親友に嫉妬「あのさあ、潮江くん」
どうやら自分は喫煙所で鉢合わせた上司に「君の彼氏、どうにかならない?」と言われた、らしい。
「は?」
どういうこった、と怪訝な顔を隠さずに態度で問えば、わざとらしく紫煙を吐き出し、一言。
「伊作くんを助けるのは私が一番になりたいのに食満くんに負けてるんだよね」
「そ、れは」
しゃーないのでは、という言葉を飲み込む。
雑渡の恋人である善法寺伊作と潮江の恋人である食満留三郎は親友である。親友というかめちゃくちゃ距離が近い。お前それもう恋人の距離だろ、というツッコミを何度飲み込んだか分からない。
「まー言ったってしょーがないってのは分かってるんだけどねぇ」
留三郎と伊作は家が隣同士の幼馴染みというやつで、とにかく仲が良い。三兄弟の末っ子ながら面倒見の良い留三郎と何故か不運に見舞われる伊作の組み合わせは殊の外上手く噛み合い、今日まで縁を続けてきた。
ーー恋人が妬くほどに。
だが雑渡も潮江も彼らと恋人になってからより、二人が親友になってからの方が余程年期が入っている。だから留三郎と伊作の仲についてあれこれいうのはおかしいし、二人ともきょとんと首を傾げるのが関の山なのである。
「………………どうにかならないか、と言われましても」
そーなんだよねぇ、と雑渡はタバコを携帯灰皿に押し付けた。
そう、今更だ。あの二人が恋人が妬くらい距離が近いことにも、時には恋人より優先されてしまうことも、それらに無自覚なことも。
矯正出来るならとうの昔にやっている。
潮江はやはりそれらを飲み込んで深くタバコを吸うに留めた。