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    おたぬ

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    おたぬ

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    観用少女パロ
    はじめましての2人

    秋が別れを告げて、冬が姿を見せ始めた季節。どんよりと重たい雲が覆った空の下、コートのポケットに手を突っ込んだ青年は人の波間を行く。彼はつい先程路上で行ったパフォーマンスで数日であればほんの少し贅沢ができるくらいの金を稼いだところであり、懐はいくらか余裕ができていた。

    そんな青年――彰人が、さて、昼食は何を食べようか、とぼんやり考えていると、不意に視界の端へ映ったそれに、ピタリとその足は止まった。流れる川のように行き交う人々の中で急に立ち止まった彼にぶつかりかけた背後の男性が、煩わしそうな視線を彰人に寄越して、波の中へと消えていく。しかし、そんな男性の一瞥は彼には届かなかった。

    彼の心に引っかかった異物のようなそれ。看板もなく、壁に嵌め込まれたガラスは、あえて曇らせることで、外からの視線を遮断している。一見して住宅なのか、店舗なのかもわからない様ではあるが、ドアに掛けられた妙に安っぽいOPENのプレートが辛うじてそこが商いをしていることを教えてくれていた。

    (……こんな店、前からあったか……?)

    何をしているのか皆目見当もつかないそれが、どうにも気になってしまう。フラフラと何かに引き寄せられるように、彰人はドアノブに手をかけた。

    ガチャリ、と押し開けたドアの先。まず感じたのは古い木の香りと、柔らかな照明の光。そして、思わずひと息ついてしまうような、外気とは違う温められた空気である。

    壁沿いにある棚や、背の低いガラスケース達の中にはオルゴールやランプ、時計が並び、どれもこれも、これまで多くの人々の手を渡って長い年月を過ごしてきたことが、素人目でも見て取れた。ここはアンティークショップ、というやつだろうか。そう、彰人は当たりをつけて、なんとはなしに歩を進める。そんなに心惹かれる物ではないもののどこか目新しさを感じ、品々を見て回っていると、窓からの光すら当たらない店内の奥まで来た彰人の目の前に、ひとつの大きなガラスケースが現れた。他と比べ一際大きなそれに、彼は息を飲む。決して、ケースの大きさにではない。その中に収められた物の美しさに、だ。

    外界と隔絶された四角の中で、"彼女"は目を閉じていた。まるで御伽噺のお姫様が、王子様を待つように、瞼を下ろし、丸い猫足の椅子に腰掛けて、そこにいた。長く2色に分けられた不思議な色の髪には癖がなく、下ろされた瞼にはしっかりと長い睫毛があり、シミひとつない白い陶器の肌に影を落としている。ともすれば次の瞬間、パチッと目を開きこちらを見つめてきても違和感もないだろう"彼女"に、飲んだ息を吐き出すのを忘れ、彰人は心を奪われていた。

    ガラスケースの前に立ち、椅子に座っている幼い少女を模した人形を見るため、彰人は身を屈める。椅子が高いせいでぷらりと爪先が宙に浮いた小さなローファーと、フリルがふんだんにあしらわれた黒のドレス。それらを纏った"彼女"はまさしく深窓の令嬢と言って差支えのない品の良さを持っていた。

    (よくできてんなぁ……)

    人形という物の善し悪しなど知りはしないが、それでもこれが素晴らしい出来であることは理解できた。

    (すげぇ、爪までちゃんとある)

    膝に置かれた紅葉の先に、同じように形のいい小さな爪がちょこんと乗っているのに気がつく。最近の人形はここまで人に近づけて作られているのか、と。そう感心したように彰人が顎に手を当てまじまじと見つめていると、不意に、その指先が、ぴくんっ、と跳ねた。気がした。

    「……は?」

    人形とは、いかに精巧に作られていようと、"人形"である。人の形をした物。命あるものではない。目の錯覚か。金の瞳を擦り、再び見てみると、黒の上にある小さな手は微動だにしていない。

    「…………気のせい……か」

    まぁ、そうだろうな。
    ふぅ、と意味もなく安堵の息をついた彰人は屈めていた背を伸ばし、そうして、銀色と目が合った。長い青色の睫毛に縁取られている透き通ったガラスのような……いや、おそらくはガラス玉であろうそれは、間違いなく、先ほどまで瞼の下にあったというのに、今は真っ直ぐに彰人を見つめている。

    ぱちぱち、と少々眩しそうに幾度か瞬いた"彼女"は、けれど、自身が彰人と目が合っていることに気がつくと、ふわりと、それはもう、心の底から嬉しそうに、笑った。
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