ネタ「──付き合いきれない。もういい加減うんざりなんだよ」
重苦しいため息と共にそう告げられ、学生時代に2年、遠距離になってから7年の交際が幕を閉じた。
その日は泣いて、泣いて、泣いて。翌日は店に立とうとしたけどバイトの子たちに止められ奥で作業。納品に来てくれた北さんにも心配されたけど、理由は言わなかった。言えなかった。
店を閉じ、自室に戻る。角名のために腕を振るったキッチン。角名と一緒に食事をとったテーブル。熱く何度も肌を重ね合ったベッド。目に映る全てが思い出だらけで、昨夜あれだけ泣いたのにまだまだ涙は溢れてくる。
壁に背をあずけて目を閉じれば、聞こえるのは自分のものでもなければ片割れのものでもない、聞き慣れた低い声。
「……さむ、治ってば!もう昼だけど、具合悪い?」
いつもならチャイム鳴る前に起きるじゃん、と覗き込んでくる顔は昨日見たよりもなんだか、幼いような。
「治?大丈夫?侑に連絡しようか、さっき銀と購買に行くの見たからそろそろ戻ってくると思うんだけど」
チャイム。侑、銀、購買。その全てが聞き馴染みがあり、今や懐かしい響きたちだった。
「……角名?」
「うん?」
「俺…、おれ……」
────タイムリープしとる!?
きっとこれは神様が与えてくれたチャンスなのだ。
“いい加減うんざりなんだよ”
心底嫌そうな元恋人の顔が蘇る。きっとずっと前から冷めていたのだろう。自分といるのが嫌だったのかもしれない。
せっかくあの頃に戻ることができたのだから、もう自分なんかに付き合わせてはいけない。きっと、角名にはもっと素敵な人と幸せになる未来があるはずだ。優秀選手として有名になったり、子供ができたりして。俺の恋心なんて蓋をして、無かったことにして。
そう思ったのに。
なぜ、どうして。
「治、今度ここ行こ。日替わりランチが美味しいんだって」「あ、これ治好きそうじゃない?次の休み二人で行かない?」
──前より距離近ない!?お前そういうキャラちゃうやろ!?
前は自分が告白して、押して押して渋々交際を了承してもらったはずだ。角名はストレートのはず。勘違いか?それにしてはなんだか、付き合っていた頃のよう。
でもだって、この頃はまだ付き合ってない、はず。
「治?あんまり好みじゃなかった?」
「や、んまい…」
「そう。良かった」
その顔はずるい。閉じ込めるつもりだった恋心が溢れて止まらない。
だが、このままではいけない。角名には幸せになってもらわねば。
「角名幸せ計画、発動や…!」
「いきなり何を言うとんねん」
「ツム!俺はやるで!」
「あ、そ。ええからコンティニューせえや。そいつ死んだままやぞ」