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    アキラ

    一次創作メイン

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    アキラ

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    テキスト投稿テスト

    ##創作
    #一次創作
    Original Creation

    分かれ道にて


    「右よ!」
    「いいや、左だね」

     分かれ道の真ん中で、少女と少年が向き合い、言い争っていた。
     少女は目尻がややつり上がった大きな目を更につり上げ、細い腰に両手を当て、聞き分けのない子供に言い聞かせようとでもするように身を乗り出す。
     顎の線でふっつりと切った華やかな濃い金髪がふわふわと巻き上がって横に広がり耳を覆っているが、尖った耳朶の先がちょんと髪から突き出ていた。

    「いーい、ミー坊。ワタシはミー坊のママがそのまたママのお腹にもいなかった時からこの世界にいいるのよ。黙ってお姉さんの言うことを聞きなさい」
    「ミー坊っていうな! ミーミルだっていってんだろ! だいたいクランベリの言うことで正しかったことなんて今まで1回でもあったかよ!」

     言い返すのはそろそろ青年になりつつある年頃の少年だった。やや細身ながらも健康に成長した体は将来性を感じるが、今の時点では少女より少しだけ上背が勝る程度で、明るいさらさらした栗色の髪や大きめのヘイゼルの目がなるほど「坊」と言いたくなる雰囲気を作っていた。
     少女は若草色の瞳を細くし、顎を上げて少年を見下ろすように体を反らす。

    「ふーん、じゃあなに、ミー坊はワタシがウソツキだとでも」
    「誰もそんなこと言ってないだろ!」

    「……なあ、あれいつ終わるんだ?」

     言い争う2人から少し離れた道の脇で、草地に腰を下ろした男は膝に頬杖をつき、ぼんやりと呟いた。
     濃い焦げ茶の髪に砂色の瞳が南方生まれであることを物語っている。腰に長剣を帯び、飾り気のない実用的な黒い胴着に革の籠手を巻いた出で立ちは剣士のそれで、荷物袋を横に置いて退屈そうに2人を眺めていた。

    「さあ。ミーミルが真理のひとつに気付いた頃じゃないか?」

     剣士の問いに答えたのは、その隣に同じ様に腰を下ろした男だった。
     薄い金髪に陽焼けのない白い肌で、銀で縁飾りを刷り込んだ白いマントにくるまっている。マントの間から見える丈の長い上着は白地に青色の刺繍を付けたもので、その意匠はバルドール神官を思わせた。
     心持ち目尻の下がった薄い青の目は愛嬌があり、微笑ましげに2人を見守っている。

    「なんだよそれ」
    「女が確信を持って何か言ってる時は真正面から否定してはいけない、ということだ」
    「ああ。しょうがねえガキ共だ」

     剣士は大きく嘆息すると、脇にあった荷物袋を漁り、林檎をひとつ取り出した。
     腿のベルトに差してあった片刃のナイフを抜き、器用に剥き始める。
     剥き終わると手の中でこれまた器用に割り、ナイフを置くと小片になった林檎をひとつ摘み、隣の神官に突き出した。

    「ほら」

     突然目の前に林檎を突き付けられた神官は瞬きをして林檎と剣士の顔を見比べる。

    「お前が食うんじゃないのか?」
    「てめえで食うなら皮ごと囓るさ。お前に食わせるから剥くんじゃねえか」
    「そうなのか」
    「そうなんだよ」

     ほれ、と促され、神官は軽く礼を言うと林檎を取ろうとして片腕をマントの下から持ち上げようとした。
     が、剣士の不機嫌そうに寄せられた眉に気付いて手を止める。
     そして内心嘆息すると腰を屈め、やや遠目に突き出された林檎に、軽く顔を傾けて目を閉じ、直接噛みついた。
     上下の歯を食い込ませて押さえると、そのまま上体ごと引く。
     林檎は剣士の指を離れて神官の口内に納まった。
     途端に機嫌良くなった剣士はもうひとつ林檎を取るとまた同様に突き出す。
     餌付けでもしている様な調子だった。

    「……バカップル」
    「往来で何いちゃくらついてるんですか! 大のオトナが恥ずかしい!」

     いつの間にか口論を止めた少女と少年が、揃って2人の方を見ていた。

    「んなこと言ったってヒマでしょうがねえんだからしょうがねえだろ。おい、それ以上続けるんならオトナはオトナ同士、後ろの森で別のお話をしてくるが」
    「バールの変態ッ。どうして人間の男って下半身でしか物事を考えないのッ」
    「僕を一緒にするなよ!」

     すかさず少年が訂正を求める。

    「俺も一緒にするな」

     神官も訂正を求めた。

    「お前まで言うか」
    「やだ! シリンさまは人間じゃないじゃない!」
    「……そう言われると、一緒にして欲しい気がするもんだな……」

     複雑そうな表情を浮かべる神官の肩を叩くと、剣士はまた林檎を出した。

    「お前こそまだやるか」
    「俺は今、猛烈にお前に林檎を食わせたいんだ」
    「バールの変態ッ」
    「どうしてもっとこう、普通にいちゃつけないんですか貴方は」
    「普通にいちゃついていいのかよ」
    「駄目です!」
    「どうしろと」
    「とりあえず、林檎を食べてしまおう」

     神官が手招きすると、少女と少年はハーイと返事し、素直にトコトコとやってきた。そして剣士の手の上の林檎に手を伸ばす。

    「で、どっちが正しい道なんですか?」

     少年が林檎を飲み込んで、神官の方へ向いて尋ねた。少女は既に林檎に心を奪われているようで幸せそうにしゃりしゃりと軽快な音を立てている。

    「どっちも正しいさ。この道は先で合流するんだ」
    「えーっ! なんだあ、そうなんだ……」
    「じゃ、なんで別れてるんですかぁ?」

     林檎で頬を一杯にした少女が尋ねると、神官は腕を上げて道の先を指さし、

    「真ん中に大きな岩があるんだ。2つの道はその岩をそれぞれ迂回しているんだよ」
    「ふーん。人間のすることってわかんなーい」
    「人間が作った道だとは限らないだろ」

     また言い争いを始めかけた少女と少年を、神官は微笑ましげに眺め、剣士はうんざりとして溜息をついた。

    「お前らこそ、これ以上いちゃつくなら置いていくからな」

     剣士は立ち上がると荷物袋を肩にかけ、神官へ手を差し出す。神官はその手を取り立ち上がった。神官のもう一方の腕は一切動くことはなかった。

    「どっち? どっち行くの?」
    「左ですよね!」
    「阿呆。右に決まってんだろ」
    「うあーい! ホラ、ミー坊、ワタシが正しいのよ!」
    「どうしてですか!」

     悲壮な顔して見上げてくる少年に、こんなことぐらいでよくそこまで必死になれるな……と剣士は妙なところで感心しながら腰を屈め、後ろではしゃぐ少女には聞こえない程度の小声で言った。

    「坊主。それがどうでもいい選択なら、まず女の言う通りにしておけ。それも『真理』って奴だ。覚えとけ」
    「よく判らないです……」
    「オトナになるまでに判れよ? でないと苦労するぞ」

     笑いながら歩いていく剣士の後ろを釈然としない顔でついていく少年に、そっと忍び笑いを盛らしながら神官は跳ねる少女に声を掛けた。

    「もう行くぞ、クランベリー」
    「はーい! ねえねえシリンさま、あっちには何があるの? おいしい森はあるかな? 人間の町があるのかな? エルフはいるかな?」
    「さあ。行ってみないと判らないから、行ってみような」
    「うんー!」

     少女は神官のマントの下に潜り込むと、神官の動かない方の腕に両腕を巻き付け、ぶら下がるようにして歩き出した。
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