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    risya0705

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    risya0705

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    7柏真 文庫〜よりサルベージ。鴨鍋つつくいい夫婦の日ネタでした。ちょっとだけ加筆修正。

    ##本編軸

    鴨鍋(7柏真)普段から町内会で世話になっている主婦に鴨肉を貰った。ちょうど真島が訪れる予定の週末で、冷え込んできたし折角なら鴨鍋にしようか、と二人でスーパーに食材の買い出しに来たところだ。

    隣の真島は普段のレザーパンツと黒手袋にインナーは黒のハイネック、その上に柄の入ったグレーのチェスターコートを羽織っていて、贔屓目なしにスタイルの良さが際立っている。黒の不織布マスクも相俟って、黙って立っていればハリウッド俳優みたいじゃないか、というのは流石に惚れた欲目だろうか。

    「鍋なんて久しぶりやなあ。何十年ぶりかもしれん」
    「好き嫌いは特にねえよな」
    「おう、アンタにお任せするで」

    こちらが野菜を手に取って品の善し悪しを選ぶのを、面白そうにじっと見られている。

    「なんだ?」
    「いいや、なんでもないで。……なんもないけど、楽しいわ」
    「そうかよ。……ほら、何か欲しいのあったら取ってこい」
    「はは、おかんとガキんちょかっ」

    つまみはこんなんでええか?と色々と持ってくるのに頷く。真島はずっと上機嫌で何よりだ。

    一つのカゴに互いの持ってきた品物が入っていくのは、確かに悪い気分じゃない。


    必要なものと、そうでもないものも多少買い揃えてスーパーを出る。暖房のきいた店内から一歩外に出れば、つんとした冷気が肌や耳元を苛む。隣を歩く真島は普段より着込んでいるのもあってか平然としていた。

    長葱が頭を出しているレジ袋を携えて帰路を歩く。

    「柏木さん、レジ袋派なんやな。なんやすっかり主夫らしくなっとるから、さっとエコバッグ取り出すんかと思った」
    「一人の時は使うこともあるけどな。野菜とか入れると結局バッグが汚れるだろ」
    「ああ、確かに。それ綺麗にすんのも二度手間やな。感染対策とエコとのバランス…ってとこかいな。……ッヒヒ」

    肩を竦めて笑い出す真島に、うん?と顔を向ける。

    「いや、エコやなんやって話しとると、どうにも嶋野の親父の顔が浮かんでなあ」

    あれで地球環境保全にめっちゃ真面目やったんやで!とけらけら笑う。

    「ああ、そうだったな」
    「もっと世の中知らなあかんって、若い頃は端から端まで新聞読まされたもんや。おかげで俺までゴミの分別とかしょーもないこと気にするタチになってしもたわ」
    「それだけ気にかけていたんだろう、おまえのこと」
    「せやなあ……」

    はあっと真島がマスクの中で息を吐いた。
    一瞬どこか遠くを見つめた真島が、んっふっふっと変な笑い方とニヤけた顔をして今度はこちらを見遣る。

    「なんだよ」
    「いやなあ。親父や叔父貴のこと考えとって……。ッヒヒ、……なあ。あの百年先まで見通してますって目ぇしとった風間の叔父貴でも、俺とアンタがこうして……ジジイになってもネギ持って一緒におるなんて、考えてもみなかった未来やろなって」

    そう思ったら、なんやちょっと愉快やないか。

    そう得意気に笑う真島に、そうだなあ……と気の抜けた返事をする。

    「……すまん、嫌やったか?」
    「いや、構わねえよ。もう……親父さんの享年も越しちまってんだ」

    敬愛していた。全て一人で為せる人だった。背を支えるには届かず、並び立つには恐れ多い。腹の底を誰にも見せない彼が終生本心から大切にしていたものは、あの龍だけだった。巻き起こる全ての物語の絵図は彼が描いており、自分は忠実な駒であろうと努めた。あの夜の埠頭、あれももうずっと昔の出来事なのだ。今思えば、大切なものを守り宿敵と相討ちになり愛する息子の腕の中で果てていったことは、彼の人にとってきっと夢見た最期だったのだろう。そこに自分の入る余地がなかったとしても、よかった、と歳をとった今だからこそ本心から思える。

    敏い彼が自分と真島の関係に全く気付いていないことはなかっただろうが、流石に還暦を過ぎて、週末には半同棲して、挙句の果てには家で鍋をつつく間柄でいるとは想像もするまい。当時の自分に言ってみたところで信じやしないだろう。

    「確かに、初めてあの人の掌の外に転がった気がするな」
    「せやろ。らしくないこと言ってしまえば……生きてこそ、や」

    アンタの店の名前も好きやで、と真島が笑う。昔では考えられない、穏やかで柔らかい表情だった。彼も歳を重ねたのだな、と今更実感する。どうにも容姿だけでは十年前と何も変わっていないように見えてしまうのだ。

    「ああ、そうだな……。……何より、本当に……おまえが俺の隣にいるなんて、それが一番、本当に奇跡みてえなもんなんだ」

    そう笑い返せば、ぐっと息を詰まらせた真島が目尻を赤くして、マスクを鼻上に引っ張り上げながら目線を逸らし「ずるいわぁ」とぼやく。

    「ん?」
    「ああ、もう、なんでもない。はよ帰るで!」
    「ああ。……ん?」

    くい、とコートの裾を軽く引っ張られ、歩みを止める。真島の顔が不意に近付いた。

    「……はよ帰って、あんたにくっつきたくてしゃあない」

    こちらの耳元でそっと囁いて、蕩けるような表情を垣間見せると、言い逃げするようにるんるんと鼻歌混じりに軽い足取りで先を歩いて行った。ガサガサと真島の持つレジ袋が派手に揺れるが、割れるような物も入っていないし照れ隠しとして大目に見ておこう。

    全く、かなわねぇなと緩む頬を自覚しながら、早足の彼の隣に並ぶように一歩を大きく踏み出した。

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    risya0705

    DONEポン中軸柏真 #6 (#5の続きがまだ……)ラスト
    #6 サイケ・ブルードアを閉めて、助手席に座る男を見遣る。左ハンドルの車だと、こちらからは真島の表情が眼帯で隠れてしまうのがもどかしい。大人しく座って窓に凭れる男の肩上からシートベルトを引っ張り、きちんと装着させてやる。その動きのまま、真島の顔をじっと見つめた。

    頬は痩せこけて肌色は蒼白、健在な右目も酷い隈で落窪んで見える。目尻の皺が増えた。もうずっと何年もかけて見つめ続けてきた、愛おしい狂人が静かに眠っている。

    ドアをロックしてエンジンをかける。車がゆっくりと動き出すのに、んん、と真島が吐息を漏らした。

    「起きたか。気分はどうだ」
    「……どこ、いくん?」
    「どこに行きたい?」
    「…………」

    駐車場を出て、自然と導かれるように神室町への経路を辿っている。それきりまた黙ってしまった真島をちらと伺いながら、踏切に引っかかったタイミングで煙草に火をつけた。カンカンカン、と警報音が聞こえるのになぜか不安な気持ちになる。真島が嗤いながら飛び出して行ってしまうようなビジョンが浮かんだ。そんな杞憂を鼻で笑うかのように、真島は隣で静かに目を瞑ってぐったりとしている。始発電車が通過していくのを横目に真島の口元に吸いさしを宛てがうと、条件反射のように薄く口を開いてそれを受け取った。遮断機が上がる。冬の夜明けはまだ遠い。
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    DONE『あなたのために、できること』#1

    レンリル編を題材にしたカハフシ小説です。カハフシエコの日常や、レンリル戦を控えたカハとフシの心情などを妄想してます。
    チュー程度はあり。
    以前に上げた作品を加筆修正しています。
    さして必要もないあとがきは消しました笑

    全部で3章。加筆修正でき次第上げていきます、
    相変わらずレンリルの朝の日差しは眩しかった。
     薄目のまま天井を見つめる。寝室の飾り窓から注ぎ込んだ光は目の前を仄白くけぶらせた。
     淡いモヤの中でチラチラと輝く塵。それをただ意味もなく眺めていた。
     まだ頭がハッキリしないから、とりあえずその場でうーん、と伸びをしてみる。ふっと緩めたら、朝陽で温められた空気が身体に吸い込まれた。
     ソニア国の気候はヤノメに比べて温暖。湿気は少なく晴れの日が圧倒的に多い。肌に感じる空気はカラリと乾いて申し分のない朝なのに、心は反対に陰鬱だった。
     既に隣にフシの姿はなく、起き上がり辺りを見回すと台所の椅子でぼんやりしているのが見える。
     朝の透き通る光に溶け込み、クタリと柔らかく椅子にもたれる姿は言いようもなく綺麗で、その横顔を眺めれば鬱陶しい気分も軽くなる気がした。
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