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    おたぬ

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    おたぬ

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    にょた百合🍁❄
    1日1彰冬の再掲

    ⚠️注意⚠️
    ・両方女体化
    ・モブ視点
    ・❄♀がモブにナンパされる

    学校を終え、僕は自身の影を地面に長く伸ばしながら、夕陽に赤く染められた道を歩いていた。周囲では僕と同じように学校帰りの学生たちが、これからどこに行こうか、あそこに新しい店ができていた、等々談笑に花を咲かせている。普段ならば彼らとは真逆に寄り道もせず、特に買い食いもせずに帰る僕だが、この日は帰路から外れて脇道へ。

    (……え、と、たしかこっち……)

    携帯に映し出されている友人とのメッセージ画面をチラリと見て、そこに書かれている道順の通りに進む。その道は私生活において学校と自宅を行き来する以外の外出をほぼしない僕が初めて歩く場所であった。というか、こんな道あったのか、とすら思っている。

    「……………うわぁ……」

    友人に呼ばれなければ絶対に来なかった。そこを目の当たりにした僕の感想はこれである。夕暮れ時だからそう見えるのか、元々がそうなのか。それはわからないが、僕のような半引きこもりみたいな奴が来るところではないんだとわかる雰囲気。

    (不良とかいそう……)

    全体的にすべてがほの暗く、妙な不安を感じさせる。そんな場所だ。名をビビットストリート、というらしい。僕はよく知らないが。ともかく、早く友人と合流して用事を済ませて帰りたい。切にそう思った。

    (そもそも見せたいものってなんなんだ)

    そう言われてここに来たのだが、まだ友人からは何の連絡も来ていない。事前に来たメッセージには、学校から現在僕がいるところまでの道順と、ここで待っててくれ、とそれだけで、どこに行くとも書かれてはいなかった。

    (まぁ、ここで待っていればいいか)

    場違い感が凄すぎて落ち着かないが、適当にSNSのタイムラインでも見ていればそのうち友人も来るだろう。僕は携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んだ。その時、ひとつの影が僕の横を通り過ぎる。

    影とすれ違う瞬間、甘いような、爽やかなような。ずっと嗅いでいたくなる香りが、僕の鼻腔を擽った。そちらに思わず目をやると、影の正体は1人の女性。濃淡の違う青いツートンカラーの長い髪に、ストリート系のファッション。けれどどこか上品さを感じさせる面持ちの女性だ。歳の頃は僕と同じくらい、だろうか。背丈が女性にしては高く、大人びた雰囲気のためあまり自信は持てない。しかし。

    (…………綺麗……だな)

    こんなに美しい人がこの世界に、それも僕の住んでいる街にいるだなんて。よくテレビで見る女優やアイドル、モデルなんかよりも、ずっと整った顔立ちとスタイルをしているように見える。通りすがりの彼女は僕と同じように誰かと待ち合わせをしているのか、携帯を見てから少し辺りを見回し、それから目の前にあった古本屋の店先に積まれている本を眺め始めた。どうやら待ち人は来ていないらしい。顔の横にかかる艶やかな長い髪を耳にかけ、時おり本を手に取りパラパラと流し読みをしている。たったそれだけで人というのは色気を出せるものなのか。僕は無意識のうちに生唾を飲んでいた。

    先ほどまでこの通りは居心地が悪く、恐怖すら感じていたのに見知らぬ青い彼女がそこに佇んでいるだけで、今はまるで絵画と見紛うほど美しい風景に見える。

    「………?」
    (………あっ……)

    あまりにも見つめたからか、彼女が僕の方へ視線を……。

    「ねぇ、そこの彼女!」

    向けようとしたのと時を同じくして、言葉は悪いがとても軽薄そうな声が僕の耳朶を叩く。あぁ、もう少しで視線を交わせたのに、と残念に思うのも束の間、2人の男がジャラジャラと腰につけたチェーンを喧しく鳴らしながら、彼女に詰め寄っていた。そしてそいつらは彼女を下から上へ、上から下へと不躾に舐め回すように顔を近づけてじっくりと見た後、口を開いた。

    「可愛いね。俺たち暇でさ、よかったら遊ばない?」
    「つーか君おっぱい大っきいねぇ!何カップ?」
    「…………?」

    うわ、頭悪そう。それが、聞いた僕の正直な感想だった。
    直接それを投げられた彼女はと言えば、上手く状況を理解できていないのか、ナンパに慣れていないのか。きょとんとした顔で首を傾げ、男たちを見ていた。僕の位置からでは彼女の横顔しか見えないのだが、眉尻が少し下がって困っているように、見えなくもない。反応が薄いのでわかりにくいが、おそらく嫌がっている、と思う。まぁ、この話しかけられ方では当たり前だろうが。だが、そんな彼女の様子には目もくれず、男はさらに続ける。

    「今からカラオケ行こうよ、俺いい店知ってんだよね」
    「おっ、いーじゃん!」
    「………えっ、あの……こ、困り、ます……」
    「大丈夫だって!何もしないから」

    そう言って、1人は彼女の細い手首を掴み、もう1人は薄い肩を抱いた。そこで初めて彼女はおろおろと目に見えて慌て始めるが、グイグイと肩を押され、腕を引かれて、抵抗は意味を為していない。

    (………さ、さすがにまずいのでは……)

    きっと、止めるべきなのだろう。僕は一部始終を見ていたのだから。しかし、悲しい哉。見蕩れるほどの女の子に出会っても遠目に見ているしかできないチキンには、こんな強引なナンパをやってのける男2人に立ち向かう勇気なんてあるはずもなく。脳が動けと命令をしようとも、僕の足は微動だにしないのである。

    誰か何とかしてくれ。他力本願にそう願った僕の横を、タッタッタッ、と軽快な足音と共に一陣の風が駆け抜けた。すれ違いざまにわかったのは、揺れるポニーテールに纏められたセミロングが夕陽にも負けない橙色だったこと。

    「おい、テメェら!」

    僕にはまったく目も振れず、男たちのところへと駆けたポニーテールの彼女は中々にドスの効いた声で言った。

    「あたしの冬弥に何してんだ」

    橙色の彼女を瞳で捉えた冬弥と呼ばれた青髪の彼女は僕が見てわかるほどに安心した顔をする。2人は知り合いのようだ。

    (……ん?あたし、の?)

    変わった言い方をするな、と僕が引っ掛かりを覚えていると、僕と同じように少々面食らっていた男たちがまたベラベラと喋り出す。

    「え、なに?友達?」
    「へぇ……君も結構可愛いね、一緒にどう?カラオケ」

    人数的にも丁度いいし、と、何が丁度いいんだと聞きたくなるようなことを言い出し、冬弥さんの手を掴んでいた男が彼女から手を離し、今度は橙色の彼女の手を掴もうとしたその時。僕のいる距離では聞こえないとは思うのだが、たしかに、チッと舌を打ったような音が聞こえ、そして。

    「…………えっ」
    「…………は?」
    「…………へ?」

    男たちと僕が目の前で起きたことに間抜けな声を上げた。だが、どうか笑わないでほしい。だって、こんなことが起きるなんて誰が予想できるだろうか。

    (………マジで?)

    今、僕の眼前で橙色と青色、2人の女の子が唇を合わせている。男の手が冬弥さんから離れた隙を見逃さず、橙色の彼女が手を引いて、そのまま僕たちに見せつけるようにキスをしたのだ。

    「………んッ、んん……んぅ……!?」

    おそらく、口付けられている青の彼女もそんなことをされるとは思っていなかったのだろう。白銀の瞳を見開いて驚いた顔をしている。しかし、その銀は次第にまるで合わさった唇の熱でトロリと溶かされるように蕩けていき、やがては瞼の下へと隠された。

    (………う、わぁ……)

    えっっっろい。下手なAVよりもエロいのではないか。思わず前屈みになりつつ、僕は食い入るように彼女らの行為を見つめる。

    「……ん、む……んんッ、ぁうっ、ん♡」

    鼻にかかった冬弥さんの、いやらしさを感じさせる声が甘く僕の耳に届いた。聞いているだけで自然と体温が上がり、男の本能を揺さぶる声。男たちの角度から見えているかは知らないが、僕からは彼女らの合わさった口からチラリと見える赤い舌が激しく絡められているのがはっきりと視認することができる。

    男の手から助け出すため、冬弥さんの左手首を掴んでいた橙色の彼女がスっと冬弥さんの指に触れ、それに気がついた冬弥さんも橙色の彼女に応えて指を絡めて手を握り合う。

    (あぁ、うん)

    キスの時点でそれとなく察してはいたけれど、そうなんだろう。これはどう見たって恋人同士のそれだ。疑いようもなく。

    ナンパ男そっちのけで行われた永遠にも似た一瞬は、ちゅっ、という何とも可愛らしい音で終わりを告げた。離された舌の間を名残惜しいとでも言うように透明な糸が繋ぎ、プツリと切れる。すっかり蕩けた顔になった冬弥さんは白雪のような肌をほんのりと赤く染めて、恥ずかしいのか、力が入らないのか、橙色の彼女に撓垂れ掛かった。自身よりも背の高い冬弥さんに体を預けられた橙色の彼女は、その体を難なく抱き留めて「いきなりしてごめんな」と男たちに向けたものとは比較にならないほど優しい声で謝り、それから。

    「……テメェらが入る隙間なんてねぇってわかっただろ。わかったらとっとと失せろ」
    「……ヒッ……」

    僕の勘違いでなければ、今、この辺り一帯の温度が数度は下がった。同時に、勝手に熱くなっていた僕の股間も可哀想なほど縮み上がった。いや、それはいいとして。ドスの効いた、なんて表現では生温く感じる言葉のナイフを首に突き付けられた男たちはまさに脱兎のように、バタバタとどこかへ逃げて行った。

    (一件、落着……?)

    で、いいのだろうか。
    僕が彼女を見かけ、男たちがナンパに来てからおそらくまだ数分。たった数分のはずなのにあまりにも濃密な時間であった。

    遠くから、おーい、と僕がこうなっているすべての元凶と言っても過言ではない友人の呑気な声が聞こえてくる。やっと来たようだ。手を振ってこちらに走ってくる友人に僕も手を挙げて応える。

    「………彰人、すまない、その……このままだと私、練習に……」
    「集中できねぇ?」

    そして再度彼女らに視線を向けると、抱き合ったまま彰人と呼ばれた橙色の彼女に腰を支えられた冬弥さんは恥ずかしそうに、しかし幸せそうにこくんと頷いていた。

    「じゃあ、練習の前に少しだけ、な」

    あぁ、本当に誰かが入り込む隙間なんて2人の間にはないんだ。つい先刻初めて知ったばかりの僕にでさえそう理解させられる、独特の空気感。

    (なるほど、これがてぇてぇ、ってやつ?)

    彰人と冬弥、か。
    覚えておこう。
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