受講している学科の教授に捕まり、いつもよりも帰宅時間が遅れてしまった。精神的に疲れてしまったのか、夕食を準備する気力はない。
デリバリーで何を頼もうかと考えながら解錠してドアを開けると、きちんと並べられた一足の靴。
これは司くんのものだ。
履いていた靴を脱ぎ捨てて、いつの間にか習慣となった手洗いとうがいを済ませリビングへ向かう。
「司くん!」
「おかえり!」
振り向いた司くんは、寧々とえむくんからプレゼントされた一人用のビーズクッションに埋もれていた。
「ただいま」
三日ぶりに見た司くんの笑顔に、萎れていた気分が持ち上がる。
たった三日、されど三日なのだ。
「それ」
「すまん、肌寒くて借りてしまった」
「構わないけれど……」
司くんが着ているのは、高校生の時に使っていたジャージだ。
ほつれや穴開き、目立つ汚れもないから、なんとなく使い続けていた。
ただ袖口は少しだけ伸びていて、捲り上げる時にコツが必要ではある。
「早く着替えてこい」
「うん」
キッチンへ向かう司くんは、落ちてくる袖を何度も上げ直していた。
「むっ、またか」
そんな姿を可愛いなぁと思いつつ、自室へ向かい着替えを済ませる。
バッグから洗濯物を取り出していると、漂ってきたソースの香りにグゥと音が響く。
「焼きそばかな」
天馬家のものは野菜と肉が大きめにカットされてたくさん入っているらしいのだが、僕専用に野菜少なめで肉多めにしてくれている。
その野菜も細かく切ってあり、好き嫌いせずに食べろと言う割には、二口分くらいしか入っていないという幼児もビックリな激甘仕様だ。
「はー……、早く一緒に暮らしたい」
大学進学と同時に提案してみたのだが、自分で稼いで生活出来るまではダメだと保留にされた。
両親に頼ってしまう部分が大きいからだとは理解しているが、今日のようにおかえりと迎えられたいと夢を見てしまう。
「外堀から埋めるしかないないか」
そのためには、咲希くんに協力を仰がなくてはいけない……。
「るいー?」
これからの計画を組み立て始める思考が、司くんの声で途切れる。
「今、行くよ!」
時間はたっぷりとあるから、焦る必要はない。
存分にイチャついたらダメ元で再提案して、返事次第で事を進めればいいのだ。
急いで脱衣所の洗濯かごに洋服を入れて、キッチンへと向かった。