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    夜間科

    @_Yamashina_

    落書きをウォリャーッ!ってします。

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    夜間科

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    【主さみ?】くもがいてさみがいない本丸の主が、恋仲だった主と死別した未亡刃(?)サミを拾うSS。独自設定もりもり。

    主が街へ出ると突然雨が降り出した。急いで帰ろうと来た道を引き返すと、妙に目を引く美しい顔立ちの青年が傘もささずに立っている……より正確には、建物の壁にもたれ掛かっている。それが五月雨江だということはすぐにわかった。さっき晴れている間に通った時は、こんなところに刀剣男士は居なかったはずだ。雨脚は強まるが、五月雨江は動く気配がない。
    「君、どうしたんだ。主は?」
    「……頭でしたら、私を置いて逝きました」
    雨に濡れ、藤色の髪から雫が滴り落ちている。主はどうしてか彼に強い憐憫を覚えた。事情を聞けば、彼は所属していた本丸の審神者と恋仲にあったという。しかし審神者は病に倒れ、若くして死んでしまった。本来であれば、審神者が死ねば所持していた刀剣男士たちも死ぬはずだ。だが、近侍として恋刀として主人に仕え、幾度となく身体を重ねてしまった五月雨江には、死んだ審神者の霊力が他の刀より多く流れ込んでしまった。その結果、幸か不幸か彼はこうして生きながらえているようだ。
    「生き残った刀剣も刀解されるはずだけれど……君はどうして、まだ生きているんだ」
    「……頭が……今は亡き主人が、私に最初に与えてくださった任務だからです」
    何があっても、生き延びろ。絶対に死ぬんじゃない。そう言われ続けてこの数ヶ月を生きてきた五月雨江は、偶然が重なり今も生きている。
    「命令は……言葉は、それほどの力を持つのです」
    審神者が死んだ本丸は、政府の手によっていずれ終わりを迎える。その時に、所属する刀剣もみな死ぬ手筈になっていた。五月雨江は主の命令を守るため無人になった本丸を抜け出し、身寄りのないままこの街を彷徨って今に至る。
    「ですが……頭に分けていただいた霊力も、近いうちに尽きてしまいます。いずれ私も‪──‬‪──‬」
    半ば諦めたように語るその顔は、確かに青白い。食事を摂らなければ餓死してしまうのと同じ理屈で、その身体は衰弱していたのだった。囁くようなか細い声は雨音にかき消され、最後の方はよく聞こえなかった。
    見殺しにするのは、あまりに忍びなかった。雨に濡れ、冷えて弱った身体を震わせる仔犬を捨て置けるほど、主は薄情ではなかった。
    「……うちに来ないか」
    「え?」
    五月雨江の目が見開かれる。紫水晶を嵌め込んだような瞳だ。美しい。作り物かと思うほど精巧な顔のパーツひとつひとつに見惚れてしまう。それはどうにかして手に入れてしまいたい美しさだった。この刀に狂わされた、名前も顔も知らない審神者の気持ちが痛いほどわかる。
    「何もしなければ君はここで死んでしまうのだろう?私が連れて帰る」
    「……良いの、ですか。仔犬は……雨に濡れているからといって、軽はずみに連れて帰るものではありませんよ。まして私は、政府のお尋ね者……」
    お尋ね者。おそらく、政府が前の本丸を閉じる処理をしたとき、五月雨江が失踪したことに気付いたのだろう。記憶を辿ると、確かに数日前にそんな情報を瓦版で読んだような気がする。どの刀が行方をくらませたのか、そこまでは記憶にないが、あれは目の前にいる彼のことだったのかもしれない。
    ずる、と布が擦れるような音がした。立っているのがやっとの様子の五月雨江は、虚ろな目をこちらに向ける。端正な顔が苦痛に歪んでいる。霊力切れが近いという先程の言葉は本当なのだろう、熱に浮かされた時のような浅く早い呼吸が聞こえる。言葉というものは、ときに発した者の予想をも超える強大な力を持つ。主はそれを承知していた。
    「早く行こう、本当に死んでしまうよ」
    「……主、さま……わたしはまだ、朽ちるわけには……どうか、頭の命を、……ッ‪──‬‪──‬」
    「!」
    頽れた身体を慌てて受け止めた。息はあるが、声をかけても目覚めない。端末を操作して近侍を呼びつける。その日の近侍は偶然にも村雲江だった。内番のジャージ姿のまま駆けつけた彼は、主が抱きかかえた男を見るなり声をあげた。
    「それって……五月雨江」
    「そうだ。この子は身寄りがない、連れて帰るよ……ただ、重くてね。私一人ではどうにも」
    「身寄りがない?連れて帰るって、そんなこと‪──‬」
    村雲はその続きを言いかけて、やめる。対の者に、何か思うところがあったのだろうか。一切の疑問を胸のうちに押し留め、重たい身体を抱える。びしょ濡れの戦装束は、意識を手放している間も五月雨江の体温を確実に奪っていっているようだ。
    「……わかった、早く帰ろう」



    「…………!」
    五月雨の目がゆっくりと開く。彼が新しい本丸で最初に認めたものは、桜色の瞳だった。
    「ぁ……私……まだ、生きて……」
    「気がついたみたいだね。大丈夫、きみはちゃんと生きてるよ」
    「あなたは……村雲江」
    「うん。主も一緒だよ」
    「….……主さま……」
    間に合わせの霊力供給を行い、衣服を取り替えただけだ。弱っていることに変わりはない。どこかぼやけた頭で、五月雨は新しい主人を呼んだ。
    「今の君には、村雲の霊力を少しだけ分け与えてある。全く無関係の私よりは、馴染みのある刀の方が負担が小さいと思ってね」
    「……ありがとうございます」
    「君がこの先生きていくには、まず私の霊力に身体を慣らさなければいけないね……前の主との結びつきが強いようだから最初は辛いだろうけれど、頑張れるか」
    「ええ……痛みには慣れているつもりです」
    「もうしばらく休んで、落ち着いたら少しずつ試してみようか」
    いつの間にか乾かされていた髪を梳かすように、新しい主の手が五月雨の頭を撫でる。村雲も加わり、五月雨は二人から同時に頭を撫でられていた。
    「よく分からないけど……助けられてよかった。きみのこと、守れてよかったよ」
    「……ふふふ」
    二つの手の柔らかな感触がなぜか照れくさくて、五月雨は蕾が綻ぶように笑った。
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