朝、小鳥のさえずりでもなく、セットしたアラームでもなく。私は頭に走った痛みで目が覚めた。思いつく限り最悪な目覚めに眉が寄ってしまうが、嬉しくないことにそれは覚えのあるもので、私はむくりと体を起こす。
「………いっ、つ……」
ズキン、と走る痛みに米神を押さえて窓に視線を向け、本当に朝なのかと問いたくなるほどにどんよりと雲がかかり、盆を返したように雨が降っている空に、げんなりと私は溜息を吐いた。天気が悪いと頭が痛くなる。昔からそうだった。予定がなければゆっくり休むが、今日は彰人とセカイで歌う約束をしている日。頭が痛いくらいで練習を休むわけにはいかない。薬を飲んでおけば、きっと大丈夫。
そう思って身支度を済ませた私はキッチンで水と一緒に錠剤を飲み下し、曲の再生ボタンをタップした。けれど、その考えが甘かったことを、すぐに実感することとなる。
用事のある白石と小豆沢のいない、彰人と2人で始めたMEIKOさんのカフェにあるスペースでの練習。
(……音が……頭に響く……)
ぐわんぐわんと曲が、音が、脳を掻き回す。薬で押さえ込んでいた初めはよかったのだが、曲数を重ね、時間が経った今はふらつきそうになるのを既のところで足を踏み締めて何とか耐えているという状態にまでなっていた。足下がおぼつかなくなるその度に彰人がこちらを見て、目を細める。きっと、何かがおかしいと気がついているのだろう。
曲が終わり、マイクを置いた彼が何も言わずに私の傍に来て、こちらに手を上げる。
「……あき、と?」
どうしたのだろうか。もしや、痛みに気を取られていたため、練習に身が入らず怒らせてしまったか。
頭痛のせいで上手く働かない頭では彼の意図が読み取れずに首を傾げていると、そっと温かな手の平が額に当てられた。
「…………熱は、ねぇな……」
自身の額にも同じように触れて、険しい顔で彰人が呟く。そのまま暫し考え込んだ彼は、あぁ、と納得したように頷いてから、眉を寄せた。
「悪い、今日は雨だったな」
頭、痛いんだよな。
悔しそうな顔で、大丈夫か、と彰人は私の頭を壊れ物に触れるように優しく撫でる。
あぁ、どうして。痛みを隠して、私が勝手に苦しんでいただけなのに、どうして彰人が謝るのだろう。
「彰人のせいじゃない……私が、勝手に……」
「いや、お前の性格も体質も知ってたのに、気づけなかったオレの責任だ」
彰人に体を支えられて、店内にあるソファに座らされる。途中、MEIKOさんに何かを言っていたが痛みに邪魔をされて、よく聞こえなかった。
隣に腰を下ろした彼の肩に寄りかかり、大きく息を吐くと、また、今度は子供をあやすように、よしよしと頭を撫でられた。朝に飲んだ薬はとうに切れている。なのに、彼の手が触れているところから不思議と痛みが薄れていく。心地よくて、私は思わず、彼の手に頭を擦り寄せた。
「………あきと」
「ん、痛いか?」
「いや……もっと……」
もっと、して?
言ってから、迷惑だったろうかと不安になったが、私の言葉に僅かに固まった彼は、けれど、いつまでもそうしていてくれた。