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    おたぬ

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    おたぬ

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    観用少女パロ
    初めての夜

    寝室の片隅に子供用の寝具を設置し、彰人は明らかに自分が長年使用しているものよりもずっと上質なそれに、ため息をつく。

    (人形のベッドにシルクかよ……)

    少女に温めて飲ませたミルクもそうだが、観用少女用に誂られたものはどれもこれもが高品質であり、贅を極めたものばかりだ。まさに存在そのものが嗜好品。貴族達のお遊びなのだろう。彰人は彼女と暮らすのに必要な最低限のものを特別サービスとして譲ってもらえたが、適正価格で払っていたなら今頃確実に破産していた。そんなものが、どうして己の手元に来てしまったのか。今でも不思議で仕方がない。

    そんなことをぼんやりと考えながら、手触りが良すぎて逆に落ち着かなさそうな、ふかふかの枕をベッドに置き、人形の寝床を用意する。ドレスからパジャマへと着替えた彼女が傍らでそれを楽しそうに見ていた。

    「よし、今日からここがお前のベッドな?」

    ベッドメイクを終え、少女を抱き上げて整えたばかりのそこに座らせると、人形はパタパタと紅葉の手で枕を軽く叩き、その感触を確かめる。暫くそうして、ミルクを飲んだ時と同じ笑みを少女は彰人に見せた。どうやら気に入ってくれたらしい。

    「今日はもう寝るぞ」

    こくん、と少女が頷くのを見て、彰人は立ち上がり、部屋の電気を消してから、自身のベッドに潜り込む。冬の入口に差し掛かった季節、闇の深まった時間に外出する人間はそう多くなく、灯りを消した部屋を静寂が包み込んだ。ずっと1人で暮らしてきたこの場所に、けれど今はもうひとつ、気配がある。

    (なんか、慣れねぇな)

    今日出会ったばかりなのだから、当然ではあるのだが。
    もぞりと身動いで、少し距離を離したところに置かれた小さなベッドに目をやる。シルクの布地にくるまってできた小さな山は、ゆったりとした一定のリズムで上下しており、すぐに眠りについたのだとわかった。本当に人形が眠るものなのか。持ち主からの愛情が必須と言っていたが、そんなものの持ち主が自分で大丈夫なのか。頭の片隅でぐるぐると考えていたが、今のところ異常はないようだ。そのことに少し安堵して、彰人は瞼を下ろした。



    この日は昼間から日がな1日路上で歌い続けて生活費を稼いでいた疲れからか、新たな小さな同居人のことも気にならず、深い眠りの中にいた彰人は、袖口を引かれる感覚に目を覚ました。クイクイ、と、控え目に、しかし自身の存在を伝えようと、何度も何度も繰り返し、寝巻きとして着ているスウェットの袖口を引かれる。彼を眠りから引き上げたのは、考えるまでもなく、あの人形だ。

    目覚めたばかりで重たい瞼を持ち上げて、彼女がいるであろうそこを見ると、やはり、少女は彰人のスウェットの端を一生懸命に掴んで引っ張っている。その表情はこれまで人形が見せていた笑顔とはかけ離れた酷く不安げなもので、それが彰人の心を僅かに引っ掻いた。

    「……どうした」

    静かな部屋に落ちた寝起きの掠れた声に彰人が目覚めたと気がついた人形は、何か言いたげに険しい顔のまま、彼の金色を見つめる。

    「怖い夢でも見たか?」

    人形の心を読む能力などないため、彰人は寝起きの頭で思いついたことを口に出すが、ふるふると丸い頭は横に振られた。

    「……じゃあトイレか?」

    また首が横に振られ、彼女はベッドから持ってきていたらしい枕をギュッと抱き締める。怖い夢を見たでもなく、トイレに行きたいでもないのなら、なんだと言うのか。まだ眠気の海に片足が浸かっている彰人は、それでも懸命に脳を回転させ、人形の顔色を確かめた。切なく眉を寄せ、枕を抱く、その姿を。

    「…………あー……、寂しい、のか?」

    こくん、と今度は首が縦に振られた。
    こんなことで起こしてしまってごめんなさい。そんな声が聞こえてきそうな瞳に、「自分のベッドに戻れ」とは言えず、彰人は大して広くはないシングルベッドへ人形を招き入れるため、ブランケットを持ち上げて隙間を作る。それは正しく少女に伝わったようで、不安げだった表情がパァっと明るくなり、「いいの?」と白銀が問うてきた。

    「さみぃから早く来いよ」

    気兼ねなく来れるようそう言うと、人形は慌てた様子で枕をベッドの上に置き、彼の温もりで温められたブランケットの中に小さな体を滑り込ませる。シルクの高価なベッドを飛び出してきた彼女は、彰人の腕の中でモゾモゾと動き、落ち着く場所を見つけると安心したように寝息を立て始めた。

    まさかこの歳で人形と寝ることになるとは。よく良く考えれば中々凄い状況だ。そう思いながらも、胸の辺りに添えられた小さな手の平に今まで感じたことのない温かな何かを覚え、彼は再び瞼を下ろした。


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