.「リゾットはわたしが死んだらかなしい?」
肉が見えるほどに切り裂かれた腕は、痛い痛いって騒いで泣き出したいくらいには痛かった。ズキズキと響いて熱くて痛くて自分の身体の一部じゃないみたい。どうしようもなく痛いけど、だからって「痛い」って口にして泣き出したりできるほど、わたしはもう普通の感覚をしていないらしい。
最初のころはこんな怪我したら、きっと「もうやだ」って泣きじゃくってた。いつからかな、こんなに痛いのに、痛いなあって諦められるようになったの。最悪、化膿して腕が動かなくなるかも。切り落とさないといけなくなるかも。そのまま死んでしまうかも。そういう想像をしても、なんだかちっとも怖いとは思えなくなって。
そんなパクリと開いた他人の傷口なんて、見るのも嫌だろうに。顔色ひとつ変えずに治療をするリゾットに、唐突に変なことを聞いてみた。
リゾットはギャングらしい男だ。体格が良くて迫力がある。この人がリーダーだと聞いた時、一言でも逆らえばあっという間にポキっと素手で首を折られて殺されると思ったもの。そんなこと、なかったけど。
強くて、仕事に失敗はなくて、どこまでも冷徹になれるひと。例え仲間が目の前で命を落としたって、冷静なまま状況を判断し最善の行動をとれるひと。それがリゾット。だからたったひとり、わたしの命なんか彼にとっては取るに足らないものだ。
「そうだな、とても冷静でいられるかどうか」
「……うそ」
それはわたしを慰めようとしているの? と、拗ねたような声がでた。そんな気休めみたいな嘘いらないよ。リゾットに必要な他人なんて存在しない。だってあなたは完璧だから。リゾットは、たとえ一人きりでも凛と立って、前を見るでしょう。
「……嘘だと思うか?」
だから、メタリカでじわじわと傷が塞がれていく腕に触れる大きな手に力がこもって、それまで傷口に向いていた視線がわたしをまっすぐに見て、その瞳がわたしにだってはっきりと読み取れるくらいに心配の色を映していたとき、……言葉がでなかった。
完璧なリゾットの、そんな顔はみたことがなくて。
チームとして動くためのコマである仲間へかけるポーズの心配なんかじゃなく、本当に、心の底からわたしを心配したのだということがわかってしまったの。
そんなの、わたし、どうしたらいいか。
「……嘘であってくれないと、こまる……」
「……そうか、困るか」
だって人に必要とされたことなんてないんだよ。こんな世界にひとり転がり落ちて来たわたしだよ。どこでどんな人からうまれたのかも知らないわたしだよ。……こんな世界に来た理由も、そこにあった正義も、リゾットとは全然違う。
リゾットは完璧で、綺麗で、なんだか尊いものみたいだっておもう。
わたしは、自分が信じて着いて行くリーダーがそうであってくれないと困る。
わたしみたいな人間を、リゾットが特別に想うなんてあってほしくなかった。
「うん、困る。だから、リゾットの心配は要らないよ」