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    夜間科

    @_Yamashina_

    落書きをウォリャーッ!ってします。

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    DOODLEサミ缶サミ缶とはすなわち、広告の品であった。
    日常的に立ち寄るスーパーで、毎日違うものにラベリングされたその四文字は安さの象徴だ。あるときは肉が、またあるときはアイスクリームが常に資金不足の学生や主婦の注目を浴びる。サミ缶も例に漏れず、黄色と赤の主張の激しい価格表示で売られていた。
    ところで、サミ缶とは果たしてなんなのか?
    フルーツの缶とツナやコーンやトマトの缶のちょうど境目にそれは陳列されていた。大きさは隣に並ぶ桃の缶詰と同じくらいだ。サミとは何か。果物の類なのか、それとも野菜や魚を加工した食品なのか。もしかしてサバの親戚だろうか。イメージ写真の類はなく、製造側の売ってやるぞという気概が一切感じられない。甘さひかえめとか朝食にぴったりとか、キャッチフレーズもない。「これはサミ缶である」以外の情報を徹底的に排した殺風景極まるデザインだ。

    手に取ってみる。それなりに重たく、中身はしっかり詰まっているような印象を受ける。原材料はサミ(遺伝子組み換えでない)とシロップだ。成分表示によるとそれなりにたんぱく質が豊富である。しかしシロップに漬けられていることから察するに、魚や野菜よりは果物寄りの食品 2102

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    CAN’T MAKE「正しい独寝と間違った共寝」
    くも→さみ。主さみを含みます。
    たまに、ひとりで眠る日がある。
    ここに来た最初の日からずっと、ふたつの布団を並べて敷いて眠ってきた。自分が明日着る服や身につける装身具をまとめたその横には、紫色の耳と尻尾が置いてあるのがもはや当たり前の光景になっていた。ただ今日は、布団はひとつで、寒くても温めあえる人はいない。眠るのが怖くても撫でてくれる優しい手はない。孤独のなかで見上げた天井はやたら高い気がして恐ろしかった。

    「今夜は頭と約束がありますので」ーーなんと返すのが正解だったのだろう。村雲はあれこれ考えを巡らせるが、どれも不正解であるように感じる。結局のところ、恋刀でもなんでもない、少し繋がりの深そうな姿で生まれてしまっただけの他人に口出しする権利などないのだ。毎回同じ着地点に行き着いてしまう。

    「わかった、いってらっしゃい」。定型文を焼き増ししたその声はどうしても無機質だ。自分の声を聞くたびに、自分が嫌いになる。あれほど寂しい「おやすみなさい」があってなるものか。いつ何時も、寝る前の一言はささやかな幸せに彩られた七文字であるべきだと村雲は信じていたのに。しかしそれを裏切ったのは五月雨ではないことも、村雲はよく承知して 2213

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    DOODLE「生き急ぎ、浅き春」
    主さみと清光。
    加州から聞かされた。五月雨は頻りに「私は可愛いですか」と問うてくるらしい。
    この本丸最初の刀である加州は、さまざまな刀と交流がある。そしてしばしば頼られる。この本丸のことだけではない。刀づきあいのこと、買い物の相談、いわゆる恋バナまでその話題は多岐にわたる。

    五月雨は恋刀だ。しなやかで美しい、したたかさと儚さの同居する立ち姿。澄み切った感性。素直で健やかな心。揺るぎのない忠誠。冷徹さとぬくもり。好きなところを箇条書きにすれば、きっと余白と時間が足りない。
    顕現してもうすぐふた月。五月雨は概ね愛されていた。江の部屋、短刀の部屋、小規模なネイルサロンが形成された加州の部屋。いたるところに小さな居場所があって、呼びつけるたびに違う部屋にいる。
    そんな彼がこんな主人と契りを結び、夜伽までしてくれるのは、彼なりの忠誠の発露に違いなかった。

    「俺も聞かれるけど、そのたびに『可愛いよ』って返してる」
    「ホントぉ?」
    加州があからさまに訝るが、後から言い訳のように「いや、主のこと信じてないわけじゃなくてさ」と補足がなされた。
    「五月雨ってあれだから、すごく言葉に敏感なんだよね。言葉にこもった気持ち 1634

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    DOODLE「余色、惹かれて」
    猫の日に一日限定で猫になったサミ(とくもさん)。前半はいつもの犬(?)かわいがり事務部屋、後半がたいさみです。
    「にゃー」
    「猫殺しくん?……いや」
    聴き慣れた鳴き声、とは微妙に違う。もっと落ち着いた、深みのある音色だ。しかもここは事務室。何より、その鳴き声は発生源の意思に沿って、意識的に発せられたもののようだった。おそらくそこに呪いは介在しない。
    「五月雨か」
    「ええ、私です。今日は猫の日だと頭から聞いたものですから。雲さんもいますよ」
    五月雨の後ろから顔を出している片割れの姿が見える。目が合うと、先程の堂々とした鳴き声より幾分か小さな「にゃあ」が長義を和ませた。
    「わあ、愛らしい猫が二匹も」
    これは僕の弟だ、きみには渡さない。そんな意味の一瞥を長義にくれてやったあと、松井は二匹の猫を両腕いっぱいにまとめて抱きしめる。松井の体はとても温かいとはいえないが、思いの外逞しくて優しい腕だ。その中で五月雨と村雲は目を細めて笑いあう。
    「お前達、はしゃぐのはいいが自分が受け持った分の仕事くらいは終わったんだろうな」
    「出たよ長谷部」
    「どうして俺達の癒しを邪魔するのかな」
    休憩を許さない事務方のボスに、松井と長義はふたりして白い目を向けた。
    「そういうのは義務を果たしてからやってくれ。それから、手が空い 1650