おいしくなあれ 五条悟は、いつだって『突然』だ。
「そうだ悠仁、はいこれ」
白を基調としたモデルルームとなんら遜色ない五条の自宅のリビングダイニング入口からおよそ十歩。九月の残暑から逃げるがごとく、お邪魔します、も言わずに立ち入った悠仁が、手触りが自慢であるカーペットのふわふわの毛足を踏みつけて振り返る。
玄関から背後についてきた五条が差し出したのは、およそ正方形の厚紙だった。表面には少し上に寄っていつかの光景が焼かれている。
「あれ、これ先生が持ってたの?」
「ビルに向かっていったときに落としてたよ」
「マジか。そんとき返してくれたらよかったのに」
「あのとき返しちゃ、恵に燃やされちゃったでしょ」
五条が拾わなければ二度とお目に掛かれなかったであろう、青春の一ページ。あれは梅雨が明けた頃であったか。日本が猛暑を迎える前。伏黒とともに秋葉原を散策し、偶然発見した五条悟をつけ回した日。
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