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    arunyaaaan

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    arunyaaaan

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    イサ誕。スミイサ。
    アフストと勇気爆発祭のネタあり。ス=ブで書いてる。
    前も似たようなオチになったけどまあええやろ…

    「ヒビキ、相談があるんだ。少し時間をくれないか?」
     真面目くさった表情でそんなことを言うものだから、こちらも畏って了承してしまった。
     そんなこんなで我らが英雄の一人ことルイス・スミスを部屋に招き入れたヒビキは、やはり真剣な顔をしてどう切り出そうか考えあぐねている彼を見て、「まさかイサミとの関係が上手くいっていないとか?」と危惧していた。
    「スミス──」
    「これを見てほしい」
     ヒビキの眼前に突き付けられたのは一冊の本。いや、とんでもなく分厚い冊子だった。表紙には見慣れたブレイバーンのエンブレム。すでに嫌な予感がする。
    「なにこれ」
    「イサミの誕生日が近いだろ? だから……」
    「あー……」
     全て合点がいった。スミスはいったい何を悩んでいるのだろうと訝しんでいたのだけれど、どうやらヒビキの心配は杞憂だったらしい。
    「あいつの誕生日を祝うのが初めてって訳じゃないさ。けど、イサミとその……恋人になれてからは、初めてで」
    「うん」
    「最っ高にcoolなイベントにしてやりたいんだが、あれこれ考えてるうちに纏まらなくなっちまって……」
    「それでこんなに」
     頷くスミスから冊子を受け取ると、ヒビキはぱらぱらとページを流し見する。家でささやかに祝う、仲間も巻き込んで母艦で盛大に祝う、夜景の綺麗なレストランで食事、ホテルのスイートで宿泊──最後のページに書かれていた、『ブレイバーンに変身してイサミと一つになる』という案だけは絶対にやめておけと釘を刺しておいた。今度こそハル・キングが泡を吹いて倒れかねない。
     例の出来事があった後、上がどうにかこうにかして事態を軟着陸させた結果。かつて地球を救い、その役目を果たして解散した多国籍任務部隊であるATFが、再び訪れるかもしれない未知の脅威への対抗策として再集結することとなった。
     一兵士に過ぎないヒビキには、彼らにどれほどの苦労があったのか想像もつかないが、とにかくそうなった。しかし、だからと言って軽率に変身してよいかというと全くそんなことはないだろう。
    「すまない……ダメだとはわかっているんだが、ブレイバーンな俺が抑えきれなくて……」
     釘を刺されたスミスがしゅんと項垂れる。叱られた大型犬のように大柄な身体を丸めて落ち込む姿を見ていると、なんだか可哀想に思ってしまう。イサミが絡むとちょっと残念な部分が目立つのは否めないけれど、それでも彼は真面目で誠実な人間だ。
     ヒビキは溜息をひとつ吐いて、優しい口調でスミスを諭した。

    「まーこれだけ案があるんだしいいのが見つかるって。そうだ、本人には聞いてみたの?」
    「ああ。けど、“お前のやりたいようにしてほしい”って」
    「うわぁ、一番困るやつだ」
    「イサミのことだから、どうでもよくて俺に任せてるんじゃなくて、本当に俺の好きなようにしてほしいんだと思う。けど、だから、余計に悩んでるんだ……!」
     互いを想い合うが故と。お熱いことで。もはや当人同士で話をしてくれないかと、ヒビキは一気に面倒になってしまった。基本は面倒見のいい姉貴分なのだが、時として匙を投げることもままある。
    「じゃあさ。イサミの言うとおり、スミスがやりたい事をやればいいじゃん」

    ***

     賑やかな祭囃子が聞こえる。辺りには焼きそば、たこ焼き、輪投げにヨーヨー釣りなど、色とりどりの夜店が軒を連ねて夕闇の中で煌びやかに光を放っていた。
    「スミス! イサミ! はやくはやく!」
     カランコロンと下駄を鳴らし、ルルが跳ねるように駆け出していく。朝顔の柄があしらわれた淡色の浴衣が、彼女の愛らしさを引き立たせていた。
    「はぐれるなよ」
     その背に、同じく浴衣姿のイサミが声を掛ける。碧色を基調とした浴衣は、あの時夢で見たものと同じで──スミスが用意したのだから当然と言えば当然なのだが──しかし、夢想したよりも美しく感じて、スミスはそわそわと浮き足立っていた。
    「スミス? ルルに置いてかれるぞ」
    「あ、ああ。今行く!」
     つい黙り込んで見惚れてしまっていた。慌てて足を早めると履き慣れない下駄につんのめって、咄嗟にイサミの腕を掴んでしまう。
    「っと、すまない」
    「気にすんな。……やっぱり下駄じゃなくて草履にするべきだったか」
    「それは嫌だ! 俺は君とオソロイがいい! 見てろよイサミ、すぐに履きこなしてみせるから──」
    「子供かよ」
     ふは、とイサミが柔らかく笑う。スミスはその笑顔にまた見惚れて、固まってしまった。反応のない彼を訝しんだイサミが「スミス?」と呼び掛ける。
    「……イサミ。言い損ねていたんだが……その、すごく似合ってるよ。綺麗だ」
     イサミは一瞬だけ、「今?」と言いたげな顔をしたが、やがてじわじわと頬を紅潮させた。
    「あ、ありがとう。お前も……その紺色の、良く似合ってる」
    「……うん。ありがとう」
     互いに真っ赤になりながら口を噤む。しかしそれは気まずいものではなく、どこかむず痒くて、ふわふわとしていて。いつまでも浸っていたくなる。
    「もう二人とも遅いー!」
     先に行ったルルが焦れたのか、頬を膨らませながら二人のところまで戻って来た。イサミの腕を掴んだままのスミスを見て、少女はにんまりと笑みを浮かべる。
    「ルルも手繋ぐ! 迷子ならない!」
     そう言ってスミスの空いた左手をぎゅっと握り、今度はイサミを見上げた。視線を受け止めたイサミは微笑みを返すと、掴まれた腕を解いてスミスの右手に指を絡ませる。
    「ああ。これなら迷子にならないな」
     スミスを挟んで、二人が笑い合った。愛おし過ぎる光景に、ぎゅうと胃が締め付けられるのをスミスは感じる。こんなに幸せで良いんだろうか、とさえ思った。
     ──いや待て、ルイス・スミス。今日はイサミの誕生日を祝うために来たんだ。俺ばかり幸せな気分になってどうする。しっかりしろ。
     そう己を叱咤すると、二人の手を力強く握り返す。
    「よし、行くぞ!」
     三人は顔を見合わせて頷くと、祭りの喧騒の中に飛び込んでいった。


    「シャテーキだ!!」
     真っ先に声を上げたのはやはりルルだった。キラキラと瞳を輝かせて屋台を見つめている。
    「射的か。懐かしいな」
    「なんだったら勝負するかい、イサミ?」
    「また負けても知らねえぞ」
     軽口を叩き合いながら支払いを済ませて銃を受け取る。真剣に構える彼らに、射的屋の店主はやんやと囃し立てた。
     一呼吸置いて、ほぼ同時に発砲する。流れるような動作で弾を装填し、二発、三発と的確に景品を撃ち落としていく。最後の一発は三人同時だった。棚の真ん中に陣取った青い猫のぬいぐるみは一斉射撃の餌食となり、パタリと床に落ちる。後ろで観ていたギャラリーから歓声が上がった。
    「おいおい、兄ちゃんたち素人じゃねぇだろ? ほとんど掻っ攫っちまってよ!」
    「確かにちょっとやり過ぎたかもしれないな」
    「親父さん、あのぬいぐるみだけ貰えるかい? 残りは返すよ」
    「いいのか?」
    「ああ、もちろん」
     店主がぬいぐるみを袋に入れて差し出す。スミスはそれを受け取ってルルに手渡した。ふわふわと柔らかい毛並みに頬を寄せて堪能した後に、彼女はハッと顔を上げる。
    「ルル貰っていいの? これ、みんなで取ったやつ」
    「俺は構わないよ。イサミは?」
    「俺も。ルルが一番欲しそうにしてただろ」
    「スミス、イサミ! ありがとう! ……この猫、ちょっとだけオジサマに似てたから……」
     かつて共に戦った、今は亡き戦友。彼を偲ぶように、ルルはぎゅっとぬいぐるみを抱き締めた。
    「そうか。じゃあ大切にしないとな」
    「うん! ……あ。さっきの勝負、誰の勝ちだった?」
    「俺の勝ちだろ」
     声を揃えて勝利宣言をする負けず嫌いな成人男性二名に、少女は頬を引きつらせた。
    「ガピ……二人とも大人気ない……」

     射的屋を後にして少し歩いたところで、「あ」とスミスが声を上げて立ち止まる。どうしたのかとイサミがそちらを見遣ると、視線の先にはかき氷の文字。
    「食べたいのか?」
    「……ああ」
     何やら感慨深げに頷くスミスに、イサミとルルは首を傾げつつ列に並んだ。程なくして順番が回ってくると、各々好きな味のかき氷を注文する。イサミはメロン、スミスはブルーハワイ、ルルはイチゴに練乳をたっぷりかけて。
    「ッガピ〜! キーンてなる! でも美味しい!」
    「美味いな……。ずっと食べてみたかったんだ、JAPANのかき氷」
     まるで親子のように同じ表情でかき氷を頬張る二人は、やはり同じタイミングで舌を出して笑った。
    「スミス、青い!」
    「ルルは真っ赤になってるぞ」
    「イサミは?」
     一斉に注目を向けられたイサミは妙な気恥しさを感じながら、おずおずと舌を出す。見事に緑に染まった舌を見て、ルルはけらけらと楽しそうに笑った。またもや無言でこちらを見つめるスミスの視線に、イサミはきまりが悪そうに目を逸らした。
    「じろじろ見んな」
    「んむ!?」
     突然口の中に突っ込まれたスプーンに目を白黒させながら、スミスは必死にそれを咀嚼する。
     ──急に何? えっイサミからあーんってされた? 夢……じゃない。Shit! 俺は今どんな顔してる? きっと間の抜けた顔をしてるに違いない。あああ、もっとちゃんと味わっておけばよかった……!
     内心大パニックを起こしつつなんとか平静を装うと、メロンも美味いなとぎこちなく笑う。期待していた反応と違ったのか、イサミはつまらなさそうに唇を尖らせた。
    「実はどれも同じ味だけどな。舌見せろ」
     言われたままに舌を出すと、スミスの舌はブルーハワイの青とメロンの緑が混ざって、なんとも奇妙なマーブル模様を描いていた。それを目にした瞬間、イサミは噴き出すように笑う。
    「お前、すげぇ色してるぞ」
    「えぇ!? ちょっ、どんな色なんだ笑うほどか!?」
    「スミスー、次はルルのイチゴ食べて!」
     三人は笑いながらかき氷を食べさせ合った。完食する頃には全員舌がヘンテコな色になっていたけれど、それもまた、この上なく楽しい思い出となったのだった。

     それから金魚掬いやヨーヨー釣り、輪投げなど目につく屋台を端から遊び倒した。たこ焼きの熱さにスミスが涙目になったり、わたあめを頬張るルルの口端についた欠片をイサミが拭ってやったりと、周囲の喧騒に負けじと騒いでは笑った。


     楽しい時間ほど、あっという間に過ぎていくもので。
    「そろそろ花火が始まる時間だな」
     端末で時刻を確認しながらスミスが言った。
    「もうそんな時間か」
    「花火見たい!」
    「Alright! 特等席がある。こっちだ」
     スミスは二人を連れて、人波に逆らうように進んでいく。祭り会場から離れ、どんどん人気のない方へと。森のように木々が生い茂る小道を通ったところで、イサミが不安げに声を上げた。
    「おいスミス、本当にこっちで合ってるのか? 道無き道だぞこれ」
    「大丈夫、もうすぐ……ほら、着いた」
     木々の合間を抜けると、森をくりぬいたような広場に出た。辺りはしんと静まり返り、虫の声だけが響いている。
    「確かにここなら人もいないが……木が邪魔で花火が見えないんじゃないか?」
    「そうでもないさ!」
    「ないさ!」
     イサミの疑問に、スミスとルルは不敵に笑ってみせる。ますます訳が分からないという顔をするイサミに、親指を立てて見せると、スミスは突如浴衣を脱ぎ捨てた。
    「は!?」
    「ルル! 俺の服を預かっていてくれ、頼んだぞ!」
    「アイサー!!」
     驚くイサミを余所に、浴衣をキャッチしたルルはビシッと敬礼をして見せる。そうしてスミスは全裸のまま、広場の中心に仁王立ちした。そこでやっと、イサミは彼が何をするつもりなのか理解する。
    「勇気……爆発だ!!」
     スミスの雄叫びと共に、彼の翠色の瞳が輝きを放った。
    「バカやめ──」
     イサミが止めに入るのも間に合わず、眩い光が辺りを照らすのと、夜空に大輪の花が咲くのはほぼ同時だった。

     ──その日。夏祭りに来ていた人々は花火を注視してい
    て、逆方向で花火に負けないほど大きく輝いた9mのロボットに気づくことはなかった。


    「待たせたな、イサミ! さあ早く私の手に乗ってくれ!」
     ブレイバーンはそう言って片膝をつくと、恭しく右手を差し出す。イサミは暫し呆然としていたが、我に帰ると怒鳴り声を上げた。
    「お前、花火見るためだけにブレイバーンになるなよ!」
    「イサミ話はあと。花火終わっちゃう〜!」
    「ッああもう、仕方ねえな……」
     ルルに背中を押されて、イサミは彼女と共にブレイバーンの手によじ登る。ブレイバーンは両手で優しく二人を包み込み腕を持ち上げると、ちょうど花火が見やすい高さに固定した。
    「どうだ。これならよく見えるだろう?」
     彼の言葉に促されるままイサミが空を見上げると、彩り鮮やかに花火が咲いては散っていく。眼下には、祭会場の屋台と提灯の柔らかい灯りが広がっていた。花火と灯りのコントラストが美しく、幻想的な光景に目を奪われる。なるほど、確かにこれは特等席だ。
    「ああ……綺麗だな」
     イサミは深く頷き、感嘆の溜息を吐き出した。花火に照らされた彼の横顔を見て、ブレイバーンは静かに目を細める。
    「そうだな……とても、美しい」
     花火よりも、君の方が。思わず口をついて出そうになった言葉を寸でのところで飲み込むと、ブレイバーンは誤魔化すように咳払いをした。

     花火がクライマックスを迎え、辺りがより一層明るくなる。咲き乱れるそれが散ると共に、ブレイバーンは二人を降ろして元の姿に戻った。
     スミスはルルから服を受け取り、急いで袖を通す。彼に変身する度に服が消えてしまうのだけはどうにかならないものかと、スミスは常々思っていた。
    「スミス……」
     低い声に呼ばれ、びくりと肩を揺らす。恐る恐る振り向くと、イサミがじっとりとした眼差しでこちらを睨みつけていた。怒られるかもしれないとは覚悟していたが、やっぱり駄目だったか。スミスが両手を上げて降参の意を示すと、イサミは溜息をひとつ零しただけに留めた。
    「まぁ……バレちまったときは一緒に怒られてやるよ」
    「! イサミィ……!」
     イサミの優しさに、スミスは胸がきゅうと締め付けられるのを感じた。愛しさが込み上げてきて、思わず抱き締めようと手を伸ばす。
    「ただし、次はちゃんと相談してからにしろ!」
     しかしそれはあっけなく躱され、デコピンを食らってしまった。
    「Ouch! ……Sorry、イサミ」
    「ったく……」
     額を抑えながら謝罪すると、イサミは眉を寄せて笑った。二人のやりとりを見守っていたルルは、笑みを深くする。
    「ルル、すっごい楽しかった! またみんなでお祭り行こうね!」
    「……そうだな、来年も来よう。ルル、スミス」
    「ああ!」
    次に来る夏は、一体どんな思い出になるのだろうか。みんなで過ごす未来のことを考えると、スミスは胸が高鳴った。

    ***

    「ルルのやつ、すっかり寝ちまったな」
    「はしゃぎ疲れたんだろう。よく眠っているよ」
     宿泊先の旅館に戻り、温泉を堪能すると、ルルは電池が切れたように眠ってしまった。今は寝室で、ぬいぐるみを抱きながら穏やかな寝息を立てている。
     イサミとスミスは、彼女が起きてしまわないように声を潜めて言葉を交わした。
    「改めて、誕生日おめでとう。イサミ」
    「それ、日付が変わった直後にも聞いた」
    「何度言ったって足りないくらいさ。君が生まれたこの日を、俺は心から祝福したい。……俺の一番大切な人、生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、ありがとう」
    「大袈裟なヤツ……」
     イサミはそう言って照れ臭さを誤魔化すように視線を逸した。しかし、その口元は嬉しそうに緩んでいる。
    「今日は本当に俺がやりたいようにさせてもらったんだが……イサミはどうだった? 楽しんでくれたかい?」
    「ああ。楽しかったよ、すごく。……いつも俺を喜ばせようとしてくれるのも嬉しいけど、俺はお前やルルが楽しそうにしてる姿を見るのが、一番嬉しい」
     最大級のデレを投下されて、スミスは危うく卒倒するところだった。いや、なんならちょっと意識が飛びかけていた。ゆっくり深呼吸すると、隣のぬくもりを抱き締める。
    「ありがとう。俺も、君たちが幸せでいてくれることが、一番嬉しい。……来年も、再来年も。ずっとこうして祝おう」
    「おう。約束だ」
     どちらともなく顔を寄せて、唇を重ねる。触れるだけの幼いものだったが、十分すぎるほどに幸せだった。
    「……そろそろ寝ようか」
     名残惜しい気持ちを押し殺して身体を離す。しかし、イサミがスミスの浴衣の裾を掴んでそれを引き止めた。
    「イサミ?」
    「…………ここ、客室にも露天風呂が付いてるだろ」
    「えっ、あ、ああ。確かにあるけど。入ってから寝るなら、俺は先にFUTONに……」
     意図が読めずに困惑すると、イサミは不機嫌そうに唇をへの字に曲げた。何か言いたげに口を開きかけては閉じ、視線を彷徨わせる。そこでスミスは、ある可能性に思い至った。
    「……一緒に、入りたい?」
    「……ん」
     恐る恐る問いかけると、彼は拗ねた子どものようにそっぽを向いて、小さく頷いた。あまりのいじらしさに今すぐ押し倒してやりたい気持ちに駆られるが、スミスは鋼の理性でそれを抑え込んだ。気持ちはとんでもなく嬉しいが、彼の誘惑に屈する訳にはいかない。
    「それは……すごく、すごく魅力的なお誘いだけど……ダメだ。二人っきりでONSENなんて、我慢できる自信がない。隣でルルが寝てるんだぞ」
    「誰が我慢しろっつったよ」
     イサミは不貞腐れたような顔をすると、スミスに詰め寄って胸ぐらを掴んだ。突然のことに驚く間も無く、そのまま引き寄せられて唇を重ねる。舌がぬるりと滑り込んできたが、不安げに触れるそれはどこか遠慮がちで、初々しい。
    「ッんん……、は……ぁ……」
     軽いリップ音を立てて、唇が離れる。心臓の音が外に聞こえるんじゃなかろうかという程に暴れ回っていた。
    「声は……正直抑えられる自信がねぇ、けど。こうやって塞いどきゃ、大丈夫だろ。……だから」
    「い、さ……」
    「誕生日なんだろ。俺の欲しいもの、くれよ」
    「──ッ、君、どこでそんなこと覚えて来るんだ……!?」
    「お前」
    「Oh……I'm so sorry……」
     スミスは天を仰いだ。この小悪魔の誘惑に、どう抗えと言うのか。いや、抗えるはずがなかった。
    「どうなっても知らないからな……」
     低く唸るような声で答えると、スミスはイサミを抱きかかえて浴室へと消えて行った。

    ***

    「ルル、大人のれでぃだから空気読める。けど、スミスもイサミも、場所とタイミングは選んだ方がいいと思う」
     夜明け近くまで睦み合った翌朝。なかなか起きない二人を叩き起こしたルルに遠い目と声で諭すように言われ、スミスとイサミは揃って「ごめんなさい」と謝るのだった。
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