決闘必須って訳じゃ無い「なあ、三木ヱ門」
会計委員会から持ち帰ってきた帳簿の計算をする三木ヱ門の背中に守一郎が声をかける。いつも溌剌としてハキハキと大声で喋る守一郎にしては珍しく沈んだ声だ。
三木ヱ門は算盤を操る手を止めて振り返る。
「どうした?」
「……来年には俺や三木ヱ門が委員会の委員長代理になるだろ?」
「そうだな」
三木ヱ門が所属する会計と守一郎が所属する用具、それに滝夜叉丸の体育、喜八郎の作法は現六年が抜ければ最高学年にあたり、彼らは四年生ながらに補佐を務めている。
「食満先輩と潮江先輩みたいに、俺も三木ヱ門とやりあわなきゃいけないんだろうか」
「…………はあ?」
去年はそんなことなかった。いやまあ去年もそこそこ予算会議と書いて合戦と読むに偽りなしではあったけれど、比較的図書委員長あたりは毎年穏やか(あくまで当社比である)だし、一昨年もそのようなかんじだったと記憶している。
そこまで思い出して気が付いた。今年から転入してきた守一郎にはこれがロールモデルとなってしまっているのだろう。特に用具委員長の食満留三郎は守一郎の直属の先輩にあたる訳だし。
「大丈夫だ、守一郎」
がしっと両肩を掴む。
「少なくとも私は頭突きで壁は壊さないし、滝夜叉丸だってバレーボールをあんなに破壊しないだろうし、喜八郎は……ちょっと無理かもしれないが」
そこまで言って三木ヱ門は現委員長達の暴動っぷりに眩暈を覚えた。
潮江のことはちゃんと尊敬しているし、予算を出さないのは別にケチだからとか食満や七松が気に入らないからなどでは決して無い。だが予算は有限で、その限られた中でやりくりするために会計委員会があるのだ。それは多分承知の上で、だから会費捻出のためのアルバイトをしたりしているのだろう。だからこそ破壊神たちに武器を持って一言申したくなる気持ちも分からんでもない。
「予算案や申請書をちゃんと書いて期限内に提出してくれればこっちだって相応に対応するから」
だから心配するな、と重ねて言うと守一郎はいつもの調子で「うん!」と笑った。
守一郎が天真爛漫で助かった。
出来ればそのままでいてくれ、と願うばかりである。