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    おたぬ

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    おたぬ

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    観用少女パロ
    初めてのミルク

    ひとり暮らしを想定された小さなキッチンに立ち、彰人は"彼女"専用だという異様に値が張ったミルクを鍋に入れ、コンロに火をつけた。コトコトと冷たかったそれを温めながら、リビングのソファに腰掛けて辺りを興味深そうに見渡している"彼女"を盗み見る。

    (マジでパッと見は人間と変わんねぇんだよな……)

    それでも、齢10かそこらと思われる見た目をした少女は"観用少女"というものに分類される人形である。今日彰人がたまたま立ち寄った店のガラスケースに展示されていた少女は突然目覚め、出会ったばかりの彰人に懐いてしまった。その時は一体何事かと彼は狼狽したが、聞けば、観用少女というのはそういうものであるらしい。人形でありながら、自身で持ち主を選ぶ、生きた人形。つまるところ、彰人は"彼女"に持ち主として選ばれてしまった、というわけだ。

    こうなってしまっては少女は他の客に見向きもしなくなり、彰人のことしか見なくなってしまう。それでは"観用少女"として売り物にならない。

    そんなわけで、あれよあれよと譲り受けてしまった。思い出して、はぁ、と彰人は溜息を漏らし、人肌程度に温まったミルクをマグカップに注ぐ。

    (人形の世話……か)

    ペットの世話もしたことがないのに、生きた人形の世話をすることになるとは。店主に教わった限り、世話そのものは簡単なようだが、ひとつだけ、引っかかるものがあった。

    観用少女に必要なのは1日3回のミルクと、週に1度の砂糖菓子。そして、持ち主からの愛情。それさえあれば、"彼女"達は活動できる、らしい。逆に言えば、それらのどれかが欠けてしまえば、枯れて、死んでしまう。どういう原理かは知らないが。

    (……人形相手に愛情って言われてもな……)

    綺麗なものを綺麗だと思う感性はあれど、人形遊びをするような歳でもなければ、そういう類の趣味も、残念ながら彼は持ち合わせていなかった。温め終えたミルクと、元々家にあった角砂糖を入れたシュガーポットを手に、彰人は人形の待つリビングに足を向ける。

    少女は変わらずソファの上でキョロキョロとしていたが、足音で彰人が戻ってきたことに気がつき、水晶に似た白銀に自身の持ち主を映した。彰人はその視線に応えることもなく、コトリ、と人形の前にあるテーブルにマグカップとシュガーポットを置き、それから小さな体の隣に腰を下ろす。

    「ほら、ミルク温めてきたぞ」

    こんなもので腹が満たされるのか。そもそもなぜ人形に栄養が必要なのか。やはり意味がわからないものの、人間ではないのだから、そこを気にしても仕方がないのだろう。そう割り切ることにして、スっとマグカップを彼女の手の届く範囲に移動させ、飲むように促してみる。すると少女は紅葉のような手を伸ばし、両手でマグカップを持つと、中身をしげしげと見つめてから、人形とは思えぬ柔らかそうな唇をつけ、ひと口、ミルクを飲んだ。

    ゆっくりとマグカップが傾けられ、そして、またゆっくりと戻される。そうして再度マグカップの中身を見つめた人形は、彰人を見上げて、にっこりと、花が綻ぶように、幸せそうに微笑んだ。

    こうして、ふたりの時間は少しずつ、穏やかに動き始める。
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