縁結び神社の御使い1ねぇ、知ってる?
縁結びで有名な鳳神社があるでしょ?
そこでお参りをした帰りに、犬の吠えるような声が聞こえたら必ず叶うんだって。
「そんな噂があるみたいだよ」
「手助けをしているのは本当だからな」
女子高生達が楽しそうに話している姿を見ながら、司と類は門の近くにある台座に座って話をしていた。
そんな二人に参拝者は気付かない。
なぜなら、彼らはこの神社で祀られている神様の使いだからだ。
「気まぐれだけれど」
「全員の願いを叶えてやりたいのは山々だが、それだとオレ達の力が尽きてしまう」
神様が信仰されている間は司と類に影響は出ないが、力を使いすぎれば人型を保つことが出来ず眠りについてしまうのだ。
「でも、噂話の効果って凄まじいよね」
「昔から参拝者はある程度は居たが、最近は増えてきている」
右の台座に座ったまま司が行き交う人々を眺めていると、左の台座に居た類はふわりと体を浮かせて番の側に移動させた。
「ん、どうしたんだ。類」
「そろそろ、構ってもらおうかと思ってね」
司が参拝者から視線を隣に移すと、類がふにゃりと頬を緩めている。
建てられた当初は友人として付き合いを深めていたが、長い年月を過ごすうちにお互いが大切な存在になっていたのだ。
類は自分の気持ちを受け入れて番になりたいと何度も告げたが、司は神様を裏切る事になるのではないかと考えて首を縦に振らなかった。
その思いを類は否定する気はなかったので、司の気持ちに整理がつくまでは待つつもりだった。
そんな関係が焦れったくなった神様は司を自分の元に呼び、気持ちに素直になりなさいと背中を押した。司は頷いて本殿を飛び出すと、参道を歩いていた類に背中から抱きつき気持ちをぶつけた。
以降は今までの我慢が爆発したかのように、四六時中引っ付いては、ほどほどにしなさいと神様から小言を貰った二人だった。
「司くん」
類から聞こえてきたくぅぅんと甘えるような声に、司は絆されそうになるが参拝者は行き交っている。
「後でな」
「視えないよ?」
「視えていないが、気になるだろう」
司の言い分も分かるが、類に納得が出来るはずもなかった。
「見えなければいいんだよね」
「え、それはまぁ……ぁ!?」
「じゃあ、行こうか」
実体を持たない二人に体重という物は存在しないので、抱き上げたとしても重さを感じる事はない。類は司を横抱きにすると、参道の横にある林へ飛んだ。
「ちょ、類。待て」
「んー、無理」
参道側からは陰になって見えない場所に腰を下ろした類は、横抱きのまま胡座の上に司を座らせる。
「こらっ、ん。るい」
「ほら、こっち向いて」
司の左頬に二、三度と口付けた類は、左手を司の右頬に添えて逃げられないようにすると、口の端に唇で触れた。
「うぅ~、類」
「嫌なんでしょう?」
類は司の望んでいる事に気付いているが、本人から直接言ってほしくて、唇に触れないギリギリの場所に何度も口付ける。
「るぃ~」
もうちょっとかなと、焦らすように触れようとした瞬間。
リンッと鈴の鳴る音が聞こえた。
しまったと類は後悔した。
なぜなら、その音は二人が手助けをする参拝者が現れた合図なのだ。
「類! 仕事だ!」
さっきまでの雰囲気は霧散し胡座から重みが消えて、類の目の前には仕事モードの司が立っている。
「行くぞ!」
「終わったら、覚悟しててね」
大きく息を吐きながら立ち上がった類は、司の後を追い掛けた。