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    おたぬ

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    おたぬ

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    主人🍁×メイド❄♀(🍁❄♀/彰冬♀)

    幼い日の夢を見る2人の話。

    ⚠️注意⚠️
    ・❄女体化

    波間を揺蕩うような心地良さの中、ボヤけた視界が徐々にはっきりとしてきて、周囲の景色が判然と見えてくる。煉瓦造りの家々に、賑わう通りには露店が並び、野菜などが売られている、この光景は……。

    (……私の小さな頃の夢?)

    ご主人様の住むお屋敷があるのも同じ街ではあるが、私がいたのはもっと貧しい人々が住む区画で、ここはそこのすぐ近くの風景だ。貧民街の近くなど、ご主人様に仕えるようになってからは、一度も来たことはない。ならば、これは夢だろう。

    夢の中で私は動くことはできず、ただ流れる風景をボーッと眺める。

    通りの脇にあるゴミ捨て場に誰かが何かを投げ、ドスッと重みのある音を立ててゴミの上に積み重なった。そのゴミを投げた誰かがいなくなるのを見計らい、そこに1人の少女が現れる。ボロ布を身にまとい、ペタペタと地面を蹴る剥き出しの足は棒切れのように細く、伸び放題の青い髪もあちこち絡まっている。けれど、少女はそんな自分の身なりなど気にする素振りも見せないで、ゴソゴソと新たに加えられたそれを漁り始めた。

    あぁ、そうだったな、と、その様子に私は懐かしさを覚える。

    毎日ゴミ捨て場を巡って、腐りかけだったり、店の廃棄であったり、とにかく食べても死なない物がないかを確認して、何とか命を繋ぐ日々。それが幼い頃の私の日常だった。やはり、これは私の記憶だ。それを確信する。

    目の前の小さな私は食べられる物を見つけられなかったのか、ため息をついてお腹を押さえ、肩を落とす。小さく、キュルル……と体が空腹を訴えて、騒いでいた。しかし、どんなに音を鳴らされても食べ物が恵まれるわけでも、湧いて出てくるわけでもない。小さな私はとぼとぼと歩いて、その場を後にする。

    空腹から体に力が入らないのか、フラ付きながら歩いてたどり着いたのは街の隅で流れる綺麗な小川だった。そこで彼女は手を洗い、紅葉のような手で水を掬うとそれを必死に口に運ぶ。食事にありつけなかった時の最終手段だ。

    冷たいそれが当時の私には何よりも美味しく感じられたのは、今でもしっかりと覚えている。

    「……なぁ、その水って飲めんのか?」

    ぐびぐびと水を胃に流し込んで空腹を誤魔化していると、その背後から少し高い少年の声が聞こえてきた。振り返ると、そこに立っていたのは小さな私と変わらぬ背丈の少年。彼は帽子を目深に被り、さらにその上からフードまでしているため、口元しか見ることが叶わない。「誰?」と言うように、こてん、と小さな私が首を傾げる。

    「……それ、飲めんのかって聞いてんだけど……」

    「もしかして、言葉わかんねぇ?」と少年は困ったように頬を搔く。コツ、コツ、と仕立ての良さそうな靴の底が、石畳にぶつかって小気味いい音を立て、少年は幼い私に近寄ると、傍らにしゃがみ込む。ふわりと、食べ物とも花とも違う、人工的な香りが少年から漂ってきて、世の中を知る術を持たない当時の私でも、それが富裕層が嗜む香りであることは何となく理解できた。そして、この少年の気分ひとつで、自分の命が簡単に失われてしまうのだということも、本能的に察する。

    富裕層、貴族。そう呼ばれる人間にとって、いや、世界にとって、家も血筋も金も持たない孤児など路傍の石以下の価値しかない。彼らの「気に入らない」の一言で、どれだけの奴隷が、貧民が殺されたかはわからない。

    栄養が足りず、ガリガリの体が恐怖に震え出した。

    「……ぁ、ぅ……」
    「…………ん?」
    「……のめ……ます……」

    気分を害さないように、殺されないように、夢の中の私が恐る恐る言葉を返す。少年はその返答に頷くと、小さい私がそうしたように、手で水を掬ってそれを口に含んだ。

    「……ふぅ、久しぶりに本気で走ったから喉乾いてたんだ」

    助かった、と唯一見える口角を上げて笑い、ポケットから取り出したハンカチで手を拭くと、何気ない仕草で「使うか?」とそれを孤児の私に差し出す。綺麗な布を近づけられ、ビクリと肩を跳ねさせた私は、ふるふると首を振ってそれを拒絶した。もしもハンカチが汚れてしまって、それをこの少年が気にしなかったとしても、その親がどうかはわからない。

    (……そう、だった……)

    少年の持つ綺麗なハンカチは、私の命よりもきっと重い。自分の価値を思い出し、ズキリと胸が痛む。

    残り物や余り物が多いとはいえ、毎日美味しい食事をいただき、自室や綺麗な服を与えてもらって、そんな幸福な毎日に忘れていた。ただのメイドだとご主人様には言ったけれど、私はそんな大層なものではない。

    (ご主人様、私は……私、は……)

    あなたを密かに想い、慕うことも許される身分ではなかった。

    (何を思い上がっていたんだ……)

    不意にプツリと目の前が暗転し、別の所に場面が移る。今度は街の通りではなく、どこかの空き地。そこは元々資材置き場だったのか木箱が乱雑に転がっており、その中のひとつにそれぞれ腰を下ろした先ほどの少年と幼い私は何かを話していた。少年はやはりデザインは違えど帽子とフードを被っていて、その顔はわからない。

    しかし、次はすぐにプツリと暗転し、今度は幼い私が少年に手を引かれてどこかの通りを歩いている場面。また暗転し、少年が買ったのだろう露店で売られているお菓子を2人で分け合っている場面。そしてまた暗転し……と、次々に少年との思い出が流れていく。どの記憶も、見れば「あぁ、あったな」と思い出せるものばかりで、私にもご主人様と出会う前にこんな幸せな記憶があったのだな、と感心した。

    プツリと別の記憶が再生される。

    現れた記憶の中では、もじもじと俯いた少年が何かを後ろ手に隠し、視線をあちこちに泳がせている。

    「今日は大事な話があんだけど……」
    「……だいじな、はなし?」

    きょとんとする小さな私のオウム返しに頷いて、少年は意を決したように口を開いた。

    「オレが大人になったら、そしたら……オレと……」

    けれど、少年がすべてを言い終わる前に、私の夢はそこで終わった。



    「……ん、うぅ……」

    小鳥達もまだ目覚めないような時刻。私の意識は覚醒し、むくりと体を起こす。とても、懐かしい夢を見た。小さな頃、数日にわたって現れた1人の少年。名前も顔もわからず終いだった彼は、いったいどこの誰だったのだろうか。

    (……それに、最後のあれは……)

    夢では聞くことができなかった、最後の言葉。あれは、何と言っていたのだったか。記憶の奥を探してもそれに対しての回答となる記憶は残念ながら見つからなかった。暫く考えても出てこない思い出に、まぁ、それならば仕方がないかと、朝の支度をするため、私はベッドから起き上がった。



    (なんだって、昔の夢なんか……)

    何の前触れもなく見た初恋の夢に、オレは起き抜けから気恥しさで顔を覆い、死にそうになっていた。

    あれは屋敷をこっそり抜け出して街に繰り出していた時の夢だ。窓から外に出て、それからとにかく走って、走って、見つからないように遠くに行こうと走って、その先でたまたま出会った1人の少女。みすぼらしい風貌に、すぐストリートチルドレンだとわかったが、声をかけて振り向いた青い髪の隙間から見えた曇りのない水晶のような瞳に、オレは一瞬で恋に落ちた。

    その日からこっ酷く叱られるまでの1週間ほど、オレはその少女に会いたくて毎日街に行って、彼女との逢瀬を楽しんだ。そして告げた、あの約束。

    (……覚えてねぇんだろうな)

    いや、そもそも顔も隠して、名前も教えることができなかったから、彼女はオレが誰だかもわかっていないかもしれない。あの頃のオレは声変わりもしていなくて、再会した時とは違っていた。まぁ、そうだとしても構いはしない。オレが覚えてさえいれば、それでいい。

    コンコンコンコン、と一定のリズムで叩かれる扉と彼女の声に、返事をする。オレの返答があるとは予想していなかったのか、扉の向こうから聞こえてくる動揺にオレは笑って駆け寄り、ガチャリとドアノブを捻った。

    「はよ、冬弥」
    「……あっ、あ……おはようございます、ご主人様」

    相当驚いたのか、あの日と変わらぬ水晶のような綺麗なツリ目をまん丸くした冬弥に悪戯が成功したような気持ちになって、あの頃とは違い指通りのよくなった青い髪に指を潜らせる。

    (オレさえ、覚えていればいい)

    瞼を閉じればすぐに思い出せる、何もわかっていなかった幼い記憶。あの日の約束は、邪魔をするものが多すぎてまだ叶えられていないけれど、いつか、いつの日にか必ず。



    『オレが大人になったら、そしたら……オレと結婚してくれ!』

    思いの丈を叫ぶように、少年は後ろに隠していたブーゲンビリアを少女に差し出して、そう言った。

    『けっこん?』

    少年の告白に、少女は首を傾げる。その単語が意味するものは何となくわかってはいたが、よくて物として扱われ、売り買いされるのが精々の少女には縁遠いもの。だから、少年の言葉を咄嗟に少女は理解できなかった。しかし、そんな彼女の様子にもめげずに少年は頷いて続ける。

    『あぁ、絶対、幸せにするから!』
    『……でもわたし、おかねもってないよ?』

    幸せにする、という言葉には強く惹かれたが、何をするにも必要だろうそれを持っていない自分が果たして幸せになどなっていいのだろうかと、少女は不安になった。

    『そんなのいらねぇよ』

    いつまでも受け取ってもらえないブーゲンビリアを少女に握らせて、少年は少女に誓う。

    『……絶対幸せにするから、大人になったらオレと結婚してください』

    再度告げられた顔も名前も知らない少年の真剣な声色のそれに、小さな胸を高鳴らせた少女は頬が熱くなるのを感じながら、お金がなくても幸せになっていいのなら、とこくんと頷く。すると『約束だからな』と少年に小指を差し出され、少女がよくわからずに戸惑っていると少年に手を取られて少年の小指が少女の小指に絡められた。

    『……やくそく……』
    『あぁ、約束な』

    それは、2人の小さな初恋だった。
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