とある青年の日常カランッ
「あっ」
力を上手く入れられず、手に持っていたバケツを落としてしまい、汲んでいた水が床一面に染み込んでいく。木の板は瞬く間に黒茶色に変化していった。
トムは落としたバケツの取っ手を持ち、元にあった位置に戻しそれを見下ろした。今朝、井戸で汲んできたなみなみと入っていた水はほんの少しだけになってしまっている。料理用レンジの横に立て掛けてあるモップを手に取り、慣れた手付きで床を拭き始める。もう一度井戸に行かなければ、と溜め息を吐いた時。
コンコン
途端、玄関のドアから音が聞こえてきた。トムは顔を上げモップを持ったまま、叩かれるドアに向かって駆け寄ろうとした。すると、ドアの向こう側から聞き覚えのある声が発せられた。
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