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    arunyaaaan

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    arunyaaaan

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    複座軸のスミイサ。付き合ってないし暗めの話

    Fly Me To The Moon はぁ、と息を吐いて瓦礫の上に座り込む。
     崩壊したビルの間を、冷たい風が土埃を巻き上げて通り抜けていった。乾いた空気に喉がヒリつく。
     今日も生き残れた。得体の知れない機械が徘徊し人を襲うこの地獄で補給も満足に受けられないまま、なんとか命を拾っている。

    『もう終わりだ! 終わりなんだよ! 俺たちは!』
     狂ったような怒声が、今も耳から離れない。
     TS部隊の一人だった男は、自ら敵の放った光線へ飛び込んでいった。貴重なティタノストライドを自殺行為に消費した、などと罵る者はいない。口にはしないが、誰もが薄々と感じてはいるのだろう。 
    「……頭を冷やしたくて、ここに来たってのにな」
     自嘲気味に笑って、またため息を吐いた。
     ──ダメだ、まだ終わっていない。俺はまだ生きている。思考を切り替えろ、ルイス・スミス。
     手に持ったミネラルウォーターを一気に煽った。生温いが贅沢は言っていられない。水だって貴重な資源だ。
     空になったボトルを手慰みに弄んでいれば、瓦礫を踏み締める音が耳に入る。用足しか、それとも単独行動しているスミスを探しに来たのか。
     後者なら面倒臭い。気付かぬフリを決め込んでいると、意外な人物が姿を表した。

    「ここにいたのか」
    「ああ……イサミ。どうした?」
     さも気づいたばかりです、という顔でスミスが応える。
     イサミ・アオ三尉。日本の自衛隊に所属する優秀なTSパイロット。そして今はスミスと共にライジング・オルトスを駆る相棒だ。……相棒の枠組みに一方的に収めているだけかもしれないが。
     さて。この男がわざわざ探しに来るとは、何か問題でも起きたのだろうか。スミスの心配を他所に、イサミは所在なさげに佇んでいた。
    「いや……大した用じゃない。邪魔したなら戻る」
    「はは。大事な相棒を邪魔だなんて思うもんか」
     多少白々しい物言いになってしまったが、丸きり嘘という訳でもない。ただ、今は一人にしておいてほしかった。
     彼は無感動にこちらを見つめ、やがて拳一つ分ほどの距離を開けて隣に腰を下ろす。
     スミスの願いも虚しく、イサミは居座る気らしい。これは余程話したい事があると見て横顔を伺えば、目の縁がうっすらと赤らんでいるのが見えた。泣いていたのだろうか。聞くのも野暮だと思い、夜闇のせいで気づかなかった様に装う。代わりに努めて明るい声を投げ掛けた。
    「それで?」
    「…………これ」
     おずおずと差し出された物は、よれた包装のチョコレートだった。日本語で書かれているから名前は分からないが、見た目からして市販品だろう。
    だが、どうしてこれを? 疑問が表情に出ていたのか、彼はバツが悪そうに顔を背ける。
    「なんか、疲れてそうだったから……甘いものでもって……いや、我ながら安直だったな」

     驚きのあまり何も言えなかった。まさかこの、良く言えばクールで、悪く言えば無愛想な相棒から労いを受けるとは。どうやら相当参っているように見えたらしい。友人にも指摘されなかったからバレていないと思っていたのに、彼は気づいていたのか。
     胸がじんわりと暖かくなる。もしかして今日という日を知っていたのかと考え、すぐに思い直した。自意識過剰な自分が気恥ずかしくてわざと軽口を叩く。
    「ありがとう。こんな時でも誕生日プレゼントを貰うのは嬉しいもんだな」
    「……は? 誕生日?」
    「なんだ。知ってて渡したのかと思ったんだが」
     やはりイサミは、今日がスミスの誕生日だと知らなかったようだ。予想はしていたものの、少しだけ残念に思った。
    「あー……その、悪い。知らなかった」
    「いいさ、俺だって直前まですっかり忘れてたんだ」
    「おめでとう、スミス。渡せる物もなくて悪いな」
     そんな事はない。祝いの言葉だけでも嬉しいし、そのつもりがなくとも贈り物をくれた。イサミに秘めた想いを抱える身としては、充分過ぎるくらいだ。けれど、擦り減った心は身勝手で浅ましい願望を口にする。理性で抑えきれなかったそれが、喉を震わせた。
    「なあ、一つリクエストをしても? 物とかじゃなくて、今できることで」
    「内容次第だ」
    「キ」
    「キ?」
    「いや違う。今のは忘れてくれ!」
    「はあ……?」
     ──何を口走ろうとしたんだ俺は!
     慌てて誤魔化してはみたものの、イサミの訝しむ視線が痛い。大袈裟に咳払いをして、なんとか仕切り直した。

    「お前の時間をくれないか。あと一時間、いや三十分だけでいい。このまま隣に居てほしい」
    「……今日は哨戒任務もないし、別に構わないが……そんなんでいいのか?」
    「俺としては結構勇気を出して言ったんだぜ、bro。答えは?」
    「一時間経ったら戻るぞ。こんな場所じゃ休めるモンも休まらないだろ」
    「了解」
     体勢を変えるのを装って、少しだけイサミの側に寄る。触れた肩が仄かに熱を孕んでいる気がした。
     もしも、この戦いが無事に終わって。人類が勝利して、日常へ帰れたなら。
     想いを伝えてみても、いいかもしれない。

     心地良い沈黙の中、スミスは空を仰ぐ。
     美しい月が見守るように二人を見下ろしていた。
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