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