『大人』の話同室の住人が不在の日だけに訪れる、特別な恋人との時間。
友也はベッドで上着を脱ぐ創を見つめながら、ぼんやりとあることを思い出していた。
でもそれはふいに思い浮かんだくだらない下世話な考えで、これから待っている目が眩むような時間を待つこの場には、全くそぐわない。
その想いを友也はすぐに捨て去り切り替えようとしたが、友也の表情の変化に目敏い創は、すぐにその心情の波に気付いた。
「何か考え事ですか?」
これから待ちに待った互いの熱だけに溺れるだけの時間が待っているのに……そう言わんばかりに頬を伝う指先に、友也はドキリと胸を高鳴らせる。
でもこんな大事な時に他所事を考えていた自分も悪い。友也は、正直に今思った事を声にした。
「いや、なんでもない。ただちょっと変なこと思い出してたこと」
「変なことってなんです?」
創はベッドに腰掛ける友也に身体を寄せながら、問いを重ねる。
優しい花のような匂いと、あたたかいぬくもり、そして少し濡れた色めく瞳。
友也はその視線に射貫かれると、諦めて何でも言うことをきくことしかなかった。
「……くだらないことだよ。ちょっと前に光が『大人ってどういう人のことだと思う?』ってきいてきたこと、あっただろ」
「あぁ、教室で、オフショットをどうするかって話をしていたときに言ってましたね」
その後『大人』探しをして方々走り回ったというのが、後日聞いた光の微笑ましいエピソードだった。
そんな純粋さ溢れる素敵な話を思い出しながらも、不意に過った下世話な想いを、友也は創をぎゅっと抱き締めながら呟く。
「これから創とすることも、世間的には大人……成人向け、とかいうだろ。まだまだ子供の俺たちがさ『大人』なことするんだなって思ったら、なんか変だなぁって思って」
そう、これからすることは子供には決して見せられないことだ。
いや、誰の目にも触れさせたくない、好きな人との特別な触れ合い。
それをまだまだ若輩者の、子供である自分たちが求めあう。
そのちぐはぐさに友也は思わず笑ってしまったが、それでも懐にあるぬくもりを抱き締める腕を離すことはできない。
照れ笑うように言った友也の言葉に、創もすぐに意図を理解してふふっと笑い出す。
「そうですよね……変、かもしれないです。でも友也くんとこうしてるのが、幸せすぎて」
自分たちは子供でも、想いをしっかりと確め合った仲だ。
一度知ってしまったその熱は、もう手放すこともできない。
子供でも、大人でも、アイドルでもなく、それはただの人だからこそ抗えない欲で。
「変でも、いいですよ。友也くんと一緒なら。大人なこと、今日もたくさんしてくれるですよね?」
そんな風に言いながら友也の瞳を見上げる創は、恐ろしいほど綺麗だ。
友也はその美しさにごくりと息を呑みながら、愛しい恋人にこくりと頷く。
「うん、一緒に変になろう」
そう言いながら電気を消せば、ほらもうそこは、大人も子供も関係ない、ただ二人だけの世界だ。
END