another1.神代類の激情と幸福論「はぁ、本当に可愛い」
僕の腕の中で幸せそうにスヤスヤと眠る司くんを見ているだけで幸せでいっぱいだ。すぅ、と息を吸えばアロマの香りと混ざりあった司くんのにおいで満たされる。
「僕だけの、つかさくん」
ころころと変わる表情に、感情で色を纏う瞳。
高らかな自信に満ち溢れた声、身振り手振りの大きな動きと反応。
その彼を構成するどれもが、僕を魅力して虜になる。
「君は僕にとっての一等星だ」
やっとの思いで両想いになれたあの日。
酒の勢いはあったけれど、いや酒の勢いがあったからこそ司くんの心がぐずぐずに解れてやっと僕への恋心を見せてくれたのだった。
あれがなければ今でも僕は報われない片想い中だし、司くんは僕への想いを封じ込めて昇華させてしまっていただろう。
勿論、ここにもいない。
絶賛売り出し中もとい国民的大人気俳優、お茶の間引っ張りだこな“天馬 司”。
それでも僕らの始まりの場所であるフェニックスワンダーランドで、ワンダーランズ×ショウタイムの座長として今も君臨し、不定期だがショーをし続けている。
――超絶多忙で音信不通に近くなるほどだが。
高校生の時は昼も夜も関係なしにお互いの意見をぶつけあいより良いショーを作り上げたものだったが時代の流れは早く憎いもので僕も彼も大人になってしまった。
付き合ってから2年とちょっと、予定を合わせて逢瀬を繰り返していたがここ数ヶ月そんな暇もなく、彼から頻繁に来ていたメッセージすらなりを潜めてしまっていた。
おや、と思い倦怠期、それか別れの危機では?と悟り始める僕は急いで休みをもぎ取りに動き出した。
艶やかな金糸は衰えを知らず煌めき、太陽のような笑顔も変わらないが肌の質だとかほんの少し掠れてる声がテレビから聞こえてしまい、長期休暇で彼の心と身体のメンテナンスを行わなければと走りに走った。
彼のマネージャーには直談判し、ショー仲間の2人にも事情を説明。その他諸々彼の知り合いやスケジュールの観点で、半年前から調整に調整を重ねて1週間の休みをもぎ取ったのだった。
「僕に捕まってしまったのが運の尽きだよ司くん」
抱きしめる力を強くしてより密着する。
とくとくと刻む司くんの命の音にひどく安心した。
彼を休ませるという名目もあるが、どちらかと言えば彼の寂しがり屋で愛されたがりの精神を僕の愛でぐずぐずに甘やかして満たしてあげるのが目的だった。
だから、ポリネシアンセックスの1日目で、こんなにとろけて美味しそうな司くんが出来上がってしまって僕はもう幸せ絶頂期だ。
「はぁ、かわいい、かわいいよ、司くん、好きだ」
君の拙い恋心も全部、僕を愛してくれる気持ちも全部すくって食べちゃいたいくらい。
君が手放そうとした感情も、未来も全てすくい上げて僕は一緒に幸せになりたいんだ。
もう、君のためだとか理由をつけて離れた方がいいかだなんて考える期間はとうに過ぎ去ってしまった。
情けないことにもう司くんなしで生きていけないのだ。
でもそれもエゴに過ぎないから、君の気持ちが明確になってからの話。
僕の思い描く幸福論は、君の隣で一緒に歩んでいくこと。
悩みも苦しみも悲しみも全て分かちあって、楽しいことや嬉しいことは一緒に共有して倍にして笑っていたい。
司くんの未来を縛り付けるのは簡単だ。
あの手この手で逃げ場を無くせばいい。
手八丁口八丁、僕の十八番だ。
けれどそれは僕の好きになった、一等星の輝きじゃなくなさせてしまう。星は流れて地に落ちて輝きを失う。
僕の奥底で眠る仄暗い激情では、星を落としてしまいたいと思ってしまっている。
臆病な僕は卑怯で楽な方に逃げようとするけれど、やっぱり僕が恋して愛しているのは星空で一等輝いている司くんだけだから。
ありのままの司くんで、僕に明確な答えを教えて欲しい。
「そのとき僕は、幸せの上で愛を誓うよ」
今もまだ渡せずにいる誓いの印をしまいこんだ。