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    yumemakura2015

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    yumemakura2015

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    クラナガとメユリ飯行こうぜ編続き。ゲームシステム色々捏造しまくってるよ!そろそろ本編時間軸でいうとこのどの辺かっていうのがうっすら見えてくるあたり。

    洞窟にオレンジふたつ(二)日曜日の正午。タンク街に見えるギアの姿はまばらだった。今日の戦闘は午後四時頃からで、昼まで戦闘は無いと公布されていた。通常ギアは戦闘直前直後にタンク街で装備を買ったり食事したりして時間を潰すものが多い。メインが戦闘による刺激なので、タンカーとの触れ合い自体が目的で来る者は少数派だ。このゲーム内容が変わらない限りガドルの扱いもこのままなのかもしれないな、とクラナガは眉根を寄せて屋台で買った餡掛け野菜丼と肉串を手にフードコートの椅子に座った。
    タレがしっかり絡んだ肉串を眺める。ユムシの肉だ。配属されたての頃、ガドル工場実験室での細胞から生成したサンプルを試食させてもらったことがある。まだ使い始めたばかりの素体から、柔らかく筋の入った歯ごたえの肉と塩気を含んでしたたる肉汁を口内でおっかなびっくり転がしながら、美味しいという感覚をまっさらなメモリに叩き込んでいた。自分達の工場から生まれた生き物がゲームに役立つだけでなく、味覚という本体では味わえない刺激も楽しませ、絶滅危惧種の人間の生活にも役に立つのだと誇らしく思い、目を輝かせたあの頃。手塩にかけて育てたガドルが巣立っていくのを寂しく思い涙ぐみながらも、それでも皆に好意的に受け入れられているのだと信じていたあの頃。ギアからは軽んじられ、タンカーからは心底憎まれているという現実を知らなかったあの頃。一体のサイボーグとしてはあの頃の方が幸せだったかもしれない。でも、自分はもうあの頃には帰れない。ガドルが「モノ」として見捨てられるのはもう絶対に耐えられないのだ。彼らにも、生命がある。個性がある。棘皮動物ではあっても、自分の意思といえるものはあるはずだ。
    何としてもガドルの居場所を作らなければ。そのために、前に進むと決めたのだ。どんなに自分が小さく微力かは自分自身が一番知っている。でも、何も行動を起こさなければ、何も始まらない。何も始まらないのは分かっているが、今はこれ以上何をすればいいのか皆目見当もつかなかった。どん詰まりだ。自分は何をすればいい?このままでいいのか?この方向に進んでいいのか?どうすれば――――――
    「おまたせ〜!ありゃ、先食べてて良かったのに」
    「うぉわっ」
    左後ろからひょっこり赤みがかったオレンジ色の髪と灰色の顔が覗き込んできて、思わず仰け反った。右側頭部に結ばれた緑のリボンも勝気に釣り上がった黄色の瞳もすっかり見慣れたものだ。しかし唐突に至近距離で声をかけられたのには流石に驚いてしまう。
    こちらの反応にメユリは露骨に顔を顰め、炊き込みご飯と唐揚げ大盛りと豆のスープと干した果実の乗った盆を置き隣に座ってきた。
    「そんな虫が近寄ってきたみたいな反応やめてよ。失礼じゃない」
    「ああ、ごめ…あれ、その格好何だ?戦闘装備じゃないな」
    「あんたこそ戦闘の予定もないのに装備着てどうすんのよ。服買うクレジットもないわけ?」
    今日のメユリが身につけているのは仕事用のグレーの制服でもなく、戦闘用の黒にピンクを基調とした装備でもない。タンカーの着るような生成のノースリーブの服。襟と裾は茜色の糸によるチェーンステッチであしらわれた小さな花模様が散りばめられている。下は少しくすんだ藍鼠色のカーゴパンツと革のサンダルといった出で立ちだ。
    「装備は防御にはいいけどデザインがくっそダサいのよね。街の中だけで過ごすならあんないかついのよりこういうナチュラル系のがいいじゃん。こないだ買ったんだけど安い割になかなか可愛くない?」
    「いや、俺服はわからないから……」
    「こういう時は可愛いって言うもんよ」
    「そうなの?」
    「そうよ、あんた女子とは話せてないんじゃない?話聞いてると男としか会話できてないくさいけど」
    「うっ……女子って難しいんだよ……ちょっとした一言でも注意して話さないと機嫌損ねるし……」
    「なに、怒らせたの?避けるな避けるな、男でもめんどくさいのはめんどくさいんだから。特にあんた」
    「ひっでぇ……そんなに?」
    「うん!!!!!!」
    力いっぱい断言されてめいっぱいしょげたクラナガは丼に髪の毛が入らんばかりに項垂れた。呆れたようなため息と共に箸をとる音が聞こえたが、すぐにカチャリと置き直す音がした。
    どうしたのかと顔を上げると、大きな目を閉じ静かに手を合わせるメユリの横顔が見えた。
    「いただきます」
    ぴったりと合わせた小さな薄墨色の手のひらを静かに下ろし、意外と正しい箸使いでサラダの葉物野菜と共に細かくちぎった唐揚げを口に運ぶ。細かく噛んでごくん、と飲み込んでから此方に顔を向けた。
    「食べないの?」
    「……お前もやるんだな、それ」
    「うん。あたしは素体だから食べることで生き長らえるわけじゃないけど、命を頂いてるのは同じなわけだし」
    「……うん、そうだな、そうだ」
    クラナガも続いて手を合わせた。
    最初に会った日のことを思い出した。こちらが鬱憤を吐き散らしている間終始仏頂面だったけど、決して聞き流していたわけじゃなかったんだ。わかってくれようとしてたんだな。そうでもなきゃ、ここまで付き合ってくれるわけないもんな。
    手を下ろし、肉串を持ち上げる。
    「あ、そうそう、今どんな感じよ?何したらいいか思いつかないとか?」
    もりもりとご飯を掻きこみながら横のメユリが尋ねる。行儀は悪いが顔がにこやかなので指摘する気が失せてしまう。
    「あ、うん、ちょっと迷っててさ……」
    箸で串から肉を外しながら返答しようとした。その時、

    ビーーーッビーーーッビーーーッ

    ドオオオオオ――――――ン

    素体の鼓膜を通して本体のスピーカーまでつんざきそうな警告音に続き、そして轟音とともにタンク街全体が大きく揺れた。食器の割れる音、椅子の倒れる音、遠くからオキソンの波が大きく岸にぶつかる音、混乱する住人の悲鳴。様々な音声がそこかしこから響き渡る。
    「わっ……!!!」
    「何!?キャタピラの故障!?」
    慌てる二人の視界映像にブンッという音とともに画面が映り込む。

    【新規ミッション
    デカダンス真下カラ地盤沈下
    地下道ニテガドル大量発生
    即刻討伐セヨ】

    『は、何これ!?今日昼間は戦闘ないって言ってたじゃん!どういうことよクラナガ!?』
    メユリが通信を送りながら両肩をガッシリと掴んできた。さっき散々揺れた後だと言うのにガクガク頭を揺さぶられる。気が動転しているとはいえタンカーに聞かれないよう配慮する理性は残っているようだ。酔いそうな気分を何とか持ちこたえてクラナガは答えた。
    『ユーザーに事前公布されないランダムミッションだ……社員にだって直接関わる部署以外は秘匿されてるんだ。今日は多くのサイボーグが休日だから狙い目だったんだよ。突発イベントでのサプライズ情報に興奮したユーザーがこれから大量にログインしてくるぞ』
    『いやそれにしたって地下で!?デカダンスひび割れに巻き込まれて落っこちたよ!?のんびりごはん食べてる場合じゃなかったじゃん!』
    『場所まではガドル工場にだって俺みたいな下っ端には伝えられてなかったんだよ!大丈夫、多分戦闘終了後地上に這い出すところまで予定のうちだろうし、ガドルもここまで上がってきやしないから』
    『本当に?』
    メユリが不安そうに首を傾げた後、ハッとした顔でクラナガを見つめた。
    『……あんた、今日戦闘装備なのって……』
    『……うん。万一のためにいつでも《処理》できるようにしなきゃ』
    クラナガは懐に入れていたゴーグルを掛けると、椅子の下に置いていた革袋から、オキソンタンクと射出機を取り出した。
    戦闘時、大型から小型まで数多くのガドルが戦場に持ち込まれる。殆どのギアの標的になるのは討伐ポイントの高い大型である。小型のガドルは見過ごされやすく、目玉の大型が倒され「戦闘終了」とみなされた後もほぼ毎回数匹の小型ガドルが戦場に残る。ガドルの制御のため、それらの後始末は戦士部門と工場職員の仕事だ。主に討伐は戦士部門が行っているが、戦士部門の人員が事故などにより不足した場合、ガドルの戦闘動作チェックのため戦場に潜伏する工場職員が急遽その任務にあたることがある。とはいえ、本来なら当日非番のギアにまでその仕事を任せることは無い。しかし。
    『昨日、休みでも念の為ログインする場合はいつでも戦闘態勢に入れるように準備しておけという指示が来たんだ。そこまでする必要あるのかと思ったけど、まさかそんな危険な舞台でするとはな……』
    クラナガが先程受け取った仕事用の通信では、通常とは環境が異なる戦場で、暗く狭い地下道内で暴れるガドル達への立ち回りが十分にとれず、早くも戦士ギアと工場職員ギアの多くが犠牲となったという旨の連絡が入っていた。今回、たまたまログインしていたクラナガに真っ先に緊急で招集がかかっていたのであった。
    『でもあんた、ガドル殺せないじゃん……ちっさいムチートですら……』
    立ち上がるクラナガにメユリが上目遣いで睨めつける。憤りではなく、心配の面持ちであった。
    彼女の言う通り、クラナガのガドル討伐成績は著しく低い。どうしても可愛がっていたガドルを殺すことができず、戦士の元へ誘導したり、足止めだけして同僚に止めを刺してもらったりすることがほとんどであった。そのせいでいつまでもCランクから動くことはなく、いつも低評価の不味い低質オキソンを補給し続けている。それに、ガドルから逆に殺されかけたことも一度や二度ではなかった。クラナガの話を聞いていたメユリはそのことをよく知っていた。
    『戦士部門のギアでももうそんなにロストしてるんでしょ。攻撃出来ずに返り討ちに遭って素体壊されるだけじゃん、今からでも断ってきなよ』
    メユリも立ち上がってクラナガのハーネスベルトを掴んだ。濃橙の頭を締める緑のリボンが揺れる。出会った時からずっと見ていたはずなのに、間近になったことで、初めて自分の皮膚の色と彼女のリボンの色が似通っていることに気がついた。クラナガは、メユリとは素体でしか会ったことがない。本体の姿は、通信時のアイコンで見えるが、素体の姿の方がずっと身近に感じられていた。
    「俺……行かなきゃ」
    通信ではなく口で発音する。メユリも慌てて音声会話に切りかえた。
    「あ、じゃああたしも」
    「メユリはここにいた方がいい。着替えに行く間にまた地形が変わって揺れるかもしれないし。危ないから終わるまで待っててくれ」
    反論の余地を与える暇もないくらい早口で捲し立てて速攻攪拌翼エレベーターへ向かう。
    「クラナガ!」
    後方からメユリの叫び声が聞こえる。改めて通信を送った。
    『後で、通信で連絡する。素体、新しいのが必要になったら特徴画像データで送るよ』
    『そういうことじゃ……もう!』
    知っている裏路地の中で最も最短ルートを叩き出して駆け足で進んで行った。
    『……壊れないでよ』
    最後にその一言だけが送信され、通信は切れた。
    メユリにとってクラナガは知人程度の存在のはずだ。素体が駄目になる程度のこと、戦場に出るギアにとっては大したことは無い。彼女だって仲間や友人のロストは大量に見ているはずだ。必死にならなくていいはずなんだ。見慣れたものと違う素体に困惑するのが嫌なだけだ、きっと。だからなんだ。だから何だと言うんだ。クラナガは振り切るように足をどんどん早め、塵芥を蹴飛ばしながらずんずんと大股で進み、建物の隙間から駆け出しエレベーターへ乗り込んだ。

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