俺が神様だったときある所に人間がいた。人間は女だった。女は夫を亡くし、子どもは嫁に行き、今は一人で暮らしているのだと言った。
枝を思わせる細い指だった。それが折れてしまわぬよう、俺は力を抜いた。
「あまりに、短い。」
「きっと貴方たちと比べたら。でも私には長い時間だった。」
「けれど、いざ終わりを感じると胸がぽっかりあいてしまったような気になるの。だから、貴方が来てくれてとても嬉しかった。」
「それだけで嬉しいのなら、何度でも来よう。」
「ありがとう。」
「次のお祭りもぜひ顔を出してください。あなたはよく声をかけてくれるから、村の皆も会えるのを楽しみにしています。」
「若い子たちなんかあなたの見目にあてられちゃってね、男衆が張り合おうとしていました。」
「見目?」
「とても男前なんだもの。もっと自覚なさってね。」
そうだろうか…。自分の顔を思い浮かべるが、いまいちよく分からない。
「あなたたちは面白い。興味深いと、感じるんだ。」
「祭りには顔をだそう。だから、あなたも。」
「私は、おそらく行けないでしょう。」
「悲しいわね、毎年行っていたのよ。幼いころからずうっと。」
「なら、今年だって行けるさ。」
「ふふ、いくら貴方が言っても、駄目なものは駄目。私が一番わかってる。」
「どうにもならないのか。」
「ええ、きっと。」
そうして女は還っていった。おそらく生まれる前にいた場所に。その顔があまりに穏やかだから、俺には死というものがよく分からなかった。
ただ、もう話ができないことだけが分かった。あの家に行っても女はもういない。