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    epep3579

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    epep3579

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    例えば君が恋をして(アキウィル)
    アキ(→)←ウィルな両片想い
    アカデミー時代の捏造と、モブがめっちゃ喋る。

    子どもの行動は唐突だ。本人を突き動かした原因なんて、本人以外には分かりやしない。

    その日は雨が降っていた。レンは家族の用事ができて、アキラの家で二人で遊んだ。家の中でできる遊びはとうに尽き、子ども向けの番組もない中帰るには早く二人でぼうっとテレビを眺めていた。
    箱の中の男女は想いを通わせ口付けをする。その表情は幸せに満ちており、輝かしいものに見えた。

    「ぼくもこんな感じになれるのかな」

    ぽつりと溢れた言葉は本心だった。強い大人になって、好きな女性を守れる逞しい男性。今のぼくには程遠い存在。

    「ウィル」

    名前を呼ばれて隣のアキラを見る。「なに?」そう言おうとした口は塞がれてしまい、それ以上音を零すことはなかった。
    小さな水音をたてて離れた唇からは、何も言われない。炎の様に燃える瞳に吸い込まれるように見つめれば、何事も無かったように視線はテレビへと戻る。
    「どうしてキスしたの?」なんて、居心地が悪くて聞けなかった。

    『ヒーロー』を目指すアカデミーに入学する歳になった今でも、その疑問を口にすることはできないでいた。


    ーーー
    「アキラ、ちゃんと宿題やったの?前も提出して無かっただろ」
    「うっ、やろうとは思ってたけど…」
    「けど?」
    「トレーニングに疲れて寝た……」

    予想通りの回答に、呆れから溜息が出る。この前先生から次回提出がなければ単位を落とすと言われたと、アキラ自身が言っていたのを忘れたのか。

    「もぉ〜今回だけは見せてあげるから、ちゃんと提出して!」
    「ウィル…!サンキューな!!」

    アキラは笑顔でノートを受け取り、颯爽と写し始める。次からはもっと前もって釘を刺していかなければならないな。
    予鈴が鳴り席に付けば、隣の席から声を掛けられる。

    「なぁ、ウィルってアキラと幼馴染なんだって?」
    「うん…そうだけど」
    「なんか幼馴染っていうより、アキラの母ちゃんみたいだよな」
    「え…あ、はは…そ、うかな?」

    思いもよらない言葉に喉が詰まる。理由を聞きたいのにその先が出てこなかった。
    その後すぐに授業が始まり、動揺した頭では内容が上手く入って来なかった。
    母親みたいとはどういう事?俺はアキラにちゃんと自立して欲しいだけなのに。
    黒い靄の様な、何とも形容し難い感情に名前を付けられないでいた。



    「なぁウィル。最近アキラから何か聞いてないか?」
    「何かって何…?特に何も聞いてないけど……」

    帰る準備をしていれば、最近アキラと良く遊んでいるクラスメイトに声を掛けられる。漠然とした質問に、心当たりを探そうにも探せない。

    「最近あいつ付き合い悪くてさ…帰りもすぐどっか一人で行っちまうんだよ。用がある〜とか言って」

    その言葉に冷や汗をかいた。脳裏に過るのは不良仲間との関係だ。アキラはまだ彼らとつるんでいるのだろうか。一度死にかけたというのに…

    「俺っ探してー…ぉわっ」
    「なんだお前ら知らないのか?」

    心配になり探しに行くと告げようとした時、後ろから肩に衝撃が走る。どうやら他の男子に肩を組まれたようだった。
    肩を組んできた男子は内緒話をするように、小声で肩を寄せあわせてくる。その顔はニヤついていた。

    「アキラのやつ、彼女が出来たって噂だぞ」
    「かの?!?!むごっ!」
    「こらウィル!声がでかい!」

    衝撃の言葉に思わず声が大きくなり、口元を押さえつけられる。勢いよく押さえつけられた為、口元だけでなく鼻元まで覆われ息苦しさに腕を剥がそうとしても力が強くて叶わなかった。藻掻くも二人は話に夢中で気が付かない。
    酸素不足の頭が警鐘を鳴らす。視界が歪み、意識が遠のく。

    「おい!!何してんだよ!ウィル!!」
    「あ、アキラ?!」

    力強く腕を掴まれ、後ろに引っ張られる。力の入らない体は力学に逆らわず、アキラに抱き止められる。
    急に吸い込んだ酸素に咳込み、それが余計に苦しくて涙が溢れた。

    「ウィルに何しやがった」
    「ち、ちげーよ。別にそんなんじゃ無いって…悪かったよ」
    「……ウィル、来い」

    二の腕を掴まれ足早に教室から出る。整わない呼吸のまま向かった先は保健室だった。
    アキラが保健医に状況を説明して、休ませてもらえる事になった。こういう時は本当に判断が速い。
    強引にベッドに横にさせられ、ティッシュで目元を優しく拭われる。クリアになった視界には、心配そうな顔のアキラが居た。

    「…アキラ、ごめんね」
    「なんでお前が謝るんだよ」
    「だって、心配かけただろ」
    「そんな事で…謝るなよ。それより安静にしてろって」

    アキラに布団を掛け直され、乱雑に頭を撫でられる。それが心地よくてつい目を細めてしまう。アキラは暫くは隣に居てくれるようで、動く気配はない。
    さっきの話、聞くなら今しか無い。

    「あのさ、アキラ。さっき聞いたんだけど、最近放課後にどこか行ってるって…なに、してるんだ?」

    アキラに問えばバツの悪そうな顔をされる。視線は合わさないし、すぐに答えようとしない。
    こういう時は決まって「別に」って誤魔化すんだ。

    「あー…別に」

    ほら、当たった。こんな予想が当たっても何も嬉しくない。先程とは違う理由で目頭が熱くなり、俺も誤魔化すように寝返りを打つ。

    「そっか、俺もう寝るよ。アキラは授業に戻って」

    戸惑うアキラは暫くしてから保健室を出た。こんな悪い空気にしたい訳じゃ無いのに、心にまた靄が増える。

    「あぁ…嫌だなぁ…」

    さっきの噂は本当だったんだ。俺の知らないアキラを知っている人がいる。
    自分の嫌な感情に、側面を見ないように固く目を瞑った。


    ーーー
    夏風が教室を吹き抜ける。日差しを遮るためのカーテンが靡き、透き抜ける青空が覗く。そろそろ夏休みだ。

    「それ絶対好きだって!」
    「え〜、そうなのかなぁ」

    ふと耳に入った甲高い声はクラスの女子たちだ。先程から雑誌を読みながら恋愛話に花を咲かせている。

    「ずっとその人のことを考えていたり、心配になったり、他の人と何してるのかなって気になったり!」
    「「恋だよね〜!」」

    恋…?それが恋?
    その理屈で言えば、俺はアキラに恋をしているということになる。アキラは同性なのに?

    「笑顔が眩しく見えたり、一緒にいたいって思うよね」
    「それ!いろんな表情独り占めしたいとか〜」

    女子の会話に心拍数が上がる。夏の暑さだけでは無い汗が背中を伝う。
    人数の少ない教室から不自然にならない様に、極めて平静を装って鞄を持って出る。
    扉を締めて数歩、どこに行く宛もなく走り出した。取り敢えず人の居ない場所へ、何処でもいいから行きたかった。


    校内を走り回って辿り着いた先は裏庭だ。緑が茂っており落ち着く。校舎の裏側にある事もあり、人気は無い。
    荒い息を肩で整える。足が重たくどこかに座りこもうと周りを伺えば、見慣れた赤が視線を奪った。

    「………アキラ…」

    今まさに会いたくない人だった。先程の会話が頭を過る。何してるのか気になる、独り占めしたい……俺はアキラにとって何になりたいのか。
    一歩ずつ近づけば、アキラは眠っているようだった。木漏れ日がアキラの赤色を照らす。傍に膝をつき、風に靡き乱れた前髪を梳かすもアキラは起きない。
    無防備に開かれた唇に目が行く。アキラはこの口で彼女に愛を囁き、口付けをするのだろう。

    「ねぇ、アキラ…俺、嫌だな」

    鼻の奥がツンとする。滲む視界に情けなく、乾いた笑いが出る。
    俺、アキラのことが好きなんだ。
    いつの日かと同じ様に唇を合わせる。今度は目を瞑って、まだこの唇が顔も知らない彼女に奪われていないことを願った。
    小さく水音が鳴り、口を離す。ゆっくりと瞼を開ければ、耐えかねた雫がアキラの顔に降り注ぐ。歪んだ視界の向こう側に新緑と視線が合う。

    「ーっ!」
    「あっ!こら待てウィルッ!」

    咄嗟に逃げようと立ち上がり切る前に、アキラに手首を掴まれる。この前の保健室の件もそうだが、アキラは意外と力が強い。逃さないと言わんばかりに引っ張られれば、不安定な体勢の俺はアキラの胸の中にすっぽりと入ってしまった。

    「は、離せよっ!」
    「離さねーよ!離したらお前逃げるだろ!」
    「当たり前だろ?!」

    絶対に逃さないと頭と上半身を抑え込まれる。寝てる同性の幼馴染にキスをして、あまつさえ泣いているところも見られて情けなさで穴があったら入りたいくらいだ。暫くどうにかして逃げ出そうともがくが、体力が奪われるだけに終わった。

    「…やっと静かになったか…」
    「………離せよ…気持ち悪いだろ」
    「気持ち悪くねーよ。男だろうが泣くときは泣くだろ」
    「…いや、そうじゃなくて」
    「何言ってるか知らねぇけど。起きたらウィルが泣いてんだから、ほっとくわけ無いだろ」
    「え」

    つまりアキラは寝込みを襲われたことに気がついていない…?
    その事実に体中の力が抜ける。アキラが「重い」だのなんだの言っているが、今はそんな事どうだっていい。

    「もう落ち着いたから良いよ。逃げないし」
    「………いいや、もう少しこのままでいる」
    「なんでだよ……」

    理由を問いてもアキラは一人でうんうんと頷きながら、俺の頭を撫で続ける。時には指で梳かしたり、耳を弄ってくる。

    「…っんぅ、アキラ。それ擽ったい…っ」
    「おっ、おぅ…悪りィ」

    擽ったさに身をよじれば、慌てて手を引くが拘束を解くつもりはないらしい。耳が丁度アキラの胸に当たっているため、鼓動が早いのが分かる。なんでアキラが緊張してるんだよ。

    「んで、なんで泣いてたんだよ。何か嫌なことでもあったのか?されたのか?」
    「うー…んん…別に…そうだなぁ、強いて言うならアキラに彼女ができたことかな」
    「はぁ?彼女ォ?なんの話だよ」

    なんでもない風を装って打ち開ければ、素っ頓狂な声で返される。クラスメイトから聞いた噂を話せば、納得したのか興味を失っていた。

    「別にそんなんじゃねぇよ」
    「じゃあ、最近どこ行ってたの?」
    「今度行くところの下見。週末になったら色んなカフェ行くだろ。まだ行ったことないとこ案内したら、ウィル喜ぶかなって思ったんだよ。でも案外行ったところ多くてな、探すのに時間かかってる」
    「アキラ………」

    予想外だった。いつも文句を言いながら付いてきてくれるから、そろそろ断られるかと思っていた。胸の奥がじんと熱くなり、ずっとかかっていた黒い靄が晴れる。
    黙っていればアキラがソワソワしている。見上げれば「何か言えよ」と目だけで訴えられる。

    「ふふ…ありがとう、アキラ♪」
    「…ぉう」

    嬉しくて笑顔が溢れる。照れくさいのかアキラには目を逸らされてしまった。
    今度は俺がアキラを逃さないように腕を回す。耳元でアキラの心臓が跳ね、腕に力が入る。

    「ね、もう少しこのまま居てもいい?」
    「…勝手にしろ」
    「うんっ♪」

    例えばアキラが誰かに恋をして。俺の想いが邪魔になってしまわないように、この想いはずっと秘めておくことにするよ。だからその時が来るまではずっと傍に居させて欲しい。
    腕の中にある温もりを噛みしめるように、頬擦りをした。
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    epep3579

    DONE例えば君が恋をして(アキウィル)
    アキ(→)←ウィルな両片想い
    アカデミー時代の捏造と、モブがめっちゃ喋る。
    子どもの行動は唐突だ。本人を突き動かした原因なんて、本人以外には分かりやしない。

    その日は雨が降っていた。レンは家族の用事ができて、アキラの家で二人で遊んだ。家の中でできる遊びはとうに尽き、子ども向けの番組もない中帰るには早く二人でぼうっとテレビを眺めていた。
    箱の中の男女は想いを通わせ口付けをする。その表情は幸せに満ちており、輝かしいものに見えた。

    「ぼくもこんな感じになれるのかな」

    ぽつりと溢れた言葉は本心だった。強い大人になって、好きな女性を守れる逞しい男性。今のぼくには程遠い存在。

    「ウィル」

    名前を呼ばれて隣のアキラを見る。「なに?」そう言おうとした口は塞がれてしまい、それ以上音を零すことはなかった。
    小さな水音をたてて離れた唇からは、何も言われない。炎の様に燃える瞳に吸い込まれるように見つめれば、何事も無かったように視線はテレビへと戻る。
    「どうしてキスしたの?」なんて、居心地が悪くて聞けなかった。

    『ヒーロー』を目指すアカデミーに入学する歳になった今でも、その疑問を口にすることはできないでいた。


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    「アキラ、ちゃんと宿題やったの?前も提出して無かった 4567

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