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一彩くんは、俺がほしいものを沢山持っていた。
例えば。様々な事情はあれど、自分には勤め上げることができなかったユニットリーダーを、彼は立派にこなしている。空手もつい最近始めたと思えないほどの実力があり、1年間必死にやってきた自分とほぼ互角に渡り合える。頭の良さも校内トップレベルで、そういうのがからっきしダメな自分なんかとは比べ物にならない。そして、彼の髪は、生まれつきの赤だった。
俺は一彩くんのことが羨ましく、同時に悔しかった。こんなことをウジウジ考えてしまう自分にも腹が立った。
それでも、一彩くんは俺のことを凄いという。これだけ俺がほしいものを持っているのに。俺よりも、一彩くんの方が、もっと、…ずっと、凄いのに。
そうしていつも、俺は笑顔と友情の下に、一彩くんへの劣等感と焦燥感を抱えていた。だから、
「部長、僕は、……僕は部長のことが好きみたいだ」
彼の、一彩くんのその言葉に。
嬉しさや戸惑いよりも先に、何か嫌な、優越感のようなものを感じてしまった。
「いや、…すまない。気持ち悪かったよね。どうか忘れてほしいよ。」
俺の表情を見て、一彩くんは言った。
一彩くんの声は、震えていた。あのいつも堂々としている、あの一彩くんが。
…俺のせいで。
ゾクゾクした。
彼は、俺に拒絶されることを恐れている。
“俺のことが、好きだから”
今この瞬間、この先の決定権が自分の手の中にある。
「……そんなことないッス。俺、一彩くんの気持ち、受け止めるッスよ」
俺は、最低な人間だった。